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ウクライナ問題での「中国の立場」 中国外交の限界を示す

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【世界を読み解く(36)】ロシアは相変わらず強硬、中国はEUとの関係改善を図る

公開日: 2023/03/03 (ワールド)

CC BY 王毅氏=CC BY /Foreign and Commonwealth Office

井出 敬二 (ニュースソクラ コラムニスト)

 2月24日、ロシアのウクライナ侵略1周年の日に、中国外交部は「ウクライナ危機の政治的解決に関する中国の立場」を発表した。

 この発表の前に、中国外交を統括する王毅政治局員はフランス、イタリア、ハンガリーを歴訪し、またミュンヘンでの安全保障会議に出席し、ブリンケン米国国務長官、クレバ・ウクライナ外相を含む多くの各国代表と会談しウクライナ問題を議論した。その上でモスクワを訪問し、プーチン大統領らともウクライナ問題について意見交換した。「中国の立場」が発表された24日、ロシア外務省も「中国の立場」へのコメントを発表した。

 「中国の立場」は、中国が独力で仲裁するというよりも、制裁、台湾問題も含めた中国の立場をまとめ、多少なりとも肯定的な姿勢を示そうとしたものだ。EU、ヨーロッパとの関係改善も狙っている。

 しかし中国は、ロシアのウクライナ攻撃を侵略と認めず、ロシア軍の撤退も求めず、そのため欧米から批判されている。また中国製武器を対ロシア輸出しないように釘を刺された。「中国の立場」へのロシアの反応も、従来の強硬な立場に変わりがない。

 結局「中国の立場」は実質的にロシアの肩を持ち、和平に向けて何らかの変化をもたらすことも期待できない。それでいて、解決に向けて前向きな姿勢をアピールし、ウクライナ問題での中国の場所を確保しようと狙うものである。

▼「中国の立場」の内容

 「中国の立場」(12項目)の日本語抄訳は以下の通り。(「人民網日本語版」(2月24日付け)に私が一部加筆した。)

(1)各国の主権の尊重。国連憲章の趣旨と原則を含む、広く認められた国際法は厳格に遵守されるべきであり、各国の主権、独立、及び領土的一体性はいずれも適切に保障されるべきだ。

(2)冷戦思考の放棄。一国の安全が他国の安全を損なうことを代償とすることがあってはならず、地域の安全が軍事ブロックの強化、さらには拡張によって保障されることはない。各国の安全保障上の理にかなった利益と懸念は、いずれも重視され、適切に解決されるべきだ。

(3)停戦。各国は理性と自制を保ち、火に油を注がず、対立を激化させず、ウクライナ危機の一層の悪化、さらには制御不能化を回避し、ロシアとウクライナが向き合って進み、早急に直接対話を再開し、情勢の緩和を一歩一歩推し進め、最終的に全面的な停戦を達成することを支持するべきだ。

(4)和平交渉の開始。対話と交渉はウクライナ危機を解決する唯一の実行可能な道だ。

 国際社会は、和平と協議を促すという正しい方向性を堅持し、紛争のすべての当事者が危機の政治解決の扉をできるだけ早く開くのを助け、交渉再開のための条件とプラットフォームを提供する必要がある。中国側は、建設的作用を発揮することを継続するつもりだ。

(5)人道的危機の解消。人道的危機の緩和に資する全ての措置は、いずれも奨励され、支持されるべきだ。

(6)民間人や捕虜の保護。紛争当事国は国際人道法を厳格に遵守し、民間人及び民生用施設への攻撃を避け、女性や子どもなど紛争の被害者を保護し、捕虜の基本的権利を尊重するべきだ。

(7)原子力発電所の安全確保。原子力発電所など平和的原子力施設への武力攻撃に反対する。

(8)戦略的リスクの低減。核兵器の使用及び使用の威嚇に反対するべきだ。

 いかなる国家によるいかなる情況下でも、生物化学兵器の研究、使用に反対する。

(9)食糧の外国への輸送の保障。各国はロシア、トルコ、ウクライナ、国連の署名した、黒海を通じた穀物輸出に関する合意を均衡ある、全面的かつ有効な形で履行し、国連がこのために重要な役割を果たすことを支持するべきだ。

(10)一方的制裁の停止。国連安保理の承認を経ていないいかなる一方的制裁にも反対する。

(11)産業チェーンとサプライチェーンの安定確保。各国は既存の世界経済体制をしっかりと維持し、世界経済の政治化、道具化、武器化に反対するべきだ。

(12)戦後復興の推進。国際社会は紛争地域の戦後復興への支援措置を講じるべきだ。中国はこれに助力し、建設的役割を果たすことを望んでいる。

▼過去の王毅の主張

 『人民日報』は節目節目で、ウクライナ問題に関する王毅の主張を、3~5点にまとめて次の通り報道してきた。

●2022年2月25日:王毅の主張(英外相、フランス大統領顧問らとの電話会談)
(1)主権・領土一体性の尊重、国連憲章原則尊重。
(2)共同、総合的、協力的、持続可能な安全保障。5回のNATO東方拡大を批判。
(3)当事者の自制、大規模な人道主義の危機を防止すべき。
(4)平和解決のための外交努力を支持。ウクライナは東西の架け橋となるべき。
(5)国連安保理がウクライナ問題解決に建設的役割を果たすべき。国連憲章第7章の武力行使、制裁には反対。

(注:国連憲章第7章は、平和に対する脅威、平和の破壊、侵略行為への対応を定める。中国がこの章の適用に反対しているということからして、ウクライナ問題への取り組み方に根本的な問題がある。)

●2022年7月8日:王毅の主張(於:G20外相会議)
(1)“新冷戦”を作ることに反対。
(2)“二重基準”に反対。台湾は中国の主権。台湾とウクライナを同一視すべきではない。
(3)ウクライナ問題を口実にして中国その他の国に経済制裁を課すことに反対。

●2022年9月24日:王毅の主張(於:国連安保理)(主権尊重・領土保全に加えて)
(1)対話と交渉の方向性を堅持すべき。
(2)情勢の緩和を共同で推進すべき。
(3)人道状況に適切に対応すべき。
(4)エネルギー、食糧問題等への波及を防ぐべき。

 『人民日報』で中国政府の公式の立場を述べたものは、おおむね以上に尽きる。ウクライナ問題の本質に関する中国の発言は少ない。

 開戦1年の節目にあたり、文字通り「立場」をまとめておこうと思ったのだろう。また中国はEU、西ヨーロッパ諸国との関係も修復が必要と思ったのだろう。

 ウクライナ問題についての中国政府の公的立場として、王毅の発言が『人民日報』で引用されてきたことも確認できた。この問題では王毅の影響力がやはり強い。

 習近平がモスクワを訪問する場合、ロシアとも欧米とも関係をうまくマネージする必要がある。問題が起きれば、王毅が責任を問われる。

▼「中国の立場」への評価

 今回の文書は12項目と包括的である。

 まず中国が最重視する「各国の主権、独立、及び領土的一体性」尊重が冒頭にある。中国の主権に介入するなとの意味であり、台湾に対して中国が主権を持つとのメッセージでもある。ロシアが併合したクリミア半島、東南部ウクライナをウクライナに返還すべきとの主張ではない。今回の文書には明記されていないが、国連憲章第7章を適用するつもりはない(つまりロシアを侵略国と認定するつもりはない)との中国の立場に変化はない。

 第2に、「冷戦思考の放棄」とは、NATO拡大批判を意味している。

 第3に、停戦、核兵器使用・その威嚇への反対を明言した。核兵器については、ロシアと中国との間においても、ロシアは極東・シベリアでの通常兵力の不足を核兵器で補おうとするが、中国からすれば、それはやめてほしい。

 第4に、経済制裁反対、サプライチェーン維持の立場は、改めて中国の立場を再述したものである。

 第5に、「立場」には中国が「仲裁」、「仲介」するということは書いてない。中国がすることは「建設的作用を発揮」することだ。

 第6に、「立場」には明記されていないが、台湾とウクライナとは事情が違うという中国の従来の立場も維持されているのだろう。

▼ロシアの反応

 王毅は発表前にモスクワでプーチンらにも「中国の立場」の内容を説明したのだろう。(なお、ベラルーシには2月24日に秦剛外相がベラルーシ外相に電話をして、「立場」を説明した。)

 ロシア外務省のザハロワ報道官は、2月24日に「中国の立場」に対するコメント(A4で1ページ半)を発表した。その要点は次の通りだ。(ロシア外務省ウェブサイト)

 「我々は、中国の友人がウクライナの紛争の解決を平和的手段により行おうとする誠実な願望を高く評価する。」

 「国連憲章遵守などの順守の考えを共有する。」

 「ウクライナへの西側の武器と傭兵の供給の停止、敵対行為の終結、ウクライナの中立的・非同盟状態への復帰、人々の自決権の実現の結果としてできた新しい領土という現実の承認、ウクライナの非軍事化・非ナチ化、領土から発せられる全ての脅威の排除」を要求。

 「全ての違法な制限措置の廃止」(経済制裁のことを言っているのであろう)、「国際法廷での政治化された主張の取り下げ」を要求。

 一応中国の努力を評価するとしているが、その後に書いてあることを読むと、ロシアの強硬な立場に変化はなく、これではウクライナとの和解は難しい。中国もこのようなロシアを説得までしてロシアの立場を軟化させる努力をするとも思えない。つまりこのままでは「中国の立場」は、何ももたらさない。

 それでも中国はEU、西ヨーロッパ諸国との関係改善を図るつもりのようだ。EU駐在の中国大使の発言からは、本年前半にEU首脳の中国訪問を実現させたいとの中国の気持ちが伝わってくる。「中国の立場」には、そのような考慮も反映させたのだろう。

 結局、中国は、ロシアと欧米との関係をマネージしつつ、その外交の場所を確保し広げていくため「中国の立場」を作ったのだろう。しかし従来の中国の立場を踏襲するものだけに、実際の和平に役立つものではなく、中国外交の限界を明らかにしている。

(参考文献)

「王毅闡述中方対当前烏克蘭問題的五点立場」(王毅は現下のウクライナ問題への中国の5点の立場を詳しく述べた)、『人民日報』、2022年2月27日

「王毅談中方圍繞烏克蘭局勢的三点関切」(王毅はウクライナ情勢をめぐる3点の中国の配慮を語った)、『人民日報』、2022年7月8日

「王毅出席連合国安理会烏克蘭問題外長会」(王毅はウクライナ問題の安全保障理事会外相会合に出席した)、『人民日報』、2022年9月24日

「中国外交部発布<<関於政治解決烏克蘭危機的中国立場>>」(中国外交部発表<<ウクライナ危機の政治解決に関する中国の立場>>)、『人民日報』、2023年2月25日

「継続為和平解決烏克蘭危機発揮建設性作用」(ウクライナ危機の平和解決のために建設的作用を継続する)、『人民日報』、2023年2月25日
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井出 敬二(ニュースソクラ コラムニスト)
1957年生まれ。1980年東大経済学部卒、外務省入省。米国国防省語学学校、ハーバード大学ロシア研究センター、モスクワ大学文学部でロシア語、ロシア政治を学ぶ。ロシア国立外交アカデミー修士(国際関係論)。外務本省、モスクワ、北京の日本大使館、OECD代表部勤務。駐クロアチア大使、国際テロ協力・組織犯罪協力担当大使、北極担当大使、国際貿易・経済担当大使(日本政府代表)を歴任。2020年外務省退職。著書に『中国のマスコミとの付き合い方―現役外交官第一線からの報告』(日本僑報社)、『パブリック・ディプロマシー―「世論の時代」の外交戦略』(PHP研究所、共著)、『<中露国境>交渉史~国境紛争はいかに決着したのか?』(作品)、”Emerging Legal Orders inthe Arctic - The Role of Non-Arctic Actors”(Routledge、共著)など。編訳に『極東に生きたテュルク・タタール人―発見された満州のタタール語新聞』(出版に向け準備中)
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