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金融秩序を塗り替えるAIIB

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【中国をよむ】中国も驚く、アジアインフラ投資銀行(AIIB)への加盟申請が殺到。「米国の外交的敗北」との論調が支配的だ 鈴木暁彦

公開日: 2015/04/13 (ワールド)

【中国をよむ】中国も驚く、アジアインフラ投資銀行(AIIB)への加盟申請が殺到。「米国の外交的敗北」との論調が支配的だ 鈴木暁彦

鈴木 暁彦 (関西学院大学非常勤講師、元朝日新聞北京特派員)

中国が主導する国際金融機関、アジアインフラ投資銀行(AIIB)の創設メンバー募集が3月末に締め切られた。中国メディアによると、56カ国と1地域(台湾)が加盟を申請し、4月9日時点で37カ国が創設メンバーに入った。米国の制止を振り切って英国が突然、3月12日に参加表明したことが流れを変え、わずか半月で米日カナダを除く主要国が雪崩を打って駆け込み、金融機関として何とか格好がついた形だ。

 戦後の国際金融秩序「国際通貨基金(IMF)・世界銀行体制」に挑戦する動きと見られ、先行きには不透明感も漂う。しかし、海外の主流メディアでは「米国の外交的敗北」を指摘する論調が支配的で、AIIB発足は歴史を塗り替える「事件」となる可能性も出てきた。

 加盟申請したのは、国連安保理常任理事国では米国以外の4カ国、主要8カ国では米日カナダを除く5カ国。先進国に新興国を加えた「G20」では13カ国が参加を表明し、中国を勇気付けた。日本は今のところ慎重姿勢だが、参加の可能性を残している。

 経緯を振り返ると、2013年10月、インドネシア・バリAPEC(アジア太平洋経済協力会議)で習近平主席が設立を提唱。ドルを基軸とする米国主導のIMF・世銀体制に対抗し、日米主導のアジア開発銀行(ADB)と地域的に競合するとして米国は反対し、同盟国が参加しないよう圧力をかけてきた。

 その結果、2014年10月24日、北京で設立覚書に署名したのはアジア地域の21カ国にとどまった(内訳は別添)。中国が当てにしていた豪州、韓国は参加を見送り、中国メディアの報道も抑え気味だった。

 ところが、それから5カ月足らずで形勢は逆転した。米国最大の同盟国と言われる英国が参加を表明すると、フランス、ドイツ、韓国、豪州といった「米国の盟友」が一斉に追随。ニュースサイト「観察者網」によると、当初メンバーの21カ国に加えて、新たに35カ国と1地域が申請した。  人民日報海外版は4月1日、「各国が我先にと『アジア投資銀急行』に乗り込んだ」と勝ち誇ったように伝えた。ニューヨーク・タイムズ紙は3日、「加盟申請殺到に中国も驚く」と題して、李稲葵・清華大教授(元中国人民銀行通貨政策委員)の談話を紹介。「米国人は神経質になって同盟国に対し『みんな参加できない。彼らは信用できない』と言ったが、最良の盟友たちは最終的に参加に落ち着いた。最も驚いたのは我々であり、米国人ではない」と報じた。

 創設メンバーの空白地域は北米のみ。情勢が一変したことを受けてIMF・世銀は「歓迎」を表明、アジア開銀の中尾武彦総裁もAIIBと協調を図る姿勢を示した。

 一方、新華社電(4月1日)によると、オルブライト元米国務長官は3月31日、AIIBへの対応について「我々は失敗してしまった」と語った。ワシントンポスト紙は3月27日、米タフツ大学のダニエル・ドレスナー教授の論考「米国政治システムの外交政策失敗の分析」を掲載。「AIIBの非合法化、周縁化を図るオバマ政権の1年にわたる努力は失敗に終わり、しかも惨敗だった」と論評した。

 ドレスナー教授は「大多数の中国ウォッチャーは半年前には米国にAIIB加盟を助言していた。中から影響力を行使する方がより賢明だというのが理由だ」と指摘。「中国がAIIB設立を目指した主な動機は、中国のIMF・世銀における発言権が自国の経済力と見合っていないと失望したため」と分析している。

 さらに、「中国の発言権を拡大する改革についてオバマ政権は5年前、中国と協議したが、議会の批准だけが欠けていた。私は2年前に『もし議会が改革を阻止すれば、親米的な国際金融機関を弱体化させ、潜在的なライバルに対しては、代替機関を設立あるいは支持する気持ちを引き起こさせるだろう。考えればすぐ分かるように、これは非常に愚かな対外経済政策だ』と書いていた。そして実際、議会は阻止を実行した」と解説した。

 フィナンシャルタイムズ紙も3月17日、ルー米財務長官が同日、「我々の国際的な信用と影響力が脅威に晒されている」「IMFにおける指導的役割を維持するには、改革の批准は不可欠だ」と述べた、と伝えている。

 同紙は4月5日、サマーズ元財務長官のコラムを掲載。サマーズ氏は「この1カ月は、世界経済システムの保証人としての役割を米国が失った時期として記憶されるかもしれない」「新たな国際金融機関の設立のため中国が奮闘した。それに英国をはじめとする多数の伝統的な同盟国が加盟しようとするのを米国が思いとどまらせることに失敗した。この組み合わせに匹敵する出来事はブレトンウッズ以降、思い当たらない」と批判した。

 さらに、「戦略的、戦術的に失敗する兆候は、前々からあった。世界経済に対する米国のアプローチは抜本的に見直されるだろう。各方面からの政治的圧力によって米国の機能不全はより深刻化してしまった」と付け加えた。  

 中国も手放しで喜んでいる訳ではない。インターネット上には、研究者の冷静な分析も投稿されている。例えば「中国評論新聞網」は4月5日、「AIIBブームの裏にあるリスクと不確実性の分析」と題した北京大学の大学院生3人による論考を掲載した。「ルール作りや経営管理体制をめぐる激しい駆け引きが予想され、中国の決意と調整能力が試される」「アジアのインフラ建設は地政学的な要素が避けられない」「AIIBは米中間のある種の『覇権争い』、中国の『世界支配』への一里塚と見られている。また、米中両国ともにアジア太平洋地域での孤立を懸念している。両国間には数多くの潜在リスクがある」といった指摘を紹介している。

 IMF・世銀およびアジア開銀を守るという「大義」のため米国が続けた努力が、外交的失敗という形で終わり、逆にAIIBを勢いづかせてしまったことは皮肉としか言いようがない。「米国の一極支配」の陰りを示す事象の一つにも数えられよう。

 IMF・世銀体制弱体化の危機が現実のものとなった今、米国が黙って見過ごす訳はないだろう。中国もそれを覚悟しているはずだ。いずれにしても今年は、AIIBから目が離せなくなったことは間違いない。


【加盟申請国・地域の内訳】 

初期メンバー:中国、インドネシアを除く東南アジア諸国連合(ASEAN)9カ国、バングラデシュ、インド、モンゴル、ネパール、パキスタン、スリランカ、カザフスタン、ウズベキスタン、クウェート、オマーン、カタール。

1月以降の申請:韓国、インドネシア、モルディブ、キルギスタン、タジキスタン、イラン、ヨルダン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、トルコ、エジプト、イスラエル、フランス、ドイツ、イタリア、ルクセンブルク、マルタ、スイス、英国、オランダ、オーストリア、デンマーク、フィンランド、スウェーデン、ノルウェー、アイスランド、スペイン、ポルトガル、ハンガリー、ポーランド、ロシア、グルジア(ジョージア)、ニュージーランド、豪州、ブラジル、台湾。
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鈴木 暁彦(関西学院大学非常勤講師、元朝日新聞北京特派員)
早大法卒、放送大院修士課程修了。1985年朝日新聞入社、東京経済部、北京支局(中国総局)、大阪経済部次長、広州支局長などを経て、2011年より現職。調査研究報告「中国の報道規制とチベット取材」(朝日総研リポート08年7月号)、共著に「奔流中国 21世紀の中華世界」、「奔流中国21 新世紀大国の素顔」(いずれも朝日新聞社)
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