巨大なメトロポリスは、郊外へいっそう大きく拡がっていた。
新しいハイウェイが完成し、地下鉄網が延び、都心や郊外に真新しい高層アパート群がそびえ、傍にはロシア規格の巨大ショッピングモールができている。
開発は、私の目の前で止まることなく進んでいた。
公園の池のほとりには、遊歩道が整備されてもいた。
社会のIT化と生活のキャッシュレス化も、日本よりずっと進んでいる。
マクドナルドやスターバックス、バーガーキングは、それぞれフクースナ・イ・トーチカ(おいしい、ただそれだけのこと)、スターコーヒー、バーガーヒーローと名称を変えたが、店内はどこもにぎわっている。

モスクワのユニクロ=撮影・西谷
街中の食料品店をのぞいてみた。春先のパニックはすっかり収まっているようだった。インフレ率に合わせて年金や給料も上がった。今では物価も安定し、不動産の価格も安定している。人口1億4000万の約一割を占める富裕層にとって西側の贅沢品は消えても、大多数の国民は困らない。
そのうえ、彼らは我慢することに慣れている。
この半年間以上にわたり、西側は強力な制裁を科してきた。中銀の外貨準備を凍結し、大手銀行をSWIFT(国際銀行間通信協会)から排除した。原油の輸入を停止し、ガスの輸入を削減し、戦略物資の輸出を制限してロシア経済を締め上げた。
他方、10月20日、ロシア財務省は予算の赤字を補填するために、国民福祉基金から160億ドル(約2兆4000億円)を取り崩している。制裁の影響と戦費の増大が理由らしい。
だがそれでも、2022年の財政赤字はGDPのわずか2%に過ぎない。
そしてロシア国内では、制裁対象の銀行が国内経済を普段どおりにまわしている。
ロシアの銀行が発行したものであれば、VISAもMASTERカードも使える。ホテルのロビーでコーヒーを飲む度に、いちいちドルをルーブルに両替して支払うのは、私を含めて西側や周辺国からの旅行者だけだ。
「制裁の影響はこれからです。これまではストックに助けられていました」
友人はそう語る。多分、そういうことだろうと思う。早晩、輸入に依存する産業のほころびが、経済のそこここで現れるにちがいない。
それにしても、である。エネルギーと食糧を自給できる経済は強い、と言わざるを得ない。
ロシア経済の懐の深さと、制裁に抗する耐性を見る思いがした。