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バイデン政権 米軍のアフガニスタン全面撤退見直しも

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【世界を読み解く】タリバン、アフガン政府の交渉進展次第、NATOも全面撤退に慎重

公開日: 2021/01/28 (ワールド)

米・タリバン合意(2020年2月29日)=cc0 米・タリバン合意(2020年2月29日)=cc0

井出 敬二 (ニュースソクラ コラムニスト)

タリバンとの和平は実現できるか

 本年4月末までに米軍含め全外国軍隊がアフガニスタンから撤退する――これは昨年2月29日の米国・タリバン合意の一項目である。

 他方、バイデン政権関係者は、この合意を再検討すると発言している。合意には、タリバンがアフガニスタンでアルカイーダなどのテロリストに活動させないこと、捕虜の釈放、アフガニスタン政府・タリバンによる和平協議開始も含まれている(この協議は昨年9月12日に始った)。

 しかしタリバンの政府側への攻撃は止んでおらず、米軍撤退後、政府軍敗退の恐れがある。バイデン新政権としてアフガニスタンの平和と安全をいかに確保するのか早急に政策を決める必要がある。米・タリバン合意の修正も必要かもしれない。

▼バイデン政権は、米国・タリバン合意を「まず注意深く検討する」

ブリンケン国務長官=Reuters

 1月19日、ブリンケン国務長官は、上院外交委員会での承認公聴会で、「アフガニスタンの戦争を終えたい」と述べつつも、米・タリバン合意について、「まず実際何が交渉されたのか、注意深く見る必要がある」「その中身の詳細を自分(ブリンケン)はまだ知らない」「全面的に合意を検討(アセス)したい」と述べた。

 1月22日、サリヴァン安全保障問題担当補佐官はアフガニスタンのカウンターパートとの電話で、「バイデン政権は、米・タリバン合意を検討(レビュー)する」と伝えた。

 どうやらトランプ前政権から十分な引き継ぎを受けていて、米・タリバン合意を前提に今後の政策を直ちに展開していくという感じではないようだ。

▼トランプ前政権はタリバンと何に合意したのか

 昨年2月29日ドーハで米・タリバン合意が署名された。これはトランプ政権が、アフガニスタンからの早期米軍撤退を実現すべく、まとめたものだ。

PD

 合意は、次の4本柱から成る(4点は相互に条件となり、全てが実現される必要がある)。

  1. タリバンは、アフガニスタン領土が、アルカイダその他により米国とその同盟国の安全に脅威を与えることに利用されないようにする。

  2. 合意後135日以内(=昨年7月中旬まで)に米軍を8600人まで減らす。そして14カ月以内(=本年4月末まで)に米国、その同盟国、有志連合諸国は軍人、顧問、軍事会社、民間人などを全員撤退させることに米国はコミットする。またタリバンが捕らえた1000人の捕虜と、他の側(=アフガニスタン政府)が捕らえた5000人のタリバン兵捕虜を釈放する。釈放された捕虜が米国と同盟国にとり脅威とならないように、タリバン側はコミットする。
 
  3. タリバンはアフガニスタン側(=共和国政府)とアフガニスタン人どおしの交渉を開始する。

  4. 恒久的・包括的停戦は、アフガニスタン人どおしの対話・交渉の議題である。米国はアフガニスタン内政に干渉しない。

 トランプ前政権が従来の方針を変更してタリバンと交渉することにしたのは、タリバンを軍事的に屈服させることができないからだ。タリバンはパキスタンとの国境地帯(国境は不明確でもある)で活動し、パキスタン領に逃げ込んでパキスタン軍の保護も受けているため、米軍としてタリバンを壊滅させることができない。

 米側はポンペオ国務長官―ザルメイ・ハリルザド・米国アフガニスタン和平特別代表のラインでタリバンとの交渉を進めた。ハリルザドはアフガニスタン生れだが、米国で博士号を取得後、大学で教え、その後国務省に入省し、駐イラク大使と駐アフガニスタン大使も務めた。

 アフガニスタン政府は、米・タリバン交渉にも合意にも参加しなかった。

 タリバンとアフガニスタン政府との間の停戦が合意された訳でもなく、戦闘が続いている。また釈放されたタリバン兵捕虜が、再び暴力活動を起こしているとアフガニスタン政府は捕虜釈放合意に不満を表明している。

 それでもようやく昨年9月12日、アフガニスタン政府とタリバンとの間での和平交渉がドーハで始まった。しかし交渉の進捗ははかばかしくない。

 アフガニスタン政府幹部は、1月4日、議会に対する説明でタリバンの動向への懸念を述べた(1月6日付フランス『ル・モンド』紙報道)。

  アフマド・ジア・サッラージシラジ情報機関長官:「タリバンは5月に米軍がアフガニスタンから出て行くまで協議を引っ張るつもりだ。」

  マスード・アンダラビ内相:「タリバンは2021年に本格的戦闘をすべく準備している。」

 この間もアフガニスタン駐留米軍の撤退は続き、1月中旬には2500人まで減少したと言われている。

▼米・タリバン合意への懸念

 ボルトン・トランプ前大統領安全保障問題担当補佐官は、ポンペオ国務長官主導でまとめられた米・タリバン合意に徹底的に批判的である。

ボルトン元安保補佐官=Reuters

 回顧録で、そもそもタリバンは「“交渉相手”として信頼に値する相手ではなく」、米軍の全面撤退により「テロ対策措置を講じる余地が全くなくなる」と懸念し、「今回のタリバンとの合意締結は、アメリカ一般国民にとって許容しがたいリスク」であり、「タリバンを正当化すればISやアルカイダといったテロリスト集団、さらにはアメリカの敵全般に広く誤ったメッセージを発することになる」と書いた。

 昨年11月30日、ストルテンベルグNATO事務総長は、「NATO諸国の軍も5月1日までにアフガニスタンから撤退することになっており、そのため我々にとりジレンマがあり、非常に難しい決定をしないといけない」「タリバンは米国との合意を守っておらず、戦闘が続く危険がある」「我々が撤退すれば、アフガニスタンを我々への攻撃の根拠地としないために国際テロとの闘いで達成したことを危険にさらす」と記者会見で発言した(NATOウェブサイト)。

 英国『エコノミスト』誌(昨年11月21日付)は、
「タリバンは米国への攻撃は止めたが、(アフガニスタン政府への)攻撃は止めたわけではなく、いくつかの地方の占領地を増やした」
「タリバンは、米国との2月の合意は、真剣な交渉のためのチャンスとみているのではなく、カブールの政府を降伏させるチャンスとみている」
「タリバンは、米軍は何があっても撤退するつもりだと考えており、そのことによりアフガニスタン政府軍の崩壊のリスクが高まっている」
「アフガニスタンは再びならず者国家となり、テロリストの天国となりかねない」
「多少の米軍部隊と飛行機が残っていれば、タリバンが諸都市を占領するリスクは低減でき、アフガニスタン政府が真の平和のために交渉する機会を与えるだろう」
と懸念を表明した。

 米国のアフガニスタン専門家のアンソニー・コルデスマンは、昨年11月と12月にシンクタンクCSISのウェブサイトに掲載した論評で、
「アフガニスタンの和平プロセスに関して、米国政府(国防省、国務省、USAID)の情報公開は不十分」
「米国国防省は、アフガニスタン、イラクにいる米軍の人数・機能などの詳しい情報を出していない」
「アフガニスタンのいくつの地域が政府側、タリバン側に支配されているかの情報も出なくなった」
「アフガニスタンの主要な米軍基地や防衛施設の削減の影響についての公的なデータは公表されていない」
「米国政府は、アフガニスタン共和国政府のガバナンス能力(獲得)の失敗、政府の団結、腐敗の問題について沈黙している」
「他国政府を永久に支えることはできなくても、和平努力と米軍撤退に関して正直さと透明性を確保する責任はある」
と厳しく書いている。

 コルデマンは、バイデン大統領は、今後のアフガニスタンの平和と安全にどう関与し。また政府予算への支援をどうするのか等検討すべきと指摘した。

▼国際社会の努力の成果を守るために、米国・タリバン合意の修正も必要か

 日本を含め国際社会はこれまでアフガニスタン政府を支援し、まだガバナンス、腐敗の問題はあるが、民主化、経済復興、人権(含む女性の人権)尊重、国際社会との関係強化などで、相当な成果を挙げてきた。

 中国、ロシアは、米タリバン合意と米軍撤退を歓迎するとともに、無秩序な撤退の結果アフガニスタンが再び混乱することを懸念している。中露が特に懸念するのは、国内(新疆ウイグル、チェチェン等)への悪影響、麻薬持ち込みである。

 中露はアフガニスタン政府ともタリバンとも関係を構築している。特に中国は対アフガニスタン投資(鉱物資源開発、一帯一路のインフラ建設など)で経済的にアピールできる立場にある。

 バイデン政権は、国連、NATOなどの国際社会、中露を含む周辺国とも連携して、アフガニスタン政府・タリバン間の和平交渉がうまくいくように支援し、また今後のアフガニスタンの平和と安全を保障するように、その関わり方を早急に検討し実行する必要がある。

 米・タリバン合意を修正し、たとえばアフガニスタン人どおしの和平交渉の進展を見ながら米軍撤退を実施していく(その結果、場合により4月末までの完全撤退には固執しない)といった対応も必要になるかもしれない。


(参考文献)
ジョン・ボルトン『ジョン・ボルトン回顧録』朝日新聞出版、2020年
“Endgame in Afghanistan: Donald Trump risks handing Afghanistan to the Taliban―Withdraw in haste, repent at leisure”、 Economist、 2020年11月21日
“Le processus de paix afghan en danger face à la pression des talibans”、 Le Monde、 2021年1月6日
Anthony H. Cordesman、 “Failed Reporting and Analysis of the Afghan Peace Process”、 CSIS、 2020年11月18日
Anthony H. Cordesman、 “The Biden Transition and the Real Impact of U. S. Force Cuts in Afghanistan”、 CSIS、 2020年12月1日
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井出 敬二(ニュースソクラ コラムニスト)
1957年生まれ。1980年東大経済学部卒、外務省入省。米国国防省語学学校、ハーバード大学ロシア研究センター、モスクワ大学文学部でロシア語、ロシア政治を学ぶ。ロシア国立外交アカデミー修士(国際関係論)。外務本省、モスクワ、北京の日本大使館、OECD代表部勤務。駐クロアチア大使、国際テロ協力・組織犯罪協力担当大使、北極担当大使、国際貿易・経済担当大使(日本政府代表)を歴任。2020年外務省退職。著書に『中国のマスコミとの付き合い方―現役外交官第一線からの報告』(日本僑報社)、『パブリック・ディプロマシー―「世論の時代」の外交戦略』(PHP研究所、共著)、『<中露国境>交渉史~国境紛争はいかに決着したのか?』(作品)、”Emerging Legal Orders inthe Arctic - The Role of Non-Arctic Actors”(Routledge、共著)など。編訳に『極東に生きたテュルク・タタール人―発見された満州のタタール語新聞』(出版に向け準備中)
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