• tw
  • mail

カテゴリー

 ニュースカテゴリー

  • TOP
  • 独自記事
  • コロナ
  • 統一教会
  • 政治
  • ワールド
  • マーケット
  • ビジネス
  • IT/メディア
  • ソサエティ
  • 気象/科学
  • スポーツ/芸術
  • ニュース一覧

エストニア情報機関、公式報告書で中国への強い警戒感

あとで読む

【世界を読み解く】中国は反発 バルト3国の脅威認識の表れ

公開日: 2021/03/19 (ワールド)

エストニア情報機関の報告書から エストニア情報機関の報告書から

井出 敬二 (ニュースソクラ コラムニスト)

 2月17日、エストニア対外情報局が年次報告書を公表したが、公式の発表文書としては中国に対してかなり厳しい警戒感と脅威認識を記述している。18日、在エストニア中国大使館は、この報告書を「フェイク・ニュース」をばらまくものだと強く非難した。
 しかし、3月3日、エストニア対外情報局のミック・マラン局長は、『ル・モンド』紙のインタビューに答え、改めて対中警戒感を述べた。
 エストニアは元来ロシアに対する強い脅威認識を持っており、2007年に大規模なサイバー攻撃を受け、また2014年のロシアのクリミア侵攻も受けて更にその認識を強めている。IT分野、情報戦・心理戦にも強い問題意識を持っている。そのようなエストニアから見て、ロシアと似たようなふるまいをし、ロシアとの協力を深めている中国に対しても警戒感を強めているようだ。

 他のバルト諸国(ラトビア、リトアニア)の情報機関の報告書でも、エストニアほど突っ込んだ記述ではないものの、厳しい対中認識が見られる。

 2月9日、習近平国家主席は、中東欧17カ国の首脳らとオンライン形式で会談したが、バルト3国を含む少なくとも5カ国は首脳ではなく閣僚レベルで対応した。これは中国・中東欧の枠組での協力に一定の距離をとるとの態度の表明であろう。EUが分断されることを強く警戒しているのだ。

▼「中国から高まる圧力」

 エストニア対外情報局(Foreign Intelligence Service)の2021年版情勢報告書(『International Security and Estonia-2021』)は全文79ページだが、一つの章(「中国から高まる圧力」と題する)、11ページを中国に関する記述にあてている。
 エストニア対外情報局の年次報告書に中国の章が現れたのは、2019年版(中国関連で4ページの記述)が最初であり、2020年版(同10ページ)でも取り上げられた。

 2021年版には中国に関して次のことが書かれている。

 中国の主要目的は、米国と欧州を分断することである。
 分断された欧州は大した敵ではないことを中国はよく理解している。欧州からの批判の声に対して、中国は自らを変えるつもりはなく、その大きさと影響力でもみ消すつもりだ。
 習近平の個人崇拝が強まっており、中国は益々権威主義的体制になっている。
 コロナ・ウイルス禍の下で、中国のプロパガンダはより攻撃的になり、多くの偏ったフェイク・ニュースを拡散している。
 中国国内ではツイッター、フェイスブックは使えないが、中国の外交官やメディア関係者はそれらを国外で利用し、偏見と誤った情報を世界中に広めている。
 中国共産党にコントロールされている中国のメディアは、西側の民主主義をおとしめ、あざけり、中国の権威主義的体制こそがこの感染症に打ち勝てると宣伝している。しかし民主主義的な台湾がこの感染症により良く対処していることには言及しない。
 孔子学院に対する批判を受けて中国は孔子学院本部の名称を変更したが、それは形式上のことに過ぎない。
 個人の自由、香港、台湾、ウイグル、チベットなどの問題について、中国問題専門家が不在のために別の見解が提示されない場合、中国のプロパガンダが言論空間を占拠しかねない。
 戦術的に中国はロシアのプロパガンダのやり方をまねしようとしている。
 中国が技術分野で世界のリーダーになりたいとの野心は、重大な安全保障の脅威となる(サイバー、中国版GPS「北斗」、5G、6G、中国企業と共産党との関係などを記述)。
 中国とロシアは現実主義的なパートナーである。両国は現在は同盟ではないが、中国と西側との関係が緊張すれば、中露は更に緊密になるかもしれない。
 ロシアは次のとおり、中国との関係でロシア自身の利益を守れていない場合もある。
 たとえば南シナ海でロスネフチとベトナムの利権を守れなかった。(訳注:ロシアの企業ロスネフチは、ベトナム沖合でガス田開発をしようとしたが、中国からの圧力を受けて断念したと報じられている。)
 タジキスタンで中国が影響力を増大させていることを、ロシアは阻止できない。
 COVID-19が流行し始めた当時、ロシアのメディアは中国批判を控えた。
 中露間の経済関係で、両国は意識的に米ドルの利用を避けようとしている。もっとも中国が人民元を使うようにロシアに言っても、ロシアはそれには乗ってこないようだ。
 軍事分野では、中国はロシアの戦闘経験、たとえばシリアにおける経験を知りたがっている。ロシアは民間軍事会社設立の経験を中国と共有するかもしれない。中国も海外投資を守る必要があるから。
 ロシアの軍事演習「ザパド2021」に中国が参加するかもしれない。もし参加すれば、NATOを標的とする軍事演習に初めて中国が参加することになる。

▼中国大使館は抗議

 2月18日、中国大使館は、この報告書に対して「強い不満と断固たる反対」を表明した。(在エストニア中国大使館のウェブサイトに、中国大使館の立場が掲載されている。)
 報道によれば中国大使はエストニア政府側に抗議し、報告書の書き直しを求めたが、エストニア側はその要求をはねつけた。

▼マラン・対外情報局長のインタビュー

 『ル・モンド』紙のインタビューで、マラン局長は、ロシアの軍事演習「ザパド2021」への中国の参加の可能性その他、報告書の要点を改めて説明した。
 中国とロシアの対外プロパガンダについても、相互に見解を共有し、おたがい増幅している、その程度は過去になかったほどのレベルに達しており、両国の間で様々な教訓も共有しているのだろうと説明した。

▼他のバルト諸国も対中脅威認識を深める

 ラトビア、リトアニアの情報機関も毎年報告書を出しており、ロシアが常に最大の懸念対象だが、中国についても章を設けないまでも、中国からのサイバー攻撃、プロパガンダ攻勢、重要なインフラ(リトアニアのクライペダ港)への投資関心などを挙げて、対中脅威認識と警戒感を記述している。

 これに対し在リトアニア中国大使館は、リトアニア情報機関の報告書に抗議をし(昨年版について、2020年2月報道;本年版への反応は不明)、また在ラトビア中国大使館は、ラトビア情報機関の報告書に対しての立場を表明した(昨年版について、2020年4月28日、同大使館ウェブサイト;本年版はまだ公表されていないようである)。

 EU、NATO諸国は、国防、治安分野でもちろん情報共有、情勢認識のすり合わせをしている。これら諸国において、厳しい対中認識が共有されていることを指摘できるだろう。

(参考文献)
“International Security and Estonia - 2021”、 Estonian Foreign Intelligence Service、 2021年2月17日

“National Threat Assessment 2021”、 State Security Department of the Republic of Lithuania and Defence Intelligence & Security Service Under the Ministry of National Defense、 2021年3月4日

“2019 Annual Report”、 Constitution Protection Bureau of the Republic of Latvia、 2020年4月

Nathalie Guibert、 “Derrière la menace russe、 l’Estonie observe la Chine”、 Le Monde、 2021年3月3日

続報リクエストマイリストに追加

以下の記事がお勧めです

  • 【世界を読み解く】 トルコはウイグル人に民族的親近感 中国には「デリケート」に対応

  • 【世界を読み解く】 欧米軍艦の南シナ海航行 次々と

  • 井出 敬二のバックナンバー

  • クレディ・スイス発の金融危機 収まらず

  • 日本の盛衰を映し出すソンドハイム作詞・作曲の異色ミュージカル

  • 東芝 JIP買収・非上場化の舞台裏

  • 共産党 京都の「大物」鈴木元氏も除名 

  • プロフィール
  • 最近の投稿
avator
井出 敬二(ニュースソクラ コラムニスト)
1957年生まれ。1980年東大経済学部卒、外務省入省。米国国防省語学学校、ハーバード大学ロシア研究センター、モスクワ大学文学部でロシア語、ロシア政治を学ぶ。ロシア国立外交アカデミー修士(国際関係論)。外務本省、モスクワ、北京の日本大使館、OECD代表部勤務。駐クロアチア大使、国際テロ協力・組織犯罪協力担当大使、北極担当大使、国際貿易・経済担当大使(日本政府代表)を歴任。2020年外務省退職。著書に『中国のマスコミとの付き合い方―現役外交官第一線からの報告』(日本僑報社)、『パブリック・ディプロマシー―「世論の時代」の外交戦略』(PHP研究所、共著)、『<中露国境>交渉史~国境紛争はいかに決着したのか?』(作品)、”Emerging Legal Orders inthe Arctic - The Role of Non-Arctic Actors”(Routledge、共著)など。編訳に『極東に生きたテュルク・タタール人―発見された満州のタタール語新聞』(出版に向け準備中)
avator
井出 敬二(ニュースソクラ コラムニスト) の 最新の記事(全て見る)
  • 【世界を読み解く(38)】ウクライナで「北朝鮮6者協議」の“2番煎じ”を狙う? -- 2023年3月22日
  • 【世界を読み解く(37)】フランスと中国の「政教分離」は異なる -- 2023年3月16日
  • 【世界を読み解く(36)】ロシアは相変わらず強硬、中国はEUとの関係改善を図る -- 2023年3月3日
Tweet
LINEで送る

メニュー

    文字サイズ:

  • 小
  • 中
  • 大
ソクラとは 編集長プロフィール 利用案内 著作権について FAQ 利用規約 プライバシーポリシー 特定商取引法に基づく表示 メーキングソクラ お問い合わせ お知らせ一覧 コラムニストプロフィール

    文字サイズ:

  • 小
  • 中
  • 大
  • 一覧表示を切替
  • ソクラとは
  • 編集長プロフィール
  • 利用案内
  • 著作権について
  • メーキングソクラ
  • お知らせ一覧
  • FAQ
  • 利用規約
  • プライバシーポリシー
  • 特定商取引法に基づく表示
  • お問い合わせ
  • コラムニストプロフィール

Copyright © News Socra, Ltd. All rights reserved