中国共産党第二十回大会(以下二十大と略称)が開幕した。公表された公報などを読むと、習近平は引き続き中国最高指導者であることは間違いないだろう。
「二十大」の開幕式は中継され、海外でも見ることができた。登場した習近平と、あとに続く元老を含めて中国最高指導部のメンバーたちがマスクをつけなかった。
そして、習近平に続いて現れた胡錦涛が、習氏より人気があった。ひな壇にいる代表たちがそろって胡錦濤とあいさつしていたが、習近平にはしなかった。元老の李瑞環がずっと習近平に拍手しなかったことも注目された。
習近平が期待した党内一枚岩ができていないのであろう。李克強はいつもより笑顔が少なく感じたが、疲れが印象的で、余裕たっぷりの習近平との違いが鮮明だった。
習近平と同じ列に座るはずのメンバーで、江沢民、朱鎔基、羅干,呉官正、王岐山の姿はなかった。王岐山はCICA(アジア相互協力信頼醸成措置会議)に参加したためにコロナの隔離期間中であるが、ほか元老四名の欠席は健康が原因だろう。しかし、朱鎔基は習近平に反対の意を示すために、建国記念日の宴会なども欠席したと言われ、今度も抗議を含めた参加拒否の可能性があるのかもしれない。
王岐山は会議場にいなかったが、彼はすでに重要な役割を果たしていた。CICAに参加中の13日,彼はカザフスタンのトカエフ大統領と会見した。そのときに習近平がこれからも中国の最高指導者であることを一足先に宣言した。
王が「習近平総書記の党中央の核心という地位を確立し、習近平の新時代の中国の特色ある社会主義思想の指導地位を確立したことで、中国は過去の10年間に巨大な業績が得ることができた(いわゆる「二つの確立」)」ことを強調し、「(今後)の党の新時代について、われわれはさらなる「二つの確立」の決定的な意義を深く理解し、自覚的に「二つの維護」貫徹して、(中略)「二十大」の偉大ビジョンを現実にする」と言った。
以上の話は習近平がこれからも「核心」であることを世界に向けて宣言したに等しい。また、習近平が今度の「二十大」報告の立案チームのリーダーと秘書長も担任したことで、彼がこれから選出される最高指導者になることを意味する。慣例によると、この二つの職は新しい指導部の総書記が担うからだ。
二十大の準備会議である中国共産党第七回全会(以下「七中全会」と略称)の公報からも習近平再任が濃厚だ。全文で約2500語の「七中全会」の公報は習近平を核心とする「二つの確立」などを強調し、「習近平」の苗字だけで、14回も書き込まれ、習政権の成果やその思想を讃えることを重点に置かれた。前任の胡錦涛が同じ全会の時に、三回しか彼の名を公報に書き込まなかったのと比べ、如何に習近平が異様な指導者であるかが分かる。
しかし、会議前からも囁かれた「習近平の新時代の中国特色がある社会主義思想」を「習近平思想」にして、彼の地位を毛沢東と並ぶまで格上げする目的は達成されなかったようだ。
習近平が党大会で100分間も費やして朗読した「二十大」の報告に関しては、いくつかのキーワードを注目すべきだ。まず「党(共産党)」と言う言葉が一番多く語られていることばで、全部で142回もでてくる。そして改革開放はほぼ使われず、その代わりに「中国式現代化」が新たに登場した。ほかに「闘争」や「社会主義文化」、「万全の分配制度」なども多くでてくる。
外交に注目したい。二十大の開幕報告で習近平は「独立自主的な和平外交政策」を語り、「対外開放」を堅持すると公言した。その翌日の17日、「二十大」の初めての記者会見で、「対外開放」を強調し、ハイ―レベルの開放を推進し、外資の積極的な役割を発揮させると公言した。
一見、穏やかな表現であるが、二十大の直前に行われた「七中全会」の公報をよむと、べつな意味も読み取れた。
「中国の特色ある大国外交を推進する」は「七中全会」の公報に書き込まれている。これも習政権が打ち出した新しい外交方針で、つまり国際社会で広く認識されている「戦狼外交」である。
「中国の特色ある大国外交は人類運命の共同体を核心価値として、一帯一路を手掛かりに尊重、公平正義、ウインウインの新型国際関係を作り、親しみ、誠実、恵、相容れの周辺外交理念を推進することだ」と定義された。
これは二十大後の中国の外交方針であることを理解する必要がある。日本のマスコミも取り上げたように「二十大」報告で台湾や香港に対する方針にも「戦狼」の色は強く帯びている。
中国の経済発展によってもたらした利益だけをみて、日中関係を語っている見方はある。が、それで習政権がもたらした中国指導部の上述したような意識変化を無視する可能性がある。
世界第二の経済大国となって自信を得た中国は社会主義のイデオロギー思想を強めて、「中国式」の理念を世界に広げ、中国のやり方を国際社会に認めさせ、支持するよう求めてくるだろう。これこそ「中国の特色のある大国外交」の本質である。
意にそぐわないようなことになると、すぐ「ウインウイン」と囁く優しい羊から戦狼に変身し、相手を罵倒する。だから今後は日本もこのような大国の強い姿を念頭に、中国と付き合う覚悟が必要になる。
だって「闘争精神を発揮し、闘争のなかで(中国)の国家尊厳と核心利益を守るべきだ」と「七中全会」の公報も書いたからだ。その延長線に「二十大」の公報でも「闘争」が強調されている。
今月の12日に、ソニー中国はまたも中国で非難された。公式「微博」に公開した一枚の写真が問題視され、「中国共産党二十回大会が開かれる直前にソニーがこのような写真を掲載し、悪意が満ち、死に値する」と中国文化網が批判記事で書いた。
写真は赤い紅葉の中心に犬の顔があって、「山花が咲くときに彼は中で笑う」と言う中国有名な句を書いただけであった。しかし、その日は中国革命のために犠牲となったヒーローたちの記念日に当たるなどとして、ソニー中国が批判の的にされた。
ソニー中国は慌てて写真を削除したが、キャッシャー コーピーの写真などが流れてまた批判され続けている。2021年7月にもソニー中国は同じようなことで批判され、罰金まで課されていた。今度はまたもいじめの的に。
理不尽であるが、中国政府が戦狼外交の方針を変えない限り、同じことが繰り返されるだろう。「外資」を重視するという「二十大」の方針を信じていいだろうか?
二十大が閉幕するまでに新たな七人の政治局常務委員ははっきりしていない。しかし、王滬寧が今回の二十大で引退するだろうと囁かれている。彼はこのたび「二十大」主席団の副秘書長を担任したので、前例から推測すると、69歳の彼は常務委員から除外の可能性が大きいだろう。
彼の後任は中国宣伝部長の黄坤明が有力だ。本当であれば黄氏の政治局常務委員入りは確実となる。また中国中央弁公庁主任の丁薛祥の常務委員入りも多くの専門家は確実視している。しかし、常務委員にとどまる可能性が言われていた李克強が残るかどうかは「不明だ」と台湾の中 央社が報道している。
「二十大」が予定通りに開かれて、習近平の集権は順調に進められているように見えた。しかし、党大会の直前に習近平が恐れた「黒ガチョウ」事件が起こった。北京市海淀区にある「四通橋」に、反習の横断幕が掲げられ、下記のような言葉が書かれた。
PCR検査は要らない、欲しいのは食べ物だ
ロックダウンはいらない、欲しいのは自由だ
嘘はいらない、ほしいのは尊厳だ
文化大革命はいらない、欲しいのは改革だ
領袖はいらない、欲しいのは投票だ
奴隷になりたくない、公民にならせてほしい
デモして、独裁の国賊、習近平を罷免せよ!
これこそ抑圧された中国国民の本音であることはいうまでもないであろう。
三選されても習近平を待っているのはいばらの道である。