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トルコはウイグル人に民族的親近感 中国には「デリケート」に対応

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【世界を読み解く】引き渡し条約など「中国属国化」批判も 国連での取り組みを提唱

公開日: 2021/03/26 (ワールド)

習・エルドアン会談(2019年7月北京)=Reuters 習・エルドアン会談(2019年7月北京)=Reuters

井出 敬二 (ニュースソクラ コラムニスト)

 トルコには中国から移住したウイグル人が数万人いると言われる。トルコはウイグル人をトルコ人の「兄弟」とみなし深い共感と同情を寄せている。

 他方、エルドアン大統領はこの問題で中国と衝突することは避けており、また中国からのウイグル人テロリスト取締り要求に一定程度応じているとの見方もある。

 トルコ・中国引渡条約が2017年5月13日に北京で署名され、昨年12月26日中国が批准した。トルコも近い将来に批准するのではないかと見られている。

 欧米メディアは、トルコ国内のウイグル人が中国に送還されるおそれありと懸念を表明している。トルコ国内のウイグル人達も送還反対のデモを行っている。

 エルドアン大統領がウイグル人問題にどう対応しているのかを読み解きたい。

▼トルコにいるウイグル人

 ウイグル人は中国での状況に耐えかねて国外に移りトルコに居住する。中国で彼らは旅券発給や自由な海外渡航が認められないため、往々にして非合法の形をとる。

 トルコに何人のウイグル人がいるのかは、3万人とも3万5千人とも、さらには10万人とも言われるが、正確には分からない。トルコ政府も中国を刺激しないように、敢えて人数を発表していないとも言われる。

 少なからぬウイグル人がシリアのヌスラ戦線や自由シリア軍に入り込み、実戦を伴う訓練もしていると言われている(末尾参考文献)。

 トルコで法的な保証もないままに滞在しているウイグル人が多数いる。そして最近第三国(タジキスタンなどの中央アジア)を通じて中国に送還されていると報じられている。いったい何人送還されているのかは不明であり、米国ウイグル人協会などの関連団体も把握していないそうだ。

▼トルコ・中国犯罪人引き渡し条約への懸念

 この条約(中国語で「中華人民共和国和土耳其共和国引渡条約」)によれば、一定の事前に合意された犯罪について、一方が他方に犯罪者の引き渡しを要求すれば、引き渡す義務があるとする。

 政治犯罪については引き渡し義務は無いとするが、当該犯罪者が政府首脳などの殺害を図った場合には政治犯罪とはみなさないとしている。

 条約文の書き方が曖昧だとの指摘もある。

 トルコが中国との引渡条約に批准したら、トルコにいるウイグル人達が中国に引き渡されるのではないかとの懸念が指摘されている。

 昨年12月26日に中国が引渡条約を批准して以来、欧米メディアでは多くの懸念が表明されている(『ガーディアン』12月29日、『ル・モンド』12月30日、『フォーリン・ポリシー』3月2日等)。

 トルコ野党も条約批准に反対を表明している(『アナドル通信』1月27日)。

 米の外交雑誌『フォーリン・ポリシー』(2020年9月16日)は、「エルドアンはトルコを中国の隷属国に変えている」という題の痛烈な文章を掲載していた。トルコが経済困難打開のために中国にすり寄っているという内容だ。

 米国ウイグル人協会のアルタイ会長は『フォーリン・ポリシー』(本年3月2日)で、トルコ在住のウイグル人が2014年以降、トルコ居住許可を取得しにくくなったと書いている。あるウイグル人はトルコで居住許可を得ていたが、2年前に突然拘束され中国に送還されたが、このような例が増えているらしい。

 またアルタイ会長によれば、トルコは2018年に中国から36億ドルの借款を受けており、また2019年には経済安定化のために10億ドルを現金で得た由である。

▼トルコ政府は国連での取り組みを提唱

 トルコ政府要人が新疆ウイグル自治区のウイグル人の扱いについて、どのような態度を表明してきたか振り返ってみよう。

 2009年7月5日、新疆ウイグル自治区の騒擾事件で190人が死亡すると、エルドアン首相(当時)は、「一種のジェノサイドだ」と非難した。

 2012年2月14日、中国とトルコは「国境を超える犯罪への闘いに関する両国政府間の協力に関する協定」を締結した。

 2014年3月と5月、昆明駅と広州駅でウイグル人によるテロ事件が発生した。

 この頃、タイにいるウイグル人達が不法滞在であるとして400人以上が中国に引き渡されたが、中国は彼らが戦闘目的にシリアに渡るつもりだったと説明した。

 2015年7月9日、エルドアン大統領は、アンカラ駐在各国大使を集め、「トルコは、他の兄弟達に寄り添うのと同様に、中国のウイグル・トルコ人にも寄り添う」と題するスピーチを行った。ここで7月末に予定していた訪中の直前に、外交の基本方針を説明した。

 その中でエルドアン大統領は、新疆ウイグル自治区のウイグル人達は、トルコ人にとっての兄弟であり、深い同情の念を述べた。そしてウイグル人達の問題についてトルコは中国側にハイレベルで伝えており、また自分自身の訪中の際にも伝えると発言した。

 7月末にエルドアン大統領は訪中したが、訪中結果を伝えるトルコ大統領府ウェブサイト記事(7月29日)によれば、同大統領は、「我々は対中関係を戦略的観点から見ている」「中国にとって敏感な諸問題に関して、我々はデリケートかつ協力的にふるまうように注意してきたし、今でもそうだ」と発言した。

 このエルドアン大統領訪中の際にウイグル人の問題を扱ったかどうかは、大統領府ウェブサイト記事には書かれておらず不明だ。全く触れなかったとも考えにくいが、デリケートに扱うことにしたということのようだ。

 2016年7月、トルコでクーデター未遂が起き、エルドアン大統領は国内取り締まりを強化するとともに、米国はじめ諸外国にギュレン派の引渡を求めるようになった。

 2017年5月13日、トルコ・中国引渡条約が北京で署名された。

 2019年7月2日、エルドアン大統領は訪中し、北京で習近平主席と会談した。この会談結果を伝える中国側公式発表文(外交部ウェブサイト)は、習近平主席が「テロとの戦い」のための協力を強化すべきとし、また習近平がエルドアン大統領に対して「トルコにおける反中国分離主義活動へのいかなる勢力の参加も許さないと繰り返し表明した」と主張した。

 習近平主席がエルドアン大統領に、トルコ国内にいるウイグル人の取り締まりを強く求めたことがうかがわれる。

 中国側発表文では、エルドアン大統領が「新疆において諸民族は中国の発展と繁栄の中で幸せに暮らしているのは事実だ」「トルコは何人もトルコ・中国関係を挑発することを許さない」と発言したことになっている。

 トルコ側発表文(大統領府ウェブサイト、アナドル通信)はあっさりしており、「トルコ・中国関係の強化は世界的な安定に貢献する」とし、またエルドアン大統領が「一つの中国政策はトルコにとり戦略的に重要だ」と述べたと報じたが、上記のような新疆に関するやりとりは書かれていない。

 2019年2月9日、トルコ外務省報道官は、中国でのウイグル人迫害を批判し、「人類にとっての恥だ」と述べた(トルコ外務省ウェブサイト)。

 2020年10月7日、トルコ外務省報道官は、新疆ウイグル自治区での状況に懸念を表明し、ウイグル人の基本的人権と自由が尊重されるべきと発言し、国連の第3委員会でトルコ代表部がそのような基本的立場を表明したと説明した。

 2020年12月30日の記者会見で、チャヴシュオール外相は、トルコはウイグル人を中国に送り返さないと発言して、ウイグル人達を安心させようとした。

▼トルコなどのイスラム諸国も巻き込んだ多数国間の対応を模索すべき

 エルドアン大統領は、オスマン主義とナショナリズム、イデオロギーと現実主義、右と左、イスラム主義と世俗主義、エリート主義とポピュリズム、個人主義と父権主義など、トルコが過去数世紀にわたり有してきた諸要素を兼ね備えると評されている(エルドアン大統領の評伝を書いたフランス人ジャーナリストのギヨーム・ペリエの評)。

 彼が一方では周辺のイスラム教徒、トルコ系諸民族への共感を隠さず、ウイグル人にも共感・同情を持っていることは、自身の2015年のスピーチで述べたとおりである。

 他方、内政(2016年クーデター未遂、テロ、難民)、外交(シリア、リビア、イラク、欧米)で懸案山積の中で、中国との関係を波立てないようにするとの政策の下、ウイグル人問題をデリケートに扱うことにしているようだ。

 トルコはウイグル人問題を国連で扱う意向を表明している。トルコ(更にできれば他のイスラム諸国)と共に、多数国間でウイグル人の状況を改善する取り組みに日本も貢献できることがあるだろう。

(参考文献)

水谷尚子、「ウイグル人の反中武装レジスタンス勢力とトルコ、シリア、アフガニスタン」、『アジア遊学193―中国リベラリズムの政治空間』、2015年12月25日

Guillaume Perrie, “Dans la tête de Recep Tayyip Erdogan”,2018

Ayca Alemdaroglu, Sultan Tepe, “Erdogan Is Turning Turkey Into a Chinese Client State”,Foreign Policy, 2020年9月16日

Kuzzat Altay, “Why Erdogan Has Abandoned the Uyghurs”, Foreign Policy, 2021年3月2日
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井出 敬二(ニュースソクラ コラムニスト)
1957年生まれ。1980年東大経済学部卒、外務省入省。米国国防省語学学校、ハ
ーバード大学ロシア研究センター、モスクワ大学文学部でロシア語、ロシア政
治を学ぶ。ロシア国立外交アカデミー修士(国際関係論)。外務本省、モスク
ワ、北京の日本大使館、OECD代表部勤務。駐クロアチア大使、国際テロ協力・
組織犯罪協力担当大使、北極担当大使、国際貿易・経済担当大使(日本政府代
表)を歴任。2020年外務省退職。著書に『中国のマスコミとの付き合い方―現
役外交官第一線からの報告』(日本僑報社)、『パブリック・ディプロマシ
ー―「世論の時代」の外交戦略』(PHP研究所、共著)、『<中露国境>交渉史
~国境紛争はいかに決着したのか?』(作品社)、”Emerging Legal Orders in
the Arctic - The Role of Non-Arctic Actors”(Routledge、共著)など。編訳に『
極東に生きたテュルク・タタール人―発見された満州のタタール語新聞
』(2021年出版予定)。
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