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LGBT 国際政治の舞台でも対立

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【世界を読み解く(33)】ロシア、中国、東欧では「排撃」

公開日: 2023/02/09 (政治, ワールド)

CC BY LGBT+で東欧の加盟国とも対立する欧州委員会=CC BY /EmDee

井出 敬二 (ニュースソクラ コラムニスト)

 私はかつて外国の日本大使館で働いていた時、某国から派遣されていたLGBT+の大使と友人になった。その大使とパートナーから家に招かれたり、当方も家に招いたりしてつきあっていた。

 LGBT+がどの位いるのかについて日本には正確なデータはないようだが、人口の3%~8%位ではないかとも言われている。様々な分野で活躍することも当然である。

 私が駐在していた赴任国の外務省は、LGBT+のパートナーを家族とみなして外交査証を発給していた。このような対応をしている西側諸国は多い。

 しかし、ロシアはLGBT+に厳しい対応をとっている。おそらく、ロシアはLGBT+の外交官のパートナーを、家族のようには扱っていないのだろう。この点は、私がモスクワで働いていた2013年に厳しくなっていった記憶がある。

 なぜこの頃厳しくなっていったのか、それは世界的に同性婚を認める動きへの一種の反発なのか。プーチン大統領の意向が働いていたのだろうが、大いに関心がもたれる。

 最近、駐カナダ・ロシア大使とカナダの閣僚との間で、LGBT+をめぐって一種の論争があった。またEUは、LGBT+をめぐり、ハンガリーおよびポーランドとの間の溝を埋めるべく協議をしており、フランスは「LGBT+担当大使」を任命し、LGBT+に関わる外交案件の処理を担当させることとした。

▼ロシアはLGBT+を排撃

 2020年に改正されたロシア新憲法は様々に興味深い点があるが、新しい第67条第2項では、「ロシア連邦は、千年の歴史により結び付けられ、我々に理想と神への信仰を伝えてきた祖先の記憶を維持し、・・・」と、神への信仰に言及した。

 また新しい第72条第1項第7追加条項に、「男と女の結合としての結婚制度の保護」という表現を盛り込んだ。

 以上の規定は以前のロシア憲法にはなかった。この規定の創設は、ロシア正教会も支持したということである。

 2022年12月には「LGBT+のプロパガンダ」を禁止する法律が施行された。これは2013年に既にあった同趣旨の法律(『健康と発達を害する情報からの子供の保護に関する連邦法』5条及びロシア連邦の個々の法律行為の改定に関する連邦法)の内容を更に強めたものである。

 クレムリン(ロシア大統領府)は「LGBT+とは西側が作り出したものだ」と主張していると、ロシア国内でLGBT+を擁護するNGO関係者は説明している。(『ル・モンド』紙報道)

 2022年11月、駐カナダ・ロシア大使は、反LGBT+のロシア政府の立場をツイッターなどで発信した。これに対し、カナダの閣僚で、レスビアンであることを公言しているパスカル・セントーオンジ・スポーツ大臣兼ケベック州経済開発庁担当大臣は、ロシア大使の反LGBT+の言動を厳しく批判した。(『ル・モンド』紙報道)

 ロシアのこの法律により、村上春樹の『スプートニクの恋人』、吉本ばななの『とかげ』などが、モスクワ市内の図書館で廃棄処分されることになったとも報じられている(実際に廃棄処分されたかどうかは未確認である)。(ロシアの独立系メディア『メドゥーサ』の報道―NHKなどの報道)

▼LGBT+が生きづらい中国

 中国には何人LGBTがいるのであろうか?研究者の陳絵宇氏は、人口3%から5%との率を適用して、中国には「3900万人から5200万人」もの同性愛者がいると試算している。そしてLGBTの人達の人権保護は、彼らの利益になるのみならず、社会の調和と安定に貢献すると主張している。

 LGBT+の運動をするNGOも中国で増えている。研究者の張静氏が2015年に発表した記事によれば、中国ではそのようなNGOは全国で110ある。

 しかし近年中国で言論空間の自由度が全体的に狭まり、またナショナリズムが高まる中で、LGBT+は、「子供を作らず、生産性がない」、「LGBT+の運動は、西側自由主義から影響を受けたNGOが推進している」と批判され、LGBT+の人々によるSNSでの発信も厳しい制約を受け、生きづらい状況になっていると伝えられている。(英『エコノミスト』誌報道)

 他方、台湾では民主化を背景とし、台湾の憲法が保障する「結婚の自由」、「平等原則」に立脚して、2019年に同性婚が合法化された。

▼欧州での論争

 ハンガリー、ポーランド(多くの地方自治体)がLGBT+の尊厳と人権を侵害しているとして、両国とEUとの間の溝が深まっていると報じられている。ポーランドでも、LGBT+は外来のものとの受け止めがあるそうだ。

 他方、EUは、「尊厳と人権」の問題としてとらえている。

 2022年11月、フランスは「LGBT+担当大使」を任命した。この大使は、ハンガリー、ポーランドの問題への取り組みにあたりEUと協力すること、カタールのような国際的スポーツ大会を行う国との問題への取り組みなどを行うようであり、更にはインターネットのアルゴリズムがLGBT+を差別している問題にも取り組むそうだ。

 いずれはEUのLGBT+への取り組みが世界標準になることも期待されている。(『ル・モンド』報道)
 
 LGBT+は、一部の国の一部の人々にとっては、外国(西側)からの“異物”の侵入であり、既存の価値観を揺るがし、自らが拠って立つところへの挑戦と受け取られる面があると言われている。

 いわゆる権威主義的、ナショナリスト、右派の指導者達がLGBT+を排撃しているとの見方もあり、それはリベラリズム的な思想への反発という面で説明できるかもしれないが、例外もあるようだ。たとえば、ナショナリスト、右派で権威主義的政権とも親密な関係を持つイスラエルのネタニヤフ首相がLGBT+を擁護をしてきたケースがある。

 いずれにしても、LGBT+の件で、対立の感情が煽られるような事態は避けるべきである。人権問題という基本に立脚して、人口でかなりの割合を占める人々を含めて皆が生きやすい社会を作るべく、様々な制度も不断に見直すことが必要だろう。

(参考)
 中西絵里氏によれば、差別禁止法が存在する国等は、76か国と85地域に上る(2016年8月現在)。国連人権規約委員会から日本に対して、反差別法の採択と差別被害者救済が求められている。他方、76か国で同性愛が犯罪とされている。

 NPO法人EMA日本のウェブサイトによれば、以下の33の国・地域が同性婚を承認している。

 オランダ(2001),ベルギー(2003),スペイン,カナダ(2005),南アフリカ(2006),ノルウェー,スウェーデン(2009),ポルトガル,アイスランド,アルゼンチン,(2010),メキシコ(一部の州,2011),デンマーク(2012),ブラジル(判例),フランス,ウルグアイ,ニュージーランド(2013),英国(イングランド,ウェールズ,スコットランド2014,北アイルランド 2020),ルクセンブルク,米国(判例),アイルランド(2015),コロンビア(2016),フィンランド,マルタ,ドイツ,オーストラリア(2017),オーストリア,台湾,エクアドル(2019),コスタリカ(2020)、チリ、スイス、スロヴェニア、キューバ(2022)。

(参考文献)
伊藤知義「ハンガリー『反LGBT法』と『ヨーロッパ的価値』」、『中央ロー・ジャーナル』、2022年、18(4)
中西絵里「LGBTの現状と課題―性的指向又は性自任に関する差別とその解消への動き―」、『立法と調査』、2017年11月
陳絵宇「論LGBT群体的人権保護在中国的必要性」、『法制博覧』、2016年、12(下)
張静「非営利組織視覚下中国内地LGBT組織発展現状研究」、『商』、2015年12月
“How nationalism is making life harder for gay people in China”, Economist, 2021年7月15日”
“Life is getting harder for gay people in China”, Economist, 2022年6月9日
“Le nouvel ambassadeur aux droits LGBT+ peut jouer un rôle crucial dans la réflexion sur les haines en ligne”, Le Monde, 2022年11月13日
“Le Canada va convoquer l’Ambassadeur russe pour des tweets « haineux » envers la communauté LGBT+”, Le Monde, 2022年11月29日
Gideon Rachman, “How the war in Ukraine met the culture warsー-Vladimir Putin has found friends in the west by posing as a defender of traditional values”, Financial Times, 2023年1月30日
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井出 敬二(ニュースソクラ コラムニスト)
1957年生まれ。1980年東大経済学部卒、外務省入省。米国国防省語学学校、ハーバード大学ロシア研究センター、モスクワ大学文学部でロシア語、ロシア政治を学ぶ。ロシア国立外交アカデミー修士(国際関係論)。外務本省、モスクワ、北京の日本大使館、OECD代表部勤務。駐クロアチア大使、国際テロ協力・組織犯罪協力担当大使、北極担当大使、国際貿易・経済担当大使(日本政府代表)を歴任。2020年外務省退職。著書に『中国のマスコミとの付き合い方―現役外交官第一線からの報告』(日本僑報社)、『パブリック・ディプロマシー―「世論の時代」の外交戦略』(PHP研究所、共著)、『<中露国境>交渉史~国境紛争はいかに決着したのか?』(作品)、”Emerging Legal Orders inthe Arctic - The Role of Non-Arctic Actors”(Routledge、共著)など。編訳に『極東に生きたテュルク・タタール人―発見された満州のタタール語新聞』(出版に向け準備中)
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