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G7が標的にした「一帯一路」 すでに失敗案件も

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【世界を読み解く】投資額は縮小傾向 目の敵にするより協力して途上国支援を

公開日: 2021/06/17 (ワールド)

英国でのG7サミット=Reuters 英国でのG7サミット=Reuters

井出 敬二 (ニュースソクラ コラムニスト)

 コーンウォールG7首脳会議では、中国の“一帯一路”を意識して、低中所得国のインフラ支援していくことに合意した。その焦点の一つはアフリカ支援だが、課題を抱える国は世界中に広がっている。“一帯一路”には様々な問題があり、2019年から中国も軌道修正を試みている。私達はいかなる問題に直面しているのだろうか?

 “一帯一路”とは何か?

 “一帯一路”は2013年秋に習近平主席が発表したイニシャチブである。

 中国は江沢民主席時代から「走出去」とよばれる対外経済進出(対外投資)策を展開しており、それを引き継ぎ発展させたものと言える。また過剰生産能力の“はけ口”を海外に求める政策をとったが、それらの諸政策に新しい“パッケージング”を施して提示したのだ。

 この政策には、2011年11月の米国のリバランシング政策に対抗するとの側面もあり、アジア、ヨーロッパ、アフリカとの関係強化を試みた。習近平は、“一帯一路”の「重点はアジア、ヨーロッパ、アフリカの大陸に向けられる」と発言していた(2017年5月14日「一帯一路」国際協力サミットフォーラム開幕式演説)。更に中東、南米、大洋州等も、その対象に含まれるようになった。

 2014年、中国はアジア・インフラ投資銀行(AIIB)設立を発表し、その当初資金は1千億ドルであり、加盟国は100カ国以上になった。

 “一帯一路”の問題と中国側による修正

 “一帯一路”は曖昧で広大な計画であり、戦略的青写真に基づくというより、個々の関係者の利害で動いている面もあるとの指摘もある。

 2019年頃から、さまざまな批判と問題点に直面して、中国側も調整を強いられている。2019年4月26日、北京で開催された第2回「一帯一路」国際協力サミットフォーラム開幕式演説で、習近平も“一帯一路”について、「高品質」、「腐敗を容認しない」、「持続可能」、「合理的価格」、「緑色(環境配慮)投資原則」等の発言をした。

 中国の対外融資も減っている。中国開発銀行と中国輸出入銀行の2行(“一帯一路”融資の主力)の対外融資は、ピークの750億ドル(2016年)から40億ドル(2019年)に著減した。

 “一帯一路”関連投資額も、減少した。マスロフ・ロシア科学アカデミー極東研究所所長代行によれば、中国からの「一帯一路」プロジェクト関連投(融)資額は、2015年がピークの565億ドル、2018年も528億だったが、2019年には300億ドルに減少した。

 環境保全への配慮も意識されており、“一帯一路”のエネルギー案件で、石炭案件の比率は依然大きいが、エジプト、バングラデシュの火力発電所建設は延期・中止された。再生可能エネルギー案件も増えている(2019年38%→2020年57%)。

 中国国内の雑誌などでは、“一帯一路”に関する記事は多い。その中には次のような諸問題・課題を指摘するものもある(参考文献)。

 COVID-19もあり諸プロジェクトが遅延している(中国・パキスタン経済回廊、バングラデシュの11の架橋案件、ジャカルタ・バンドン高速鉄道、スリランカ・コロンボ港、カンボジア西港経済特区等)。
(その他にも、タンザニア港湾建設の中止、ベトナム地下鉄建設の遅れが報じられている。)

 ▼パキスタン、ジブチ、モルディブ、ラオス、モンゴル、モンテネグロ、タジキスタン、キルギスなどが債務危機に陥った 。

 (その他の報道によれば、GDPの20%相当以上の債務を中国に負う国は、ジブチ、トンガ、モルディブ、コンゴ共和国(ブラザヴィル)、キルギスタン、カンボジア、ニジェール、ラオス、ザンビア)。

 ザンビア通貨が50%も下落したため、中国企業は“損失”をこうむった。ヘッジ手段が欠如している (但し中国・ザンビア取引は不透明であり、価格水増しの疑惑も指摘されている)。

 ▼AIIBの人員・経験不足、ガバナンス、待遇等の問題。

 ▼ 中国からの直接投資に対する外国での規制強化。

  “一帯一路”としてくくられている諸プロジェクトは、確かに多くの問題を起こし続けている。

  米国の外交雑誌『フォーリン・アフェアーズ』誌では、次の問題が指摘されている(参考文献)。

 ●カンボジア政府が中国の影響下で甚しく腐敗している。

 ●反リベラルのハンガリーとセルビアは、中国からの経済便益にあずかりつつ、中国外交を支持している。両国を結ぶ高速鉄道には、コスト、経済合理性で大きな疑問があり、依然秘密に包まれている。ハンガリーは南シナ海問題で、セルビアは香港問題で、中国支持を表明した。

 ●それでも、中国の破壊的活動は、透明性の高い国では成功していない。フィリピンのグロリア・アロヨ政権(2001~2010)下で、中国は16億ドルの鉄道・通信インフラ建設に合意したが、多くは競争入札無しで高額だった。中国国営企業ZTEが請け負ったブロードバンド・ネットワーク敷設は、アロヨ大統領の夫を含む政治家への賄賂で、1億3000万ドルから3億2900万ドルに膨れ上がった。

 だが不正は報道され、世論の反発、上院公聴会(2007~08年13回)で中国企業とフィリピン政治家が追及された。結局、フィリピンでの中国の経済活動は成功ではなかった。ベニグノ・アキノ大統領(2010~16)は、反腐敗を訴えて大統領に選ばれ、前任者よりも北京に対して懐疑的であった。

 ドゥテルテ現大統領(2016~)は中国投資誘致に熱心だが、腐敗追及に熱心な上院と政府機関により牽制されており、南シナ海政策も基本的に従来の政策を踏襲している。

  ヨーロッパの“裏庭”のバルカン半島で

 私はバルカン半島で仕事をしたことがあり、この地域のすべての国を自家用車でドライブし、中国が敷設した道路の上も走ったことがある。

 バルカン半島の一国であるモンテ・ネグロは、高速道路建設のために中国から10億ユーロもの借金をしたが、返済できないのでEUに支援を求めたということである。

 モンテ・ネグロは、その名前(「黒い山」)の通り、山が多い国土である。ロシアとも歴史的に縁が深い。

 モンテ・ネグロは2017年にNATOに加盟しており、EUにもいずれは加盟する可能性がある。EUとして中国からの借金を肩代わりはできないが、モンテ・ネグロへの支援は考えていくのであろう。

 セルビアはEUに加盟したいとしつつも、それが簡単には実現しそうもない中で、ロシア、中国とも良い関係を保ち、独特の外交を展開しているということのようだ。

   まとめ

 “一帯一路”に代表される中国の対外政策で懸念されている諸点をまとめると、次のようになる。

 過大で不透明な債務を途上国に負わせる。昨年11月ザンビアがデフォルトを起こしたが、その他のアフリカ諸国からもデフォルトがでてくると見られている。

 腐敗を助長する(カンボジア、ザンビア、ガンビア、前キルギス首相他)。
 
 補助金を受け取っている中国企業による不透明なビジネス、貿易慣行等が、世界市場を攪乱する。

 メディアに浸透し、世論を操作する(ケニア、カンボジア他)。

 通信情報インフラに浸透する。ファーウェイ(華為)がアフリカの4Gの少なくとも7割を設置したと言われる。監視カメラなどの機器も幅広く提供する。中国製の監視システムを導入する64カ国の内、41カ国は権威主義諸国、23カ国は自由主義諸国である。南・東アジア(20カ国)、中東(19カ国)などだが、フランス、イタリア、ドイツ、オランダなども含まれる。

 ▼プロジェクトの多くを自然保護区で実施し、十分な環境保護をしていない。

 ▼EUやASEANを分断する。

 ▼ 先端技術企業を買収する。

 上述したとおり中国の対外投融資は減少しており、今後当面はその状況が続くだろう。さまざまに引き起こされた混乱の収拾は大きな課題である。

 G7、EUとインド、途上国のインフラ協力(通信分野他)が期待されている。

 途上国の困難を助けるのに、「G7陣営」と「中国陣営」とを対立させる必要はなく、関係国際機関と共に協力する必要がある。

 その観点から、今回のG7の議論を踏まえての協力が進むことを期待したい。

(参考文献)

 鄭健成、王卓「新冠疫情下的“一帯一路”:回顧与展望」『東北亜経済研究』2020年8月
Audrye Wong,“How Not to Win Allies and Influence Geopolitics – China’s Self-Defeating Economic Statecraft”, Foreign Affairs、 2021年5-6月号

その他以下の記事も参考にした。

“China curtails overseas lending in face of geopolitical backlash”, Financial Times, 2020年12月8日

“China pours money into green Belt and Road projects”, FT, 2021年1月26日

“West and allies relaunch push for own version of China’s Belt and Road”. FT, 2021年5月2日

“Exporting Chinese surveillance: the security risks of “smart cities””, FT, 2021年6月9日

“African governments face a wall of debt repayments”, Economist, 2020年6月6日
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井出 敬二(ニュースソクラ コラムニスト)
1957年生まれ。1980年東大経済学部卒、外務省入省。米国国防省語学学校、ハーバード大学ロシア研究センター、モスクワ大学文学部でロシア語、ロシア政治を学ぶ。ロシア国立外交アカデミー修士(国際関係論)。外務本省、モスクワ、北京の日本大使館、OECD代表部勤務。駐クロアチア大使、国際テロ協力・組織犯罪協力担当大使、北極担当大使、国際貿易・経済担当大使(日本政府代表)を歴任。2020年外務省退職。著書に『中国のマスコミとの付き合い方―現役外交官第一線からの報告』(日本僑報社)、『パブリック・ディプロマシー―「世論の時代」の外交戦略』(PHP研究所、共著)、『<中露国境>交渉史~国境紛争はいかに決着したのか?』(作品)、”Emerging Legal Orders inthe Arctic - The Role of Non-Arctic Actors”(Routledge、共著)など。編訳に『極東に生きたテュルク・タタール人―発見された満州のタタール語新聞』(出版に向け準備中)
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