習近平派が権力継承を急いでいる。12月30日に戦狼外交のシンボルの一人で秦刚が外交部長に任命された。そのわずか二日後の2023年の初日早々、元外交部長の王毅が党中央外事工作委員会弁公室主任に昇進され、中国外交を統括することに。
秦刚はもと外交部新聞司長、外交部のスポークスマン、外交部礼賓司の司長、外交部長補佐を歴任し、2018年に外交部副部長、2021年に駐アメリカ大使に。駐米大使になってから習近平が好んだ戦狼外交的な表現が目立ち、国際社会では不評だった。
しかし、それで習近平に対する忠誠心を示し、外交部長に抜擢された。王毅も習近平に好かれるように戦狼外交を貫き、狙った通りに中国外交のトップの椅子に座れた。これで今後中国外交の基調も決められた。今後中国はまたまた国際社会の批評や指摘に聞き耳を持たずに一方的に外交をし続けるであろう。
もっと不思議に思われたのは李強の動きである。李強は政治局常務委員に選ばれたが、また国務院総理になっていなかった。彼が国務院総理になるにはまだ数か月をまたなければならない。しかし、内部情報によると、12月25日、李強は「中央の新型コロナの情勢応対の指導小組(チーム)」のリーダーとして、会議に君臨し、講話もした。
本来、この小組(チーム)のリーダーは李克強であるはず。つまり国務院総理である人が担うべき職であり、李強がトップとして会議を出席することは規則違反だ。時期尚早なのだ。また先日の中央経済工作会議も李強が参加して、総括談話をした。習近平派はもう待ちきれずに、権力継承に動いた。習近平政権にとって、経済が今後権力の基盤を固める一番重要な分野で、李強の動きは習近平の三期目の新政権の要になる。
12月30日、新華社が「習近平の経済思想の指導の下、中国経済が安定しながら発展を図る」と言うタイトルの長編記事を公表した。この先の12月15日に開かれた中央経済会議で、習近平も重要談話をして、2023年の経済工作を手配したと。
また李克強が国務院総理になった途端に、習近平が「中央財経指導小組(チーム)」を作り、チームリーダーになった。それから李克強エコノミー説も消えて、李克強の存在感も希薄になっていった。習近平と李克強の対立が始まった。
特に2020年、前述した「中央の新型コロナの情勢応対の指導小組(チーム)」が作られ、李克強がチームリーダーになったときから、二人の対立は鮮明になり、公開化された。習近平がゼロコロナ政策を堅持すると主張するが、李克強はコロナを防疫しながら、共存しようとした。だから、習近平にとって、李克強などの共青団派が使いにくい。これこそ習近平派がなるべく早く権力を引き受けたいわけであろう。
しかし、習近平は海外の中国人からは「破壊の王」だと称されている。改革開放であれほどよくなった中国だが彼が治め始めると、歴史の車輪を逆行させ、内政も外交もダメにした。彼が三年間も拘って堅持したゼロコロナ政策はその代表例だ。
コロナの感染が拡大し始めたころに全国民のPCR検査やロックダウンなどをした。一時感染のコントロールができたように見えて、人々は行き過ぎたガバナンスも我慢した。しかし、習近平が公言した自ら指揮したロックダウンの長期化やPCR検査の強要などで、中国のコロナ感染防止は間違った方向へと向かった。
どこへ行ってもPCR検査の陰性証明コードが必要。場所も問わずに陽性の人がいるとすぐ大きな範囲を封鎖。それで病気であっても病院へ行けず、亡くなった人が増えた。食料の値段が不当に高く、賞味期限が過ぎたものを配られて、人々の不満は大きい。
なにより、PCR検査が日々厳しく、しかも頻繁に要求され、人権侵害も続発した。警察が雇われたPCRの検査に関わる人々と手を組んで、無断で住民の家をロックすることや抵抗する人に対する殴打などがあった。人々が彼を「大白」と呼び、「白衛兵」の呼び名まで付けた。彼らがやっていることは文化大革命のときの法律無視の「紅衛兵」と同じだからだ。
食べ物が足らないのに外部からの調達を禁止。政府が食料の販売とPCR検査を独占して、委託された業者だけが儲かり、腐敗が蔓延した。その後ろにかなりの利権も絡んで、談合や賄賂は政府幹部にも及んだという話をよく聞く。
オミクロンの毒性が低下したことで、世界が開放したにも関わらず、中国はますます厳しい管理を行い、習近平の鶴の一声でゼロコロナを断固と堅持すると要求されるだけではなく、それを幹部昇進の条件にもされた。
一方、習近平がイデオロギーを重視するあまり、アメリカ製のワクチンを拒んで効果不明の中国製のワクチンを人々に押し付けた。また独裁気質の彼は反対意見を嫌い、自分や中国政府に対する批判の声を力で抑えた。不満はますます大きくなった。
人々は中国共産党二十回大会のあとに中国政府がゼロコロナ政策を転換することを期待したが、李克強など反対派全員を排除して、習近平が三期目の最高指導部のメンバーを全部自分の側近にしたことで、人々の期待が外れた。
独裁でゼロコロナに対する支持の声しか習近平には聞こえず、人々の不満などの真実の声を伝える人が居なくなった。忠誠心を示した人しか重用せず、真実を知る術もなくなった。現実に反する情報で習近平が誤った判断を下し、引き続きゼロコロナ政策に拘った。これは民衆の怒りを爆発させて、「白紙革命」につながったのだろう。
豹変の如き習近平がゼロコロナ政策を止めたが、自分の失敗は認めなかった。慌てふためいて、経済に勝負をかけたが、習近平が独裁のやり方を放棄しない限り、例え李強が国務院総理になっても、勝算は低いのではないだろうか。
12月31日に、習近平が例の新年賀詞を公表した。「白紙革命」以来、初めてコロナに言及し、これまでの過ちを認めず、防疫が新たな時期に入ったと言い、「堅持して必ず勝利する」と呼びかけた。
「白紙革命」に対しては少し柔軟な姿勢も見せた。「同じことに対してさまざまな意見がある。これは普通だ」と。
毎年、習氏が新年賀詞を公表したとき、彼の後ろの本棚に飾った写真が注目される。今年は数が増えただけではなく、映る人も興味深い。娘とともに撮った写真のほかに、江沢民、胡錦涛、習氏の三人がともに撮った写真や、自分の父親が江沢民と乾杯する写真も並べられた。
これらは政府系マスコミに大いに報道させ、自分の正当性を強調するとともに、党大会での胡錦涛に纏わる様々な憶測を打ち消したいのであろう。同時に自分の家族と和気あいあいなことをアピールすることで、親しみやすいイメージを作りあげたいと思っているのだろう。
新年賀詞が言っていることはすべて立派であるが、「白紙革命」に参加した学生などは行方がわからないままだ。
だから2023年、何を言ったかよりも、習近平と彼が指導する中国政府が何をやるのかに注目したい。