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加速するTPP外交、英国の参加正式申請で

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【世界を読み解く】TPPが米中経済交渉の土俵になるのか

公開日: 2021/02/02 (ワールド)

TPP参加を表明したボリス・ジョンソン英首相=CCbyThinkLondon TPP参加を表明したボリス・ジョンソン英首相=CCbyThinkLondon

井出 敬二 (ニュースソクラ コラムニスト)

 英トラス国際貿易相は1日にTPP加盟を正式に議長国の日本に対し申請した。英メディアでは、英にとりTPP加盟の実益は小さいとの論評もあるが、米もTPP参加すれば、英にとり対米FTAにもなるとの英政府筋の発言も伝えた。英野党労働党はTPP加盟に反対であり、中国参加への拒否権を英国が持てるかどうか不明だと論じた。

 英も、米、中国の動向を気にしており、TPPの将来は、米中が加盟するか否かが大問題だ。TPP政策は、対中経済政策の鍵となると言える。米国との協議が必要だ。

 現在のTPPは米国が抜けたため11カ国(オーストラリア、ブルネイ、カナダ、チリ、日本、マレーシア、メキシコ、ニュージーランド、ペルー、シンガポール、ベトナム)がメンバーであり、世界のGDPの約13%を占める。

 英の加盟申請は、原メンバー(発足国)11カ国以外では初めて。英以外に、TPP加盟に関心を示したことがあるのは中国、韓国、タイ、コロンビア、台湾である。

▼英にとってのTPP参加の意味は?

 英がTPP加入を希望する理由は、電子商取引活発化、英国の輸出増(ウィスキー、自動車等)、ビジネスマンの移動の容易化などだ(1月30日、英国際貿易省のプレスリリース)。

 TPP加盟11カ国の内、英がFTAを有しているのは日本、シンガポール、ベトナム、チリ、ペルーである。

 英にとりTPP加盟11カ国向け輸出は輸出総額の10%以下であり,英のTPP加盟は英の輸出増、GDP増にあまり貢献しないとの見方もある(1月31日付け『ファイナンシャル・タイムズ』紙)。

 英国政府筋は、米がTPPに加入すれば、米国との自由貿易関係を構築するとの大きなメリットがあると発言した(同紙)。米英は昨年5月から自由貿易協定交渉を開始したが、さほど進んでいないのだろう。

 野党労働党はTPP加盟に反対しており、特に中国参加への拒否権を英国が持てるかどうか不明だと主張している(1月31日付け『ル・モンド』紙)。

 このように、英国のTPP加盟論議の隠れた論点は、米中の今後の加盟の展望である。

▼中国はTPP参加に真剣,そのための経済改革も研究

 昨年11月20日、習近平主席はAPEC首脳会議(ビデオ会議)で、TPPへの参加を「積極的に検討する」と明言した。

 その半年前の5月28日には李克強首相も記者会見でTPP参加に「積極的・開放的な」立場だと表明した。

 昨年11月22日の『北京青年報』紙は、「RCEPからCPTPP加入を目指して努力する」と題する王輝耀執筆記事を掲載した。

 王は中国の公的なシンクタンクCCGの理事長を務めており、CCGはTPP加入に前向きな報告書を出している(末尾参考文献)。

 王はバイデン政権がTPPに戻る可能性を念頭に、中国もTPPに加入し、TPPを中・米両国の経済対話のプラットフォームの一つとすること、中国がグローバル・バリュー・チェーンに深く参加し、更に国有企業、労働などの分野では改革を推進すべきと主張している。

 12月19日、魏建国・元商務部副部長も「現在は中国がCPTPPに加入する最も好い時期だ」と題する文章を発表した。

 これらは思いつきの発言ではなく、中国として検討した結果の発言と受け止めるべきである。

 TPP協定は30章から成るが、モノの貿易、サービス貿易の自由化を定めるとともに、様々なルールを定める。

 中国がTPPに参加する際の最大の課題は、中国からの廉価な製品の無関税(多少は関税を残したりもするが、原則として殆ど全ての貿易が自由化される必要がある)の輸出を、他メンバー国が受け入れられるかどうかである。

 また中国がもしTPPに加盟する場合には、中国国内の経済改革が必要となる。たとえば以下が中国にとり大変困難な分野となるだろう(但しそれぞれのルールには例外扱い、除外扱いなども認められており、そのことにより途上国の参加も可能になった)。

・中国に進出した外国企業に自由な国外データ移転を認める、外国企業にサーバー等のコンピューター関連設備を中国国内に設置することを要求することは不可、電子商取引を阻害するような過剰な規制を導入しない、ソフトウェアのソース・コードの移転や当該ソース・コードへのアクセスを要求してはならない

・中国政府・政府系機関が一定額以上の物品・サービスを調達する際には公開入札を行い、入札において外国企業にも中国企業と同様の待遇を与える

・中国の国有企業が商取引を行う際には他国企業を差別してはならない,中国政府から国有企業への援助(貸付等)について他国の企業に悪影響を及ぼすものを規制する、国有企業等に関する情報を他国に提供する

・知的財産権(商標、地理的表示、特許、意匠、著作権、開示されていない情報)などの保護の水準を上げる

・労働者の権利の確保、ILO宣言の諸権利(強制労働撤廃、児童労働禁止、差別撤廃等)の実施

 中国はこれらのルールにどう適合するか。様々な研究者達に研究させており、その成果として多くの論文が公表されている(末尾参考文献)。

▼中国はTPP参加により米国の包囲網突破と「一帯一路」推進を狙う

 昨年7月22日、ポンペオ米国務長官(当時)は、テレコミ、医薬品分野を例示しながら、中国をグローバル・サプライ・チェーンから外し、その代わりにインドがそのチェーンを引き付けられると発言した。

 サプライ・チェーンは部品調達、製品製造、販売・配送のネットワークであり、国境を越えて構築されている。

 中国は米国から「サプライ・チェーン戦争」を仕掛けられていると認識しており、TPP参加はその対策の一つとの位置づけだろう。

 またシンクタンクCCGの報告書は、TPPは「一帯一路」推進の良いプラットフォームになるとも指摘している(末尾参考文献)。

▼TPPはまさに地政学・地「経」学の焦点

 1月22日、サキ・ホワイトハウス報道官は、TPPについて「バイデン大統領はTPPが完全でないことを知っており、それをもっと強く、良くする必要があると考えている。しかし今の我々の焦点、彼の焦点は、経済に関しては、働く家庭とアメリカの中産階級のためになることを全てやることである。それが今後数か月の彼の焦点になるだろう」と発言した。

 中国に対し経済改革を求めるのであれば、TPPは一つの梃子になり得る。中国のTPP参加がすぐに実現しない場合には、中国に改革を進めてもらうべく、TPP以外の工夫も考える必要がある。

 確かに英国にしても中南米諸国にしても、中国をTPPに入れることは、それら諸国が中国とFTA関係に入ることになり、中国の廉価な製品の無関税輸入を認めることには抵抗は大きいだろう。(中国は南北アメリカ、ヨーロッパ諸国とは殆どFTAを作れていない。)

 TPPの将来をどうするかは、中国への経済政策をどうするかという大問題と一体であり、バイデン政権とも遠くない将来に協議しないといけない。


(TPPの歴史)

2015年10月 米国も含めた12カ国でTPP(環太平洋パートナーシップ協定)大筋合意
2016年2月 12カ国が署名
2017年1月 トランプ政権下で米国は離脱を宣言
2018年3月 米国を除く11カ国がCPTPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)に署名
同年12月 CPTPP発効
2020年5月 李克強首相、TPP参加に「積極的・開放的な」立場と発言
同年11月 APEC首脳会議で、習近平主席、TPPへの参加を積極的に検討すると明言

(参考文献)

―谭笑间「美国对华”供应链战争”及其应对」『世界知识』(譚笑間「米国の対中国“サプライ・チェーン戦争”及びそれへの対応」『世界知識』』)2020年No13

―王辉耀「从RCEP到争取加入CPTPP」『北京青年报』(王輝耀「RCEPからCPTPP加入を目指して努力する」『北京青年報』)2020年11月22日

※以下は中国のCPTPP参加に伴って必要な国内経済改革等を検討した報告書、論文である。この種のものは沢山公表されており、あくまでも例として挙げた。

―CCG报告『CPTPP与中国知识产权保护』(CCG報告『CPTPPと中国知的財産権保護』2020年9月)(CCG(全球化知庫)は中国の公的なシンクタンク)

―张磊,徐琳,「服务贸易国内规制的国际治理:基于USMCA对CPTPP的比较研究」『社会科学』(張磊、徐琳「サービス貿易の国内規制の国際的管理:米国メキシコ・カナダ貿易協定とCPTPPの比較研究に基づいて』『社会科学』)2020年No7

―胡若涵『CPTPP国企条款对我国国企的挑战』「经济师」(胡若涵『CPTPP国有企業条項の我が国国有企業への挑戦』「経済師」)2020年No8

―李墨丝『CPTPP+数字贸易规则、影响及对策』「国际经贸探索」(李墨絲『CPTPP+デジタル貿易規則、影響と対策』「国際経貿探索」)2020年No12
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井出 敬二(ニュースソクラ コラムニスト)
1957年生まれ。1980年東大経済学部卒、外務省入省。米国国防省語学学校、ハーバード大学ロシア研究センター、モスクワ大学文学部でロシア語、ロシア政治を学ぶ。ロシア国立外交アカデミー修士(国際関係論)。外務本省、モスクワ、北京の日本大使館、OECD代表部勤務。駐クロアチア大使、国際テロ協力・組織犯罪協力担当大使、北極担当大使、国際貿易・経済担当大使(日本政府代表)を歴任。2020年外務省退職。著書に『中国のマスコミとの付き合い方―現役外交官第一線からの報告』(日本僑報社)、『パブリック・ディプロマシー―「世論の時代」の外交戦略』(PHP研究所、共著)、『<中露国境>交渉史~国境紛争はいかに決着したのか?』(作品)、”Emerging Legal Orders inthe Arctic - The Role of Non-Arctic Actors”(Routledge、共著)など。編訳に『極東に生きたテュルク・タタール人―発見された満州のタタール語新聞』(出版に向け準備中)
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