ロシアは、これからどうなっていくのか。
手もとに、おなじみのマトリョーシカ人形がある。ただし、みやげ物のそれとはいささか趣が異なる。
外蓋を開けて、中の入れ子をひとつずつ取り出して並べてみる。
プーチン、エリツィン、ゴルバチョフ、ブレジネフ、フルシチョフ、スターリン、レーニン、ピョートルとつづいて、最後に現れるのは米粒大のイワン雷帝。
描かれているのは、紛れもない専制君主国家の歴史そのものだ。
2005年春先に、モスクワ市内の絵画ショップで見つけて購入した。ロシアトヨタへ赴任して一年ほどが過ぎた頃だった。話の種ぐらいのつもりで買ったのだが、れっきとした画家の作品である。
2005年1月、ウクライナの大統領選挙で親欧米派のユシチェンコ候補が勝利した。いわゆる「オレンジ革命」だ。ロシア国内では、これを西側勢力によって扇動されたものだとする官製プロパガンダがいっきにひろまった。
春先には、クレムリンの声がかりで地方の行政単位である「州」が再編されて、知事が公選から大統領の任命によって決まるように変更されるなど、大統領中心の統治を強化する動きが相次いだ。
政治は、強権に基づく中央集権化の方向へはっきりと舵をきっていた。私企業の活動に対しても、経済犯罪の取締りを名目にした強制捜査、許認可の遅れや急な取消しなど、さまざまな形で圧力が加えられるようになってもいた。
近代ロシアの歴史は、一貫して権威主義的な専制君主国家としてのそれだった。上からの垂直的な統治があり、下には上に従う多数の国民がいた。
ウラジーミル・プーチンが、大統領としていつまで持ち堪えられるか?
そこは、わからない。
だが、彼は石油とガスが生む膨大な権益を強権によってつぎつぎと中央に集め、それを上から下へ分配することによって国家としての一体性を回復させ、分裂間ぎわだったロシアを20年かけて強大な中央集権国家に建て直した。
石油・ガスこそは、ロシア経済を支える屋台骨だ。これまでロシアの全輸出額のほぼ半分を占め、輸出にともなう税収は国家歳入の40%前後を担う。
そして、国民の多くが政府の歳費で生計を立て、国営企業から給料を受け取って生活する。年金生活者は言うに及ばない。
強権的な統治と、エネルギー資源の輸出がもたらす巨大な富を一体化させた専制君主国家。プーチン体制とは、経済的に言えば、そういうこと。
このような体制自体は、容易には変わらないのではないか。
歴代「専制君主」のマトリョーシカは何を語る |
あとで読む |
【ロシア・ウクライナ戦争(8)】プーチンが強権とエネ収入で築いた国は簡単には崩れない
公開日:
(ワールド)
歴代トップのマトリョーシカ人形(西谷氏提供)
![]() |
西谷 公明(エコノミスト 元在ウクライナ日本大使館専門調査員)
1953年生、長銀総研を経て1996年在ウクライナ日本大使館専門調査員。2004ー09年トヨタロシア社長。2018年N&Rアソシエイツ設立し、代表。著書に『ユーラシア・ダイナミズム』『ロシアトヨタ戦記』など。岩波書店の月刊世界の臨時増刊「ウクライナ侵略戦争」で「続・誰にウクライナが救えるか」(2022年4月14日刊)を執筆。2023年1月に『ウクライナ 通貨誕生-独立の命運をかけた闘い』(岩波現代文庫)を復刻。
|
![]() |
西谷 公明(エコノミスト 元在ウクライナ日本大使館専門調査員) の 最新の記事(全て見る)
|