• tw
  • mail

カテゴリー

 ニュースカテゴリー

  • TOP
  • 独自記事
  • コロナ
  • 統一教会
  • 政治
  • ワールド
  • マーケット
  • ビジネス
  • IT/メディア
  • ソサエティ
  • 気象/科学
  • スポーツ/芸術
  • ニュース一覧

次は中国含む中・短距離ミサイル条約のはずだが・・・

あとで読む

【世界を読み解く】 バイデン政権、新START条約の5年延長を表明

公開日: 2021/01/25 (ワールド)

実験場に向かう大型ICBM「サルマート」 (2018年3月30日=ロシア国防省HPから) 実験場に向かう大型ICBM「サルマート」 (2018年3月30日=ロシア国防省HPから)

井出 敬二 (ニュースソクラ コラムニスト)

 1月21日、バイデン米政権は、2月5日(つまり2週間後)に期限が切れる米露間の新戦略兵器削減条約(新START)の5年間延長をめざすと表明した。切れ目ない延長を図るとすれば、そのままの内容での延長だろう。

 トランプ前政権は、中国をこの条約に含め、またロシアが開発中の新技術も規制したい考えだったので、これらの点は将来の課題ということになる。また短・中距離ミサイルは新STARTの対象外であり、これはINF条約(中距離核戦力全廃条約、既に失効)が対象としていた。

 ブリンケン次期国務長官はトランプ前政権が2019年2月にINF条約から離脱したことを批判していたので、INF条約への復帰を検討するかもしれない。しかし総じて核戦略をめぐる安定性が損なわれてきており、課題は山積だ。

▼新STARTのそのままの延長であれば課題は残る

 新STARTは、オバマ政権時代の2010年4月に米露間で署名され、2011年2月5日に発効した。有効期間は10年間で最大5年間の延長が可能だ。米露の戦略核弾頭の配備上限を各1550発とし、射程距離5500km以上のICBM(大陸間弾道ミサイル)や戦略爆撃機などの運搬手段の保有可能数量に上限を定めた。

 1月19日、ブリンケン次期国務長官は、上院外交委員会での承認公聴会で、新STARTの延長をめざす、延長期間はバイデン大統領が決めると発言した。

 1月21日、サキ・ホワイトハウス報道官は、新STARTの5年間の延長を目指すと発言した。

 トランプ政権下では、2018年2月にマティス国防長官時代の国防省が公表した「核態勢の見直し(NPR)」は、米国が核兵器を削減してきたのに対し、ロシア、中国を含む他国は反対の方向に進んでいると述べつつも、新STARTを2012年2月以降も5年間延長する意向を表明し、同条約の内容への不満などは述べていなかった。

 他方、トランプ前大統領の国家安全保障担当補佐官を務めたボルトンは、この条約の内容を変えないでそのまま延長することに反対していた(回顧録に書いてある)。

 その理由は、①戦略核交渉に中国を巻き込むべき、②戦術核兵器、新技術(極超音速滑空体など)も交渉対象に含めるべきというものだった。(ロシアが新STARTに違反したとは認定していない。)

 トランプ政権時代に米国は条約延長の条件として、核弾頭の種類別の再計算と査察、新型核兵器の廃棄、核弾頭の製造工場の管理をロシアに求めてきた。

 ロシア側は新型兵器(サルマート、アヴァンガルド)(後述参照)は条約の対象に含まれるとの立場も示していた。

 しかし新STARTではロシアが開発中の新型兵器の禁止などの制限がないので、ロシアはそのままの条約延長を支持し歓迎している。

 もしバイデン大統領下で、新STARTが内容の変更無しに延長されることになれば、トランプ前政権が指摘した諸問題への取り組みは今後の課題になったということになる。

▼ロシアが開発する新型兵器

ロシア・オレンブルグ州に配備される
極超音速滑空体「アヴァンガルド」搭載のICBM(2020年12月16日)=ロシア国防省HPから

 確かにロシアは様々な新型兵器(核弾頭搭載可能なものあり)を開発している。①大型ICBM「サルマート」、②極超音速滑空体「アヴァンガルド」、③極超音速空対地ミサイル「キンジャール」、④原子力巡航ミサイル「プレヴェストニク」、⑤原子力魚雷「ポセイドン」、⑥極超音速海対地ミサイル「ツィルコン」、⑦レーザー兵器「ペレスヴェト」などである。

 極超音速(ハイパーソニック)ミサイルなど、これらの新型兵器開発では、米国が遅れをとっていると言われ、また米国としてミサイル防衛が困難である。

 ロシアは新STARTがカバーしないロシアの新型兵器については、米国が開発している新型兵器と一緒に、別の協議の場を設けても良いとの立場も示していた。

 バイデン政権としてどう対応するか検討が必要だ。

▼2019年に失効した米露中距離核戦力(INF)全廃条約

 新STARTは戦略(つまり長距離の)運搬手段の数量を制限するものであり、短距離(射程500km~1000km)・中距離(射程1000~5500km)ミサイルについては現在有効な合意は全くない。

 米露間には、地上配備の短・中距離ミサイルを全廃するというINF条約(ソ連時代の1987年署名、88年発効)があった。(但しINF条約では、核弾頭の廃棄までは合意しておらず、また空中発射と海上/潜水艦発射のミサイルはこの条約の対象外であり、禁止されていない。)

 2018年2月の米国「核態勢の見直し(NPR)」は、ロシアのINF条約違反(詳細後述)を指摘していた。(INF条約から離脱するとは言っていなかった。)

 そして米国としては、非戦略的な地域的(つまりヨーロッパとアジアでの)プレゼンスを提供し、抑止力を確保するため,核(低出力の弾頭)を装備した潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)と近代的な核装備をした海上発射巡航ミサイル(SLCM)の配備の意義を指摘していた。

 オバマ政権時代の2010年のNPRでは、従来型の核装備SLCMの退役を発表していたので、政策の転換がなされていた。

 トランプ政権は2019年2月にINF条約からの離脱をロシアに通告し、同条約は8月に失効した。

 これに対し2019年2月当時のテレビ・インタビューでブリンケン次期国務長官は、トランプ政権のINF条約離脱について「もし(ロシアが)協定を守らないのならば守らせる(ように努力す)べきだ」「(INF条約からの離脱は)プーチンに贈り物を与えたようなものだ」と批判した。

 INF条約が有効であることは、新STARTの内容を決める際の重要な前提であり、INF条約と新STARTは密接な関係がある(この点は詳しくは高橋杉雄氏の論考(末尾参考文献)を参照)。

 世界で中距離ミサイルを保有する国は増えており、早くも2007年(条約20周年)にロシアから条約の多数国化の提案があった。(但し、最近ロシアは中国を交渉に含めることを追求しないようになった。)

 2012年ランド・コーポレーションの報告書は、世界で20カ国以上が中距離ミサイルを保有していると指摘した。特に中国をINF条約に含めるべきとの主張が米国で起きた。

 2014年7月オバマ政権時代から、ロシアのINF条約違反の懸念が表明され始めた。

 米国は、ロシアの2種のミサイル(①弾道ミサイル「イスカンデル」(9K720)(カリーニングラードに配備)、②地上発射巡航ミサイルSSC-8「スクリュードライバー」(9M729))の射程は500kmを越えINF条約違反であり、同ミサイルとミサイル発射台を廃棄すべきと主張している。

 他方、ロシアは、これらのミサイルの射程は500km未満であり、条約違反ではないと主張している。

 ロシアも米国の条約違反を指摘している。それはイージスアショアが巡航ミサイル・トマホークの発射台になるのでINF条約違反になるとして、ポーランドとルーマニアに配備された(そして日本に配備される予定であった)イージスアショアを批判している。

 また米国の無人航空機(UAV)は地上発射型巡航ミサイルにあたるとして、INF条約違反だと指摘する。

 更にロシアは、米国が中距離核ミサイル開発を進めていると非難している。

 中国はINF条約で米露が持てない中距離ミサイル(2千発とも言われる)を有しており、そのため、グアム、ハワイ、日本、韓国、インド、ロシアが脅威にさらされている。

 そこには対艦中距離弾道ミサイル(「空母キラー」と呼ばれる)も含まれる。

 プーチン大統領は、「善意」の提案として、NATOがINF条約を順守し続けるのであれば、この9M729ミサイルをヨーロッパ沿いには配備しないとの提案も行った。(撤廃を提案したものではない。)

 同時に、ロシアは海上発射型中距離巡航ミサイル「カリブル」を地上発射型に改造し、また地上発射型極超音速短・中距離ミサイルを開発する意向も表明し、米国が中距離ミサイルを開発することに対抗しようともしている。

▼今後の課題

 バイデン政権は、新STARTの延長に加え、INF条約への復帰を図る可能性があるが、双方が指摘するINF条約違反事案について協議等が必要であり、時間はかかるだろう。

 その間も、米国は海上/潜水艦発射核ミサイルの開発・配備などの努力を続けるだろう。

 米露に加え中国も含めた核交渉が開始される見通しは現時点ではないので、中国を交渉に含めることの断念は仕方がないかもしれないが、核戦力、中距離ミサイルを含めた中国の軍事力にどう対応するかという問題は未解決のまま残る。

 また新技術の開発、北朝鮮など核・ミサイル保有国の増加などもあり情勢全体も不安定化している。

 その中で、中露とも核政策を再検討しており状況は流動化している(この点は回を改めて執筆したい)。

 核ミサイル関連の新技術に加え、宇宙、ネット、人工知能などの新技術への対処(含む国際的な規制作り)も必要であり、バイデン政権の課題となる。

 日本としては、イージスアショア配備(既に配備中止と代替策がとられることになったが)や敵地攻撃のためのミサイル保有の議論と、上述の世界的な議論との関連も念頭に置いて、関係国と緊密に協議し、戦略を不断に検討していく必要がある。

(参考文献)
ジョン・ボルトン『ジョン・ボルトン回顧録』朝日新聞出版、2020年
高橋杉雄「現在の安全保障環境における適切な核兵器の役割とは?」『NIDSコメンタリー』2018年3月15日
続報リクエストマイリストに追加

以下の記事がお勧めです

  • 【世界を読み解く】 加速するTPP外交、英国の参加正式申請で

  • 【世界を読み解く】 バイデン政権 米軍のアフガニスタン全面撤退見直しも

  • 井出 敬二のバックナンバー

  • LGBT 国際政治の舞台でも対立

  • 中国国務院人事、改革派一掃か

  • 気球で延期の国務長官の訪中、習氏の訪露阻止で早期実現か

  • 朝日、毎日、東京、日経 同性婚差別発言に政権の姿勢問う

  • プロフィール
  • 最近の投稿
avator
井出 敬二(ニュースソクラ コラムニスト)
1957年生まれ。1980年東大経済学部卒、外務省入省。米国国防省語学学校、ハーバード大学ロシア研究センター、モスクワ大学文学部でロシア語、ロシア政治を学ぶ。ロシア国立外交アカデミー修士(国際関係論)。外務本省、モスクワ、北京の日本大使館、OECD代表部勤務。駐クロアチア大使、国際テロ協力・組織犯罪協力担当大使、北極担当大使、国際貿易・経済担当大使(日本政府代表)を歴任。2020年外務省退職。著書に『中国のマスコミとの付き合い方―現役外交官第一線からの報告』(日本僑報社)、『パブリック・ディプロマシー―「世論の時代」の外交戦略』(PHP研究所、共著)、『<中露国境>交渉史~国境紛争はいかに決着したのか?』(作品)、”Emerging Legal Orders inthe Arctic - The Role of Non-Arctic Actors”(Routledge、共著)など。編訳に『極東に生きたテュルク・タタール人―発見された満州のタタール語新聞』(出版に向け準備中)
avator
井出 敬二(ニュースソクラ コラムニスト) の 最新の記事(全て見る)
  • 【世界を読み解く(33)】ロシア、中国、東欧では「排撃」 -- 2023年2月8日
  • 【世界を読み解く(32)】ロシアに恩を売り、ロシアも北朝鮮に下手(したて)に出る -- 2023年2月2日
  • 【世界を読み解く(31)】“文化帝国主義”は文化を破壊する -- 2023年1月26日
Tweet
LINEで送る

メニュー

    文字サイズ:

  • 小
  • 中
  • 大
ソクラとは 編集長プロフィール 利用案内 著作権について FAQ 利用規約 プライバシーポリシー 特定商取引法に基づく表示 メーキングソクラ お問い合わせ お知らせ一覧 コラムニストプロフィール

    文字サイズ:

  • 小
  • 中
  • 大
  • 一覧表示を切替
  • ソクラとは
  • 編集長プロフィール
  • 利用案内
  • 著作権について
  • メーキングソクラ
  • お知らせ一覧
  • FAQ
  • 利用規約
  • プライバシーポリシー
  • 特定商取引法に基づく表示
  • お問い合わせ
  • コラムニストプロフィール

Copyright © News Socra, Ltd. All rights reserved