いかなる戦争にも終わりは来る。
問題は、それがいつ、どのように訪れるかだ。
ウクライナが戦いつづけることができるのは、強力で、かつ効果的なアメリカとNATOによる援護あればこそのこと。兵器の補給がなければウクライナは持ち堪えられないが、アメリカやNATOといえども、永遠にそれをつづけられるわけではない。
それに、“開戦”から4ヵ月が過ぎて、EU(欧州連合)主要国内では“ウクライナ疲れ”や“ゼレンスキー疲れ”の声も囁かれはじめている。EU主要国は対ロシア制裁のブーメラン効果がもたらした物価高に直撃されている。この冬にはエネルギー危機に見舞われるかもしれない。
G7サミット、NATOサミットと、米・欧・日を中心メンバーとする首脳会議が相次いだ。また、それに先立ってEUは、ウクライナを将来の加盟候補国にノミネートした。
一連の会議では、共同声明や首脳宣言が発せられた。
メッセージは常に威勢がいい。
けれども、その内容をよく読むと、G7の首脳同士が「ロシアのウクライナ侵攻に対抗する決意と団結を確認した」ことまではわかるが、それ以上に踏み込んだ言及はない(正確に言えば、機微に触れる内容は公表されていない)。
NATOサミットで決まったことは、将来の防衛力強化が中心で、現下の戦争についての具体的な方策は乏しい。首脳たちの苦悩を推し量るのは私だけではないだろう。
実はこれまでも、ロシアとの相互依存関係を保持したいEU主要国にとって、ウクライナは言うなれば“厄介な国”でもあったのだ。
EUは、マイダン革命の背景にあった、ヤヌコヴィッチ前親ロシア政権下におけるおびただしい汚職や腐敗に目を瞑ってきたし、ロシアがクリミアを武力併合した後は、ロシアに対してその返還を表立って取沙汰することも避けてきた。
他方、ここへ至るドンバス内戦に関しては、ミンスク合意の実施をゼレンスキー政権に迫ることもせず、EU域内へのビザなし入国を認めることで、ウクライナ国民の“ガス抜き”を図ってきた。
ロシアによるウクライナ侵攻は、EU主要国とロシアの関係を決定的に変えた。エネルギー資源の脱ロシア依存をめざすヨーロッパの決意は、いまや不退転のようにみえる。
ロシアはさらに深く傷つき、長く国際社会から孤立するにちがいない。バイデン大統領は秋の中間選挙を見据え、同盟の結束と全体主義に対する民主主義の勝利を訴えて、ロシアをいっそう追い詰めるようとするだろう。
だが、そのアメリカはもはやかつての“超大国アメリカ”ではない。西側世界のより大きな問題が強大化したもうひとつの全体主義大国、中国への対処と、米・中の対立・競争にある点に変わりはない。
結局、この戦争を終えられるのはウクライナ自身ではない。
隠れたテーマは“停戦への道筋”だったはずである。
G7サミットの隠れたテーマは“停戦”だった? |
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【ロシア・ウクライナ戦争(6)】欧州にとってウクライナは前々から厄介な国
公開日:
(ワールド)
G7サミット(2022年6月、ドイツ)=Reuters
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西谷 公明(エコノミスト 元在ウクライナ日本大使館専門調査員)
1953年生、長銀総研を経て1996年在ウクライナ日本大使館専門調査員。2004ー09年トヨタロシア社長。2018年N&Rアソシエイツ設立し、代表。著書に『ユーラシア・ダイナミズム』『ロシアトヨタ戦記』など。岩波書店の月刊世界の臨時増刊「ウクライナ侵略戦争」で「続・誰にウクライナが救えるか」(2022年4月14日刊)を執筆。2023年1月に『ウクライナ 通貨誕生-独立の命運をかけた闘い』(岩波現代文庫)を復刻。
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