ロシア経済は原油・ガス輸出収入の減少と戦費の増加で苦境を呈している(図1)。
2022年当初2ヵ月の財政状況を前年と比べると、歳入が4分の1(24.8%)も減った。最大の理由は原油・ガス輸出収入の半減だ(46.4%減)。西側の制裁が効いている。
かたや歳出は1.5倍以上に急増した(51.5%増)。
その結果、わずか2ヵ月で約340億ドルの赤字を積み上げた。なんと2023年における赤字総額の約90%に相当するという。いまや戦費の増が大きな負荷になっている事情が容易に想像できる。
加えて、ここへきてルーブルも、ウクライナ侵攻前の水準以下に下がりはじめている(1ドル=80ルーブル前後で推移)。
果たして、これはロシア経済崩壊の予兆だろうか。だが、予断は控えたい。
実は、ロシア政府は1月から政府調達(軍需を含む)に対して50%の前払いを実施している。また、東部ウクライナの支配地域でインフラ建設に携わる企業には工費の90%を前払いしている。
そのため、通常は年末に集中する支出の多くが年初に集中した。上記の歳出増の背景には、このような、言わば「ロシア流」の効果もあるだろう。
同時に、ロシア中銀は、ルーブル高からルーブル安へ誘導している節もある。ルーブルを下げれば、歳入増を期待できるからだ。実際、3月には財政赤字が薄まる方向へ好転した。

侵攻後、ルーブルはいっとき急落するも、ただちに持ち直し、夏から秋にかけては侵攻前よりもむしろ高い1ドル=60ルーブル前後で推移。最近では1ドル=75ルーブル前後と、侵攻前とほぼ同水準で取引されていた。
一般的に、通貨の安定は一国経済の健全性を反映する。SWIFT(国際銀行間通信協会)から排除された銀行も、国内では問題なく機能している。西側の金融機関が発行するVISAやMasterカードは使えないが、ロシアの銀行が発行するクレジットカードはふつうに使える。貿易決済もおこなっている。
かくして、ロシアは通貨防衛に成功し、金融システムを維持できたことで、経済がパニックに陥る危機を回避したのだった。
そのうえ対外的にも、2022年の経常収支は2270億ドルという過去最大の黒字を記録した。輸入が激減(対前年比23.5%減)する一方で、制裁が逆に油価の高騰を招いたからだが、それが巨額の戦費を潤したことは言うまでもない(もっとも、この先はそうはいかないだろうが)。
「正直言って、私たちはほとんど困っていません」
3月下旬、東京を訪れたモスクワの友人は筆者にこう述べた。
西側ブランドのシャンプーや高級化粧品は、第三国経由の並行輸入で大量に出回っているそうだ。それに靴やアパレル、スポーツ雑貨などの日用品は、もともと中国製が多かった。極東の港には中国や韓国からの輸入されたコンテナが積み上がっているという。
同じ3月には、全長70キロで、環状線としては世界最長の地下鉄「大環状線」も全線開通した(筆者が昨年10月末に訪れたときは建設中だった)。
たしかに不況ではあろうが、ロシア経済は十分な余力を残している。取引価格は下がっていても、エネルギー資源の輸出は営々とおこなわれている。天然資源と食糧を持てる国は強い、と言わざるを得ない。
ちなみに、その友人は、「残念ながらレクサスの買い替えは叶いませんが」と言い添えることを忘れなかったのではあるが。
注)数字はロシア財務省、ロシア中央銀行による。