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国民党劣勢の台湾総統選が引き金に

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【中国をよむ】中台首脳会談、民進党への圧力に

公開日: 2015/11/05 (ワールド)

首脳会談の開催発表を報じる台湾各紙 首脳会談の開催発表を報じる台湾各紙

鈴木 暁彦 (関西学院大学非常勤講師、元朝日新聞北京特派員)

 中国の習近平主席と台湾の馬英九総統が7日、第3国のシンガポールで直接対面することになった。1949年の中台分断後、初の首脳会談となる。中台関係の安定化促進が表向きの目的だが、2016年1月16日の台湾総統選挙を前に、苦戦が伝えられる国民党候補へのテコ入れが実際的な狙いだ。

 台湾の各種世論調査では、中国が「台湾独立派」と見る野党・民主進歩党の蔡英文候補に大きく水をあけられている。中国共産党ならびに国民党としては、「民進党の政権復帰」を前に、中台関係の「現状」を自分たちに有利な方向に変更する、例えば「中台首脳会談を制度化すること」を「現状」の中に入れてしまえば、蔡英文氏への圧力になる、と考えているのかもしれない。

 馬英九氏は2008年の総統選に勝ち、現在2期目。任期は2016年5月20日までだが、馬氏は2014年11月の地方選大敗の責任を取って同12月、国民党主席を辞任。現在の党主席は、総統選候補になっている新北市(旧台北県)の朱立倫市長である。

 馬総統が就任以来進める中台融和路線は当初、経済界を中心に支持を受けたが、中国経済への依存度が急速に高まる中、「このままでは中国に飲み込まれてしまう」との危機感が広がった。

 さらに、習近平政権の強権ぶりが追い打ちをかけた。中国は1997年7月に返還された香港に対し、50年間にわたって「1国2制度」による高度な自治を「香港基本法」で約束したはずだが、習政権は香港住民が訴える民主拡大の要求に対し、露骨な政治介入を続けている。「1国2制度」は中台統一のモデルなので、香港の現状を見た台湾住民の多くは「中国共産党は自分で決めた約束も守らない」と感じ、中国に急接近する馬英九政権にも警戒するようになった、というわけである。

 今回の首脳会談が双方の思惑通り、総統選の国民党候補に対するテコ入れとなるかどうか、不透明だと言われる所以だ。「習先生と馬先生(習さんと馬さん)」の握手の写真が全世界に配信されるだろうが、台湾の住民の多くが、それを喜ぶかどうかは分からない。

 さて、中国の習近平氏は、2012年11月に前任の胡錦濤氏から政権を受け継ぎ、中国共産党総書記、国家主席、中央軍事委員会主席として、党、国家、軍の実権を掌握している。自分に対抗しようとする勢力に対して、力ずくの弾圧を続けており、その権力基盤は胡錦濤氏やその前任の江沢民氏を凌ぐ、という見方も出ている。

 習政権は2022年まで続くと見られ、2027年までの任期延長を指摘する見方もある。ただし、今回の台湾総統選は民進党の勝利がほぼ確実視されており、2016年5月〜2020年5月は、たぶん「台湾初の女性総統となる蔡英文氏」と向き合わなければならなくなる。

 その時、習政権は「台湾野党」の国民党を窓口に対台湾工作を続けるだろうが、蔡氏が仮に再選されたら、民進党政権が2024年まで続く。習近平氏もあまり考えたくはない話だろう。国民党はそれほど住民の支持を失っている。

 現在の朱立倫候補は馬英九氏後継の有力候補の1人と見られていたが、前回地方選の敗北や各世論調査での国民党劣勢を見て、尻込みし、他の有力政治家も総統選出馬を辞退したため、国際社会ではほぼ無名の洪秀柱・立法院副院長(女性)が名乗りを上げ、今年7月、正式に国民党の総統選候補となってしまった。

 一方の蔡英文氏は、前回2012年の総統選に出馬して馬英九氏と戦ったため、知名度は高い。今年5〜6月には訪米して「米国の面接」を無事パスしており、万全の態勢で「当選」の日を待っている。

 洪秀柱氏を担ぎ出した国民党だが、洪氏が「最後は中国大陸との統一が必要」などと問題発言。形勢が一段と不利に傾いたことから、10月17日に臨時党大会を開き、洪氏を候補から外し、投票までわずか3カ月の段階で朱立倫氏に差し替えた。極めて異常な事態で、朱氏の出遅れ感は誰の目にも明らかだ。

 中国の近代史をごく簡単に振り返ると、1911年辛亥革命が起き、1912年中華民国成立。1919年中国国民党、1921年中国共産党がそれぞれ創建。1931年満州事変、1937年盧溝橋事件が勃発し、日中戦争開始。1945年日本敗戦。1946年国共内戦が始まり、1949年毛沢東の共産党が蒋介石の国民党を破って、中華人民共和国が成立。国民党は台湾に逃亡した。しかし、その後も「中華民国」が1971年まで国連の代表権を握っていた。

 1972年2月、ニクソン米大統領が北京を訪問し、1979年1月に米中が国交正常化、同時に米国は台湾と断交する。日本は1972年9月、中国と国交正常化、台湾と断交した。

 中台関係を考える上で忘れてはならないのは、中国共産党政権が主張する「1つの中国」の原則だ。それは「中国は世界に1つだけであって、台湾は中国の一部であり、中華人民共和国政府が中国の唯一の合法政府である」というもの。中国は国交を結ぶ際に、この原則の受け入れを各国に要求するので、国際社会から台湾は排除されていった。そのため、現在、台湾を「国家」として承認しているのは22カ国にすぎない。

 しかし、台湾は経済的な実力だけでなく、軍事バランス上、外すことのできない存在であるため、米国は断交直後に「台湾関係法」を制定し、軍事同盟関係を維持。中国の度重なる非難にもかかわらず、台湾への武器売却を続けている。台湾は、中国の艦隊を容易に太平洋に進出させない大きな壁となっている。

 中台関係は東西冷戦を背景に、軍事的な緊張が続き、人や物の往来はもとより、電話、郵便の直接やりとりも禁じられてきた。その後、1987年に台湾が民主化、大陸にいる親族訪問が解禁され、台湾資本の大陸投資も始まった。

 台湾資本は縁のある福建省、広東省を中心に、中国全土に進出。靴、アパレル、食品、日用品からパソコン、スマホの部品製造、組み立てに至るまで幅広く手がけ、香港や日本、欧米資本とともに中国の高度経済成長を支えてきた。中国大陸に住む台湾人は100万人に達する、とも言われている。

 経済関係が緊密化し、中国大陸に大きな権益をもつようになった台湾の経済界は、中台関係の安定を歓迎する。一方、政治体制の違う中国大陸と一体化することに対して、台湾住民には感覚的な拒否反応も残っており、「台湾独立」が難しいのなら、「現状維持」を望む、という考えも根強い。

 1996年に導入された台湾総統直接選挙では、最初が李登輝氏(国民党)、2000年と2004年は陳水扁氏(民進党)、2008年と2012年が馬英九氏(国民党)がそれぞれ当選。その度に、中台関係は変化した。

 中国側から見ると、李登輝、陳水扁両氏は「独立派」だが、馬英九氏は中台関係を重視する理解者だ。習近平政権としては、何とか国民党の朱立倫氏を当選させたい、と考えているはずだ。

 7日に予定されている初の中台首脳会談について、台湾行政院大陸委員会の夏立言・主任委員は、会談の目的について「両岸(中台)の平和を固め、台湾海峡の現状を維持すること」と述べるとともに、「対等、尊厳の原則を守り、いかなる取り決めにも署名せず、共同声明を発表することもなく、確固として国家主権と尊厳を擁護する」と強調した。馬政権としては、習政権と「秘密裏」に何かを約束することはない、と言いたいのであろう。

 これに対して、民進党の蔡英文主席は「馬総統は間もなく退任する総統である。馬総統が退任間際の時期に、個人的な政治評価のために、台湾の未来に枠をはめることを国民は絶対に許さないだろう」と批判した。

 馬総統や習主席がこのタイミングで会談に臨むのは、民進党への一定の圧力になることも計算しているからだろう。中台首脳会談が既成事実化し、あわよくば制度化も提起できるかもしれない、と見ているはずだ。

 中台関係の安定を望むのは、台湾の命脈を握る米国も同じだ。米国の手前、民進党は当面、「独立」は現実的な選択肢ではないと承知しており、「現状維持」を掲げるのが精一杯。その「現状」に首脳会談の実施が含まれることになるわけだから、蔡英文氏に向けられたハードルは、一段上がることになる。
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鈴木 暁彦(関西学院大学非常勤講師、元朝日新聞北京特派員)
早大法卒、放送大院修士課程修了。1985年朝日新聞入社、東京経済部、北京支局(中国総局)、大阪経済部次長、広州支局長などを経て、2011年より現職。調査研究報告「中国の報道規制とチベット取材」(朝日総研リポート08年7月号)、共著に「奔流中国 21世紀の中華世界」、「奔流中国21 新世紀大国の素顔」(いずれも朝日新聞社)
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