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強かったソ連を知らない世代は中国をどう見るか

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【世界を読み解く】米中関係に対するロシア人研究者の見方 ― 米国にも中国にも警戒

公開日: 2021/02/23 (ワールド)

Reuteres Reuteres

井出 敬二 (ニュースソクラ コラムニスト)

 ロシアの極東研究所(公的な研究機関、中国研究の中心)の所長代行(昨年就任)のアレクセイ・マスロフが、米国の対中政策、尖閣その他のアジア太平洋での緊張、「一帯一路」について、インターファックス通信のインタビューで語っている。

 マスロフは現在所長代行だが、正式の所長になれば、指導的中国研究者の一人であると公認されたと言える。マスロフは1964年生れの55歳。1986年に大学を卒業し、最近はモスクワの高等経済大学教授を務めている。

マスロフ氏


 近年ロシアでは、中国研究の重鎮、ベテラン達が高齢で引退・他界しており、研究者の若返りが起きている。極東研究所の前所長のルジャーニンは昨年63歳で所長から退いた。極東研究所所長を30年間(1985~2015)務め、中国研究と中国との学術交流の元締め的存在(露中友好協会会長も務めた)だったチタレンコは2016年に91歳で他界した。

 中国・朝鮮研究者のバジャノフは、2019年に75歳で外交アカデミー学長から退いた。日ソ国交回復交渉にも参加した中国・日本研究の大御所のチフビンスキーは2018年に99歳で他界した。中国との国境交渉に参加し中露関係について多数の著作を出したガレノビッチは2020年に89歳で他界した。(これらの方々から私もモスクワ勤務時代に中国への見方などを聞かせていただいた。亡くなられた方のご冥福をお祈りするとともに、ご存命の方の更なるご健勝とご活躍を期待する。)

 マスロフはソ連が強かった時代をほとんど知らない世代だ。そのため、米国、中国への見方もおのずと前の世代とは異なってくるだろう。

 マスロフは、中国河南省の少林寺にこもって少林武術を極め、武術、思想などの一般向けの本を多く出し、マスコミにもよく出る、学者っぽくない人物である。その主張の方向性が今ひとつよく分からないところもある。インターファックスは民間の通信社であり、インタビューでは中国ウォッチャーとしての本音をある程度語っているようだ。

 彼の発言からは、米国のみならず中国に対する警戒(「一帯一路」が引き起こす摩擦、軍備増強)や、中国が国内政治面で「弱み」(新疆ウイグル、香港、チベット、人権、最高指導部と国民との関係)を持っているとの認識がうかがわれる。

 「一帯一路」については多くの途上国が中国の債務漬けになり、各国に警戒感が出てきて、中国の投資実績も2015年がピークで以後は低落していると指摘している。

 米国がダライ・ラマ後継問題にからんでくる可能性があるとの指摘は、中国が本件をとても気にしていることの反映だろう。

 マスロフが、尖閣を念頭に置いて「日本の島」と表現していることは結構なことだ。

 以下、マスロフが言っていることで、我々にも興味深い点を紹介する。

▼バイデン政権の対中政策への見方

 マスロフは、バイデン政権の対中政策を次の通り見ている。

 バイデン政権は、対中政策のレトリックは変えて柔軟な戦術をとるが、実質はトランプ政権と変わらない。

 多様なやり方・形式で外交面、軍事面、経済面で反中戦線の構築に努める

 外交面では、日本の島、台湾については立場を変えず、南シナ海では「扇動」していく。(訳注:本年2月3日のインタビューでは、「日本の島」として、尖閣を念頭に置いた発言をしている。また昨年10月9日のインタビューでは「尖閣をめぐる議論は激化した」と述べており、ロシア語で「センカク」と呼んでいる。マスロフは、尖閣諸島が日本領である事実を正しく認識し、発言したと言える。)

 中国のウクライナ、イスラエル、アフリカ、中南米への浸透や協力強化を妨害する。

 米国のアジア太平洋地域での軍事プレゼンスは高まる。台湾にも兵器供給をする。これに対し中国も対抗していく。中国は新兵器開発に予算を重点配分(予算の40~41%も)している。

 経済面では、中国との二国間では関税交渉に戻り、関税障壁の一部撤廃に応じる。関税引き上げ戦争が、米国農産品輸出者にも被害を与えているからだ。ハイテク分野で、アリババ、ファーウェイなどへの経済制裁は続ける。中国にAI、5G分野で主導権を握らせない。

 多数国間では中国のTPP参加希望を挫く。

 中国に対して新疆ウイグル、香港等で人権問題を強調し、また最高指導部と普通の国民の間にくさびを打ち込む。

 ダライ・ラマ14世(現在85歳)の死去後に備えて、米国は次の後継者の候補を何人か用意するかもしれない。

しかし以上の米国の試みが成功するかどうかは分からない。

▼中国に対する警戒感も

 マスロフは、中国の海軍力増強、世界の殆どの国が中国に対して貿易赤字となっていること、「一帯一路」で途上国が債務漬けになっていることを具体例を挙げて指摘し、警戒感をにじませている。

 マレーシアは2018年、中国への債務返済ができないことをおそれ、署名済みのプロジェクトの多くを取り消した。

 キルギスの対外債務の47%は中国からの借金であり、返済は無理なレベルだ。

 タジキスタンの対外債務はGDPの36.1%であり、このうちの3分の1が中国輸出入銀行1社への債務だ。

 モンテネグロは中国からの借金のために、債務総額はGDPの80%にのぼる。

 中国も慎重にふるまっているが、自分の金を貸したことを忘れることはない。

 中国は対外投資で海上輸送に焦点を当て、港湾施設(ギリシャ・ピレウス港、イタリアの港―トリエステ、ジェノヴァ、ラヴェンナ、パレルモ等)入手やパナマ運河への投資に積極的である。

 米ドル支配に本格的に対抗するために、独自のマクロ経済圏を創設して人民元で取引すること、サイバー人民元導入を図っている。

 各国で警戒感が高まっている。西欧では安全保障上の観点から中国からの投資を審査する制度が導入され、その結果、いくつもの投資案件が認められなかった。

 中東欧諸国でもポーランド、チェコなどが「一帯一路」プロジェクトを凍結し始めた。

 中国からの「一帯一路」プロジェクト関連投資額は、2015年がピークの565億ドル、2018年も528億ドルだったが、2019年には300億ドルに減少した。

▼ロシアにとり中国との経済関係はまだ未発展の状況

 マスロフは、貿易関係について、中国のRCEP(地域的な包括的経済連携協定)参加を指摘した後に、ロシア・中国間の自由貿易協定をつくることは、今考える話ではないと述べた。

 また中国の対ロシア投資は少ないと指摘した。それはロシア側に石油・天然ガス開発ぐらいしか投資案件がないからである。

(訳注:たとえばロシアのヤマル(北極圏にある)の天然ガス開発プロジェクトにとって中国からの投融資は大変重要であり、このプロジェクト成立のために不可欠であった。)

 マスロフの発言を敷衍すれば、ロシア経済は中国経済の活力を活かすための条件を十分備えていないということのようだ。自由貿易協定を結べば、中国からの対ロシア輸出が益々増えてしまう。逆にロシアから輸出できるものが資源、兵器以外に何があるかということが問われる。中国の対露投資・融資が増えれば、他国で起きているような摩擦も起きるかもしれず、また対中依存度が高まり、ロシアにとりジレンマがある。

(参考文献)
マスロフのインターファックス・インタビュー(2020年8月24日、10月9日、11月15日、2021年1月4日、2月3日)(全てインターファックスのウェブサイト(ロシア語)に掲載)
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井出 敬二(ニュースソクラ コラムニスト)
1957年生まれ。1980年東大経済学部卒、外務省入省。米国国防省語学学校、ハ
ーバード大学ロシア研究センター、モスクワ大学文学部でロシア語、ロシア政
治を学ぶ。ロシア国立外交アカデミー修士(国際関係論)。外務本省、モスク
ワ、北京の日本大使館、OECD代表部勤務。駐クロアチア大使、国際テロ協力・
組織犯罪協力担当大使、北極担当大使、国際貿易・経済担当大使(日本政府代
表)を歴任。2020年外務省退職。著書に『中国のマスコミとの付き合い方―現
役外交官第一線からの報告』(日本僑報社)、『パブリック・ディプロマシ
ー―「世論の時代」の外交戦略』(PHP研究所、共著)、『<中露国境>交渉史
~国境紛争はいかに決着したのか?』(作品社)、”Emerging Legal Orders in
the Arctic - The Role of Non-Arctic Actors”(Routledge、共著)など。編訳に『
極東に生きたテュルク・タタール人―発見された満州のタタール語新聞
』(2021年出版予定)。
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