ロシアのプーチン大統領はウクライナ占領地域の併合に動き出しました。欧米、ウクライナ(宇)が非難するのは間違いなく、制裁も強化されそうです。露宇両国の事情に詳しく、ソクラに連載中の西谷公明氏に聞いた。(聞き手は土屋直也)
--ロシアのプーチン大統領がウクライナの占領地域での「住民投票」の結果を受けたと称して、ウクライナ東南部の併合を始めています。どう見ますか。
プーチン大統領は「併合」という形で、成果を出した形にして、ウクライナ戦争を膠着状態に持ち込もうとしているのでしょう。当然、国民の愛国心を鼓舞する効果もねらっているはずですが。実際、ウクライナ東部はこれから雨量が多くなって地面がぬかるみ、軍隊の機動的な移動や作戦の展開が難しい時期に入ります。
さらに冬に近づけば命が危ないほどの厳しい寒さの季節になります。とても戦争を続けられる時期ではないのです。
-欧米、ウクライナは激しく非難すると思いますが。
確かに直後の非難合戦や制裁の追加などはあるでしょうが、むしろ当然で、ロシアにとっては想定済みのことでしょう。ウクライナにしても、併合は認めがたいでしょうが、季節的にも戦線を拡大できる時期ではないうえ、そろそろ弾薬もほぼ尽きている状況ではないかと思います。
米国は9月28日に11億ドルの追加支援を表明しましたが、開戦以降の支援総額は162億ドルであり、追加支援額はスローダウンしています。また、威力を発揮したとされるハイマースをこれまでの16基に加えさらに18基供与するとしていますが、これまでの分は米軍の在庫から出したのに対して、今回分はこれから発注するとしています。つまり、すぐには供与されません。
米国はウクライナの戦力を慎重にコントロールしています。ウクライナも戦える状態ではなく、ロシア、ウクライナ両国の事情をみれば戦況が膠着状態になるだろうと言えます。
――ロシアは核兵器の使用を排除しないと威嚇して言いますが。
併合地域を攻めさせないための威嚇の意味あいが大きいと思います。併合によって、これまでに比べれて使用のリアリティが高まりますが、膠着化させるための抑止力の面がそれだけ強くなるのではないでしょうか。
――動員令でロシア国内も動揺しているように見えますが。
ロシアは冬の間は戦況を膠着させるつもりですから、ただちにウクライナに追加兵力を投入することになならないでしょう。また、もしそうなるとしても、併合地域の防衛戦への配置で、攻略のために前線で戦わせるのではないので予備役で十分と考えているのでしょう。戦場に行かせるわけではないと国内向けには説明を始めるのかもしれません。
ちなみに、動員令は100万人が対象となるという報道ですが、実際に集められる歩留まりは30万人とみて、100万人に通知しようとしているのだと思います。
――動員令へのかなりの反発はプーチンの判断に影響してきますか。
ロシア国内の動揺もありますが、より大きいのは国際的な孤立感ではないでしょうか。サマルカンドで中国の習主席からはやや距離を置かれましたし、インドのモディ首相からも、いまは戦争をしている場合ではないと苦言を呈されました。その面からも、いったんウクライナ戦争を膠着状態という形の一種の「停戦」に持ち込みたいのでしょう。併合は打ってでているのではなく、いったん小休止にするための作業に見えます。
プーチン 併合・核威嚇で戦争膠着化ねらう |
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【ロシア・ウクライナ戦争(番外インタビュー編)】西谷氏「戦争ができる季節ではない。ウクライナも米国がコントロール」
公開日:
(ワールド)
テレビ会議のプーチン大統領(2022年9月29日)=Reuters
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西谷 公明(エコノミスト 元在ウクライナ日本大使館専門調査員)
1953年生、長銀総研を経て1996年在ウクライナ日本大使館専門調査員。2004ー09年トヨタロシア社長。2018年N&Rアソシエイツ設立し、代表。著書に『ユーラシア・ダイナミズム』『ロシアトヨタ戦記』など。岩波書店の月刊世界の臨時増刊「ウクライナ侵略戦争」で「続・誰にウクライナが救えるか」(2022年4月14日刊)を執筆。2023年1月に『ウクライナ 通貨誕生-独立の命運をかけた闘い』(岩波現代文庫)を刊行予定。
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