“パンダ”(中国)の膝に抱かれる“クマ”(ロシア)のことである。
2014年3月のロシアによるクリミア併合からまもない5月、ロシアと中国は2018年から30年間にわたる空前の規模の天然ガス供給契約に署名した。
半年後には、東シベリアから中国へ天然ガスを送るためのパイプライン建設も始まった。長大な輸送ラインは「シベリアの力」と命名された。
同年11月には、北極圏にちかい西シベリアのヤマル鉱区からの天然ガス供給でも合意した。ヤマルと言えば、くだんのヨーロッパ向けの天然ガスの供給源である。
ロシアは、西側の制裁に押し出されるように中国への傾斜を強めた。いまや中国はロシアの輸出の15%、輸入の24%を占める最大の貿易パートナーである(ロシア連邦税関局統計、2020年実績)。
両国の貿易は今後、ロシアが中国に従属する形でいっそう拡大し、深化していくだろう。
ちなみに、レヴァダセンターの世論調査によれば、中国を「親密な友好国」として挙げる人々の割合(複数回答)は、2010年には20%そこそこだったが、2020年には40%を超えた。
ロシアによるウクライナ侵攻からまもない今年3月の調査では、83%の人々が中国との関係を肯定的にとらえている。ロシア社会における中国のイメージはこの10年で著しく好転している。
他方、貿易の推移をみると、2022年1月から6月まで半年間、中国のロシアからの輸入(つまり、ロシアの輸出)は前年同期比で28%増えたのに対し、輸出(ロシアの輸入)の伸びは2%にとどまった。
制裁に喘ぐロシアにとって肝心な、中国からの輸入が増えないのだ。それでも7月単月では、前者が37%増だったのに対し、後者は22%増に転じてはいるが(中国海関総署統計)。中国は原油の輸入を増やしてロシアを援護しつつも、アメリカの二次制裁を警戒しているのだろうか。
おそらく、それもあるだろう。
だが、それにもかかわらずロシア側では、ロシア中銀が人民元の外貨準備を増やす方針だという。また、クレムリンに近いVTBバンク(制裁によってSWIFTから排除された)が、中国の銀行とコルレス契約に基づいて貿易を決済できるシステムを構築したともいう。
どうやら、ロシアは第3国を経由して、中国から戦略物資(製品、部品、半導体、兵器など)を調達する仕組み、つまり影の輸入スキームを秘かに構築しつつあるのではないか。そう疑ってみたくなる。
プーチン大統領は15日からサマルカンドで開かれる上海協力機構(SCO)首脳会議(サミット)の場をとらえて、習主席と対面での2か国会談をすると発表している。米国をけん制する協調行動をとることが予想されるうえ、2月の北京五輪前の北京会談で合意したロシアから中国への年100億立方メートルの天然ガス追加供給に絡んで、新しいパイプライン建設をモンゴルも含め話し合う可能性もある。
中露の経済を含む連携がさらに進展するなら、西側の経済制裁は完全にしり抜けだ。SOCにはインドも参加しているが、昨年イランが加盟するなど、米国と距離がある国々がほとんどだ。SCOサミットは中露ばかりか、ウクライナ戦争を左右しかねない世界にとっても重要な節目の会合となるだろう。
ロシア、中国からの輸入増えず 第三国経由の影の輸入なのか |
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【ロシア・ウクライナ戦争(11)】中露の経済連携は2014年クリミア併合から
公開日:
(ワールド)
習主席(左)とプーチン大統領=Reuters
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西谷 公明(エコノミスト 元在ウクライナ日本大使館専門調査員)
1953年生、長銀総研を経て1996年在ウクライナ日本大使館専門調査員。2004ー09年トヨタロシア社長。2018年N&Rアソシエイツ設立し、代表。著書に『ユーラシア・ダイナミズム』『ロシアトヨタ戦記』など。岩波書店の月刊世界の臨時増刊「ウクライナ侵略戦争」で「続・誰にウクライナが救えるか」(2022年4月14日刊)を執筆。2023年1月に『ウクライナ 通貨誕生-独立の命運をかけた闘い』(岩波現代文庫)を刊行予定。
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