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市場の欠陥放置した習政権

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【中国をよむ】中国株の本質は「国有企業専用の現金支払機」

公開日: 2015/07/21 (ワールド)

【中国をよむ】中国株の本質は「国有企業専用の現金支払機」

鈴木 暁彦 (関西学院大学非常勤講師、元朝日新聞北京特派員)

 中国証券市場を代表する上海証券総合指数が6月12日以降、3週間で3割下落し、ショックが世界に広がった。直前の暴騰を演出した金融・証券当局は、投資家の批判を恐れ、なり振り構わぬ「買い支え」に走った。時価総額は大きいが、中国株の透明性は低く、常に政府が相場に介入し、内部者(インサイダー)取引も事実上放任。「国有企業専用の現金支払機」とも言われる。こうした市場の欠陥を放置したまま、暴落を招いた習近平政権の信用は傷つき、市場化の推進を掲げた改革の「公約」にも疑問符が付いている。

 中国の証券取引所が上海市と広東省深圳市に誕生したのは1990年12月。上海株はリーマンショック前の2007年10月16日に史上最高値(終値6092.05ポイント)をつけた後、大きく崩れ、特に2012年以降は2000ポイント台で低迷していた。それが2014年7月下旬になって上昇相場に転じ、2015年6月12日には終値で5166.35ポイントに達した。1年で2.5倍の水準になる暴騰で、2006〜2007年の上昇(約2年半で6倍上昇)に次ぐ大型相場となった。

 今回の特徴は、政府高官が直接、メディアを通じて積極的に煽ったことだ。それに乗った市場関係者は「国家意思による強気相場」と宣伝、政府の権威を背景に庶民を信用させ、新規参入者は毎月、百万人単位で増えていった。

 証券会社店頭では、株価ボードの色が「赤」(株価上昇)に染まると、投資家たちは満面の笑みとなり、「緑」(下落)が溢れると、頭を抱える姿が目立った。そうした写真が何度も新聞紙面を飾った。

 1978年の改革開放後、年平均10%の成長を続けてきた中国経済も2012年以降、陰りが見え始め、2015年は政府も成長目標を7%に落としている。それでも国際的に見れば高い水準だが、不動産市況が低迷する中、習近平政権は、株価釣り上げによる短期的な資産効果に「期待」を寄せたようだ。

 人民銀行(中央銀行)の周小川総裁は2015年3月、金融緩和によって供給された資金が投機に向かうのではないか、という質問に対し、「証券市場への資金流入は実体経済を支えない、という見方があるが、私は賛成しない」と反論した。

 証券監督管理委員会の肖鋼主席(元中国銀行頭取)は「今回の相場は、必然的で合理的なもの」と主張し、「改革政策が支える強気相場(改革牛)である」と表現した。「牛」は英語で「ブル」、すなわちブルマーケット(強気相場=中国語で「牛市」)のことを指す。

 金融証券当局者の発言を受けて、メディアも盛んに「牛市」を取り上げた。人民日報海外版は3月18日、「『改革の全面的深化』の継続は、改革政策が支える強気相場(牛市)の『牛の鼻綱』である。年内に4000ポイント突破の可能性がある、という専門家もいる」と報じた。

 4月には、人民日報電子版が「4000ポイントは強気相場の始まりにすぎない」と断定的に伝えた。株価はこの時点で、9ヶ月前の約2倍の水準に達し、警戒感が出始めていた。メディアが「心配」を打ち消したので、一般投資家は「改革牛」「国家牛」という言葉を信じて、買いを進めた。

 中国国際金融会長の李剣閣氏(朱鎔基氏の元秘書)は「中国経済週刊」(6月1日付)のインタビューで、「『国家牛』(国家意思による強気相場)の考え方は非常に危険だ。上昇するだけで下落しない市場があるなら、もちろん歓迎だが、そんなものはない。株価の上昇・下落は国家意思を体現したものではない」と警告した。

 また、「強気相場を背景に、上場会社の合併・再編が相次いでいるが、公表前の情報を入手して荒稼ぎするインサイダー取引が多い。しかし、摘発されたという話を聞いたことがなく、非常に残念だ」と述べ、規律の弱さを怒っていた。

 徽商銀行(安徽省)の蔡浩氏はフィナンシャル・タイムズ中国語版(7月8日付)で、「メディアの報道は5月に入って微妙に変わった」と指摘。人民日報は5月25日の1面トップで、「権威筋」のインタビューを掲載し、信用取引と資産バブルのリスクに警戒を呼びかけていた。

 人民日報の紙面構成から、この「権威筋」は習近平主席自身と見られている。記事の中で、この権威筋は「中国共産党中央は、安定成長とデレバレッジの実現を期待する。そのため直接金融を増やし、借入金の比率を下げたい。適切に政策の調整が進めば、今回の強気相場は少なくとも3年は維持されるだろう」と述べていた。

 蔡浩氏は今回の暴落について、「外部信用取引(場外配資)に対する厳しい調査・処分が今回のバブル破裂の引き金となったが、監督当局の手法は間違いではない。問題があるとすれば、調査の着手が若干遅く、バブル破裂とリスク解消の時期も若干遅かった」と論じている。

 金融・証券当局が相場を後押ししたのは、経済面で何とか明るい話を編み出し、習政権による「改革の全面的深化」による効果も同時に宣伝しようと試みた、と考えられる。

 習近平政権が「改革の全面的深化」を発表したのは2013年11月。鄧小平路線を受け継ぎ、経済体制改革に重点を置く姿勢を強調したもので、2020年を目標実現の期限としている。取り組むべき課題としては、国有企業の近代化、私営企業の健全な発展、市場ルールの確立、金融市場の完備、対外開放の推進などを挙げている。

 中国経済の動向に注目する国際社会は、今後、市場化や透明化が一段と進むだろう、と期待を寄せた。しかし、実体経済と離れた今回の株価暴騰と暴落は、そうした見通しが甘いことを痛感させた。

 上海株が暴落した後、中国政府は底割れを防ごうと、買い支えに走り、取引ルールを闇雲に改定していった。一段の市場化、透明化、国際化の実現を「公約」としてきた習政権の改革姿勢にも疑問符が付いた、と言われても仕方がないだろう。

 在米ジャーナリストの何清漣氏はボイス・オブ・アメリカ中国語版(7月2日付)で、中国の株式市場の本質は「国有企業のための現金支払機である」と指摘した。1998年に登場した朱鎔基首相は「国有企業改革に3年で目処をつける」目標を掲げ、証券市場を積極的に活用。経営が行き詰まった大型国有企業(親会社)から、優良資産を切り離して子会社を設立。子会社の株式を公開し、資金を流し込む仕組みにした。

 実は、株式公開によって経営に対する監督が強化され、企業の近代化も進むのではないか、と期待されていた。しかし、「社会主義公有制」を守る名目で、上場国有企業の株式の約3分の2は、国有株や政府系が持つ法人株として「非流通株」に指定され、取引が禁止されてきた。現在は少し緩和されたが、それでも浮動株は平均で約4割に止まる。

 こうして大型国有企業の実質民営化や外資による経営権取得は進まなかった。親会社やその背後にいる政府にとって、上場子会社は単なる「現金支払機」にすぎず、今に至っている。

 何清漣氏は、「改革」の名の下に、国有企業の経営陣が大株主になれるようにしたことも問題だ、と批判する。彼らは株売却によって富豪になることも夢ではない。

 当局は今回の株価暴落後、国有企業の経営陣や大株主に対し、株式の売却を半年間禁止したが、実は2015年の上半期に経営幹部らが売却した国有企業株は5000億元相当(約10兆円)に達していた。この間、株式を買い進めた一般投資家らは市場を通じて財産を経営幹部らに提供したことになる。

 習政権が腐敗撲滅のため摘発しているトラとハエには、国有企業の幹部も多く交じる。朱首相が指揮した国有企業改革と資本市場の整備は、経営監視と規律の強化が伴わなかったため、結果的に石油閥や山西閥といった利益集団を次々に生んでしまった。

 トラやハエを捕まえるのは良いが、腐敗幹部を太らせた構造的な欠陥を是正することは、共産党の政権基盤に影響を与えかねず、習政権にとって最大の難関と言っていい。特に金融・証券部門の改革は、市場開放に伴う外資(外国)の影響力拡大を恐れるあまり、経済改革で最も遅れている、と指摘される。

 そうした中での株価変調は、習政権の「弱さ」を世界に暴露する結果となった。メンツを失った習近平主席は、経済に対しても何とか自分の言う事を聞かせたいと思っているかもしれないが、「市場」を制御しようとすれば、それだけ大きな代償をいつか再び払うことになるのは間違いない。
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鈴木 暁彦(関西学院大学非常勤講師、元朝日新聞北京特派員)
早大法卒、放送大院修士課程修了。1985年朝日新聞入社、東京経済部、北京支局(中国総局)、大阪経済部次長、広州支局長などを経て、2011年より現職。調査研究報告「中国の報道規制とチベット取材」(朝日総研リポート08年7月号)、共著に「奔流中国 21世紀の中華世界」、「奔流中国21 新世紀大国の素顔」(いずれも朝日新聞社)
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