延期ではないかと言われた中国の「中央経済工作会議」が行われた。いつもより数日遅れて12月15日と16日の2日間、北京で開かれ、習近平が重要講話を発表し、国務院総理李克強、政治局常務委員李強、趙楽際、王滬寧、韓正、蔡奇、丁薛祥、李希が会議に臨席したと新華社が報道した。
一見、何の変則もない報道ぶりではあるが、10年前の2012年の同じ会議の報道と比べて見ると、微妙な違いがある。2012年に開かれた中央経済工作会議は今年と同様、習近平が18回共産党大会を経て中共中央総書記などに就任したばかりであった。違ったのはその時習近平が初めて中国最高指導者になり、今回は彼が異例の三期目の始まりで登場した点だ。
2012年に、「習近平が重要な談話を発表し、国内外の経済情勢を分析し、来年の経済工作に対して要求と任務を打ち出した。温家宝(現任国務院総理)が今年の経済工作を総括し、来年の経済工作を手配した。李克強(2013年3月に国務院総理になる予定)が司会として、会議の終わりに登壇して会議を総括した」と新華社は報道した。
しかし、今年の新華社の報道は下記のとおりだった。
「習近平が重要談話において2022年の経済工作を総括し、現在の経済情勢を分析し、2023年の経済工作を手配した。李克強(現任の国務院総理)が来年の経済工作を手配した。李強(来年三月に国務院総理になる予定)が総括の講話をした」
ここで二つの点に注目したい。一つは習近平に関する表現の変化である。2012年最高指導者になったばかりのとき、彼は国内外の経済情勢を分析したが、今年になると、国内だけになっている。
また2012年の会議で李克強がやるべき仕事を一年間の経済工作に対する総括、また来年経済工作の手配もした。今年の会議で李克強は来年のやるベき仕事を手配総括しただけだった。
今年の報道で、習近平も李克強も同様に来年の仕事を手配したと書いたのも違和感がある。本来は李克強がやるベき仕事を習近平がやったと言いたかったのだろう。習近平を強引に持ち上げている。
もっと注目すべきなのは来年3月に国務院総理になる予定の李強に対する表現だ。ただ一言「総括の講話をした」としか報道されなかった。何に対する総括も分からなかった。
以上を見ると、習近平の独裁ぶりは依然として健在だが、彼が好きな個人崇拝の表現は強調されなくなった。李強に対しての報道ぶりも2012年の時の李克強に及ばず、お粗末だ。習近平派の不人気さが垣間見える。
なにより、今年の中央経済会議の新華社の長い報道をよくみると習近平が着任してからここまで推し進めた経済政策はほぼ全部逆転されている。世間に大きな衝撃を与えた。
これからの中国の経済の路線に対しては、「市場化、法治化、国際化の一流のビジネス環境を作るよう」と中央経済工作会議(下記は「経済会議」と略称)は強調した。
中国共産党二十回大会のあと、習近平が主導した計画経済への回帰で全国各地域において「大食堂(集合住宅地で食堂や高齢者の健康などの総合施設)」と言う公営組織が作られたばかり。
また優良な民間企業の国営企業への併合も加速された。アリババ創業者のジャック馬を含め、中国富豪ランキング入りした多くの企業家に圧力をかけ、民間企業の発展を大きく停滞させた。資金供給の突然停止で企業を委縮させ、債務危機に陥った企業も多くあった。「恒大」はその一番いい例だ。
いまになってなんの前触れもなく市場化を推し進めることが今後の中国の経済の発展方向と定めて、また「政策と世論の両面から民営経済と民営企業を支持し、大きくなるよう発展させる」と「経済会議」は決めた。民営企業の財産権と企業家の財産権と利益も法律に従い守る」ことを公約した。
不動産業界もこれまでの「制限」から「確かに必要な住宅の建設及び住宅の環境を改善する需要を支持する」へと転換した。幹部が逮捕されたり、国営企業と併合させてきたプラットフォーム企業やゲーム業界も育成する方針を打ち出し、対外貿易や外資に熱い視線を送った。しかし、習近平が「経済会議」の講話で「僕は一貫して民営企業を支持した」と言った。これに対して、中国の政治専門家や民営企業家たちもと纏わせた。一体何かが本音であろう。やっていること今度公言したことがあまり違い過ぎだ。
中国政府がこのように経済政策を急転換させた背景には経済の落ち込みがすさまじいからだ。急いで立て直さないと中国共産党政権の根幹まで動揺する。先日、全国多くの都市で行われたデモは習近平政権に警鐘を鳴らしたのではないだろうか。
新華社の報道は上述の一連の政策転換を報道したあと、下記のような一行があって、筆者は目を疑った。
「新班子(新たに選出された政治局常務委員を指すことば)」は新たな風貌で新しい業績を造りだして、頑張って勉強をし、専門家になり、玄人のような幹部になってほしい」と「経済工作会議」は強調したのだという。
これはまさに習近平派ばかりの常務委員に対して発した要求で、彼らが専門家ではないと言っているようなものだ。特に次期国務院総理になって、中国の経済を統括する予定の李強が素人で、玄人の官僚たちを指導すると皮肉っているように聞こえる。
浙江の農業大学を卒業して、ずっと政治畑を歩み、上海市長からいきなり国務院総理に抜擢され、国務院副総理の経験もなかった。
だから、彼が国務院総理になっても習近平の補佐官に過ぎないと見なされている。
そうしてみると新華社の「新班子(新たに選出された七人の政治局常務委員を指すことば)」に対して注文を取り上げている意味は深い。
習近平派は政権を掌握したとはいえ、最近の数週間のできことからみると、彼らが政権の中枢でしっかり仕事ができるのかこころもとない。