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EU・中国投資協定、米国の包囲網突破狙う

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【世界を読み解く】EU、中国の東欧接近に対抗

公開日: 2020/12/31 (ワールド)

 EU,中国協定=Reuters EU,中国協定=Reuters

井出 敬二 (ニュースソクラ コラムニスト)

 12月30日、7年間の交渉の末、EU首脳と中国習近平主席はテレビ会議で包括的投資協定への合意を発表した。

 経済問題を担当している筈の李克強首相ではなく習近平主席が前面に出ていることは,この協定への習近平主席の意気込みを物語っている。協定は批准も必要であり,2022年初めの発効が見込まれている。

 ドムブロウスキス欧州委員会上級副委員長兼貿易担当欧州委員は,市場アクセス,公正な競争,持続可能な開発という点で中国がこれまで結んだ協定の中で最も野心的な内容だと説明した。

 「包括的」と付く名のとおり、投資に関する全般的なルールの約束に加え、国有企業、補助金の透明性、強制労働に関するILO条約締結への中国側の努力、個別のサービス分野の市場開放が盛り込まれたと報じられており、通常の投資協定を越えて目新しい。

 中国も経済問題が国内労働問題などとリンクされたのは嫌がったはずである。他方、米国新政権関係者はEUに対して対中政策の調整が必要だと言い、ポーランドも米国新政権との協議が必要だとEU内で主張した。

 中国はアジア太平洋で「地域的な包括的経済連携協定(RCEP)」合意に参加し、更に「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)」参加希望を表明し、欧州ではEUとの経済関係強化を図っている。

▽EUは中国と自由貿易協定ではなく投資協定その他で様々な目的を追求

 EUは中国と自由貿易協定(FTA、モノの貿易自由化を中心とする)は結ぶつもりはない。中国製品が更にEU市場にあふれてしまうからだ。(ヨーロッパで中国と自由貿易協定(FTA)を締結している国は、EU加盟国ではないアイスランド。)

 「その代わり」とはならないが、EUとして、「包括的投資協定(Comprehensive Investment Agreement、 CAI)」その他の協定締結で中国に対応することにした。

 EUは,EUの投資家が中国で競争する際の条件が公正でなく,それを正すこと(level playing field)を強く求めている。

 具体的には,「戦略的」分野への投資の禁止,外国投資家の持ち分への上限,合弁設立要求,負担の大きい投資審査手続きが障害だと批判し,また補助金,許認可での外国企業への差別の問題を指摘し,更に約束したことの実施が不完全なこと,不透明な法制度,知的財産権の保護が不完全なことも挙げている。

 この投資協定交渉は2012年2月14日のEU中国首脳会議(中国からは温家宝総理が参加)で開始に合意された。その共同記者発表文には、「中身が豊か」で「双方の全ての関心事項を含む」とされ、具体的には知的財産権、基準、政府調達、補助金の問題にも言及された。

 交渉は2013年末に始まり、2016年1月の交渉で「野心的で包括的な範囲(スコープ)」に合意された。交渉では、交渉対象の範囲決定の作業(スコーピング)が重要であり、この段階から既に熾烈な交渉が始まっている。

 当時の欧州委員会の発表文によれば、「真に投資する権利を確立することで、投資者の市場アクセスの機会を改善する」「相互に相手の企業を差別しない」「透明性、許認可手続き、投資家と投資の保護」「環境、労働関連の分野についてのルールを含む」とされ、投資企業にとって「本当の付加価値」をもたらすとした。

 このように通常「投資協定」と呼ばれる協定には含まれない内容も含まれることになった。個別のサービス分野の市場アクセス交渉は、通常は「サービス協定」に含まれ「投資協定」には含まれない。

 しかしEU側は、EUのサービス市場が中国企業に開放されているのに、中国側はEU企業に開放していないと、その非対称性にかねてより不満を有していた。

 投資とサービスは重なる部分もある。したがって「投資」の切り口でサービスの個別分野の市場自由化を扱うことにしたのだろう。

 ただし、WTOメンバー国・地域全て(EUも中国も含まれる)が参加している「サービスの貿易に関する一般協定」(GATS)では、他のメンバー国・地域に最恵国待遇を与える義務があり、また経済統合(特別な協定を結ぶ場合)におけるサービス貿易の自由化では「相当な(=広範な)範囲の分野を対象とすべき」とあるので、EU中国包括的投資協定では、この点がどうなっているのか気になる。

 EU中国包括的投資協定では,制度の調和が重要な内容になっているのかもしれない。

 EU中国包括的投資協定では,国有企業の行動を規律するルール、技術移転を強制する問題についても扱われた。

 EUは以上を通じて,競争条件が公正になるように(level playing field)図ったようだ。以上の諸点はEU側がこの協定に含めるように求めたのだろう。

 紛争解決についても何らかの規定はあるらしい。ただし,EU側は投資裁判所制度(ICS)を盛り込みたかったのだろうが、中国側の反対でうまくいかなかったようである。

 中国は中東欧諸国と首脳会議を2012年以来定期的に開催している。当初は欧州側が16カ国(注)だったので「1+16」と呼ばれていたが、ギリシアも参加するようになり「1+17」になった。これに対してEUは常々、経済事項を話し合うのはEUを相手にすべきであり、EUの一部を切り取って話し相手にすることに不快感を表明している。

 EUとして中国と経済問題を交渉し合意を結ぶことで、EUを前面に出すことを図っているのだろう。(EUはリスボン条約(2009年12月発効)によって投資に関する権限を獲得しており,各国ではなく,EUのみが投資に関する協定を中国と交渉,締結できる。)

(注)中東欧16カ国:アルバニア,ボスニア・ヘルツェゴビナ,ブルガリア,クロアチア,チェコ,エストニア,ハンガリー,ラトビア,リトアニア,モンテネグロ,北マケドニア,ポーランド,ルーマニア,セルビア,スロバキア,スロベニア

 2020年9月14日、EUは中国との首脳会議をテレビ会議形式で行い、習近平主席とEUの全首脳が参加した。そこでEU側は習近平主席に対し、包括的投資協定妥結のためにハイレベルの政治指導部のコミットメントを求めた。経済交渉(通例は首相の担当)のことでも習近平主席に直接メッセージを伝えたことも注目をひく点である。

 このテレビ会議でEU側は工業補助金の問題についてWTOでの将来の交渉に中国の参加を求め、また農産品、金融サービス、デジタル分野での市場アクセス、鉄鋼・アルミ・ハイテク製品の過剰生産の問題を提起した。

 また「EU中国地理的表示協定」が署名されたことがEU中国首脳により歓迎された。EU は地理的表示(GI)の保護を重視しており,「シャンパン」、「パルマハム」、「ロックフォール・チーズ」などのヨーロッパの原産地名入りの表示は、ヨーロッパのその原産地で生産された物以外の使用はできないようにしたいのである。WTO協定や日EU・EPAで手当された。中国側もEU側の要求を入れて地理的表示の保護の拡大で合意したのであろう。

 前述の通り、EUとしては、中国とのFTA、EPAは作りたくないので、個別の協定で対応することにし、中国もEUの要望を受け入れたということだろう。

▽習近平主席は米国主導の包囲網の突破を図る

 純経済的に、中国は近年、自由貿易協定や経済連携協定(EPA)が数多く結ばれている事を気にしている。(TPP、EUと韓国、日本、ベトナムとのEPAなど。)

 政治的には、米国が中国を経済連携から排除しようとしていることも気にしている。ポンペイオ米国務長官は2020年に欧州、インドなどを訪問し、中国との経済関係の危険性を指摘した。

 欧州では中国に対する懸念も高まっている。ボレル欧州連合外務・安全保障政策上級代表兼欧州委員会副委員長も中国に対する警戒を口にしている。

 中国は貿易、投資のパートナーが狭められることを恐れており、EUやアジア太平洋諸国との経済関係強化を図ろうとしている。

 前述の中国・中東欧諸国首脳会議(「1+17」)でも、従来は中国からは首相が参加していたが、北京で開催予定であった2020年は(新型コロナウイルスのため結局開催は中止されたが)、習近平主席の名前で招待状が発出されていた。

 つまり、中国はこの会議を習近平主席が参加する会議に格上げして、関係を更に強化するつもりだったのかもしれない。(中国は「中国・中東欧国家協力事務局」を作っており、そのウェブサイト(http://www.china-ceec.org/chn/)を見ると習近平主席の写真が沢山掲載されている。その事務局は多くの政府機関を糾合しており,事務局長は、以前“強面の”外交部報道官として日本でもよく知られていた秦剛氏が外交部副部長のまま兼任している。)

▽結論

 EU・中国間の交渉の結果がどうなったかは詳細に分析する必要があるが、EU側が多くの論点を提起し、おそらくは完全に満足できはしないものの、中国を議論の土俵に上げて何らかの結果を出したということなのだろう。それはそれで、一定の成果と言えるだろう。

 中国では経済合意の分野でも習近平主席の指導力が強くなっており,また経済合意を地政学的に見ていることが改めて示された。

 日本は、中国とは日中投資保護協定(1988年署名、89年発効)、日中韓投資協定(2012年署名、14年発効)やRCEP(2020年11月署名、未発効)などで中国との経済関係で種々の努力をしている。

 EUの今回の成果も研究し、中国がEUに対して譲歩したものがあれば、日本も同様の恩恵を得られないか(WTO、多国間の交渉(日中韓EPA、CPTPPへの中国の参加)、二国間交渉を通じて)検討し、習近平主席の経済問題への関心をうまくとらえて、実現すべきである。

 また中国との経済関係をどうしていくかについては,米国新政権発足後,日本,米国,EU,英国,豪州,カナダと,協議,協力していくべきである。
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井出 敬二(ニュースソクラ コラムニスト)
1957年生まれ。1980年東大経済学部卒、外務省入省。米国国防省語学学校、ハ
ーバード大学ロシア研究センター、モスクワ大学文学部でロシア語、ロシア政
治を学ぶ。ロシア国立外交アカデミー修士(国際関係論)。外務本省、モスク
ワ、北京の日本大使館、OECD代表部勤務。駐クロアチア大使、国際テロ協力・
組織犯罪協力担当大使、北極担当大使、国際貿易・経済担当大使(日本政府代
表)を歴任。2020年外務省退職。著書に『中国のマスコミとの付き合い方―現
役外交官第一線からの報告』(日本僑報社)、『パブリック・ディプロマシ
ー―「世論の時代」の外交戦略』(PHP研究所、共著)、『<中露国境>交渉史
~国境紛争はいかに決着したのか?』(作品社)、”Emerging Legal Orders in
the Arctic - The Role of Non-Arctic Actors”(Routledge、共著)など。編訳に『
極東に生きたテュルク・タタール人―発見された満州のタタール語新聞
』(2021年出版予定)。
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