1月28日、中国SNSの「微博」に流れた映像が話題になった。中国政治協商会議の主席・汪洋がラフな格好で北京の首都劇場に現れ、観劇を楽しんだと言う。なるべく目立たないように座席に座った汪洋は紺色のジャッケトに白いマスク姿、時々笑顔を浮かべながら観劇を楽しんだ。
カーテンコールになると、ほかの観客とともに拍手を送り、立ち上がって最後までエールを送った。この一幕は他の観客に撮られて、アップされた。演目は「正紅旗下(正に赤い旗のしたで)」。貴重な一幕は香港の「星島日報」など海外の華字新聞に詳しく取り上げられたが、中国国内の政府系メディアでは報道されなかった。
検索してみると、2021年8月までの汪洋の観劇報道は数多く出てきたが、その後は一回も報じられていない。その時が彼の不運の始まりだったかもしれない。
習近平の意に反して、汪洋の人気は健在だ。観劇映像に対するネットの書き込みも好意的なものが多かった。ただし、ラフな格好での目立たない観劇は、汪洋が在任中にも関わらず、まるで引退生活を楽しんでいるようだとの見方もあった。
今年67歳の汪洋は慣例通りなら政権の中枢に残り、国務院総理の有力候補の一人のはずだったが、昨年行われた中国共産党第二十回大会で総理の李克強と、副総理の胡春華と共に指導中枢から排斥され、中央委員にもなれなかった。汪洋は今年3月の全国人民代表大会で、全国政治協商会議の主席を辞任する見通しだ。
李克強首相の後任の最有力候補だった人物は、いまや観劇すら報道されない立場に。胡氏など共青団派が治国の理念が違うことを理由に、自ら習近平との協力を拒否したという説もある。改革派が習近平のイデオロギーと一線を画すのは賢明かもしれない。
今年3月の第十四回全国人民代表大会に向けて、国務院の人事が注目を集めている。李克強の代わりに李強が国務院総理になるのは間違いないが、副総理などの人選はこれからだ。
1月31日に中共中央政治局第二回共同学習会が開かれた。香港のマスコミは会議の内容や参加者の名簿、発言者などから次期副総理を推察している。
「香港01」の分析では、中央政治局委員兼陕西省書記の劉国中、中央政治局委員兼国家発展改革委員会書記の何立峰、中央政治局委員兼遼寧省書記の張国清が副総理候補としてあがった。3人は副総理の条件である中央政治局委員で、代表発言もしる。また、何立峰はよく知られた習近平派だ。
中国の国務院の新しい人事に関して、1月26日付けの香港「明報」はもっと衝撃的な予測を報じた。今月、中国共産党の第二十回二次全会が行われる予定で、国家指導機構人事リスト案が審議され、習近平の三期目政権の人事はほぼ確定する。
李克強が主導する国務院の重要ポストは全部替えられるらしい。昨年末、国務院はしばしば公に習近平に反対姿勢を打ち出した。それを避けるため、全ての人事を新首相と目される李強が使いやすい人間にした方がいいのだろう。新国務院総理は李強で、常務副総理は丁薛祥になる。3名の副総理はそれぞれ何立峰、劉国中、張国清と報じられた。
国務委員は次の5人だ。王小洪が公安部長も兼任、李尚福が国防部長を兼任、呉正隆が国務院秘書長を兼任、秦剛が外交部長を兼任する。もう一人の国務委員は谌贻琴で、唯一の女性だ。彼女は貴州省元書記で、第二十回中央委員に抜擢されたことで、去年の12月9日にその職を離れた。
もし、この人事が現実となれば、現在の国務院総理の李克強を始め、副総理の韓正と孫春蘭、胡春華、劉鶴など全員が辞任することになる。そして、李克強が統括した部門の幹部およそ7割が更迭される可能性もある。天地をひっくり返すような激変は中国国務院の歴史上でもまれだと「明報」は論評した。
「明報」は香港で政治的に中立だと信頼されている。上記のような人事が実現するのか不透明だが、習近平主導なので、仰天の人事もありうるだろう。一方で、いまの習近平に対しては国内外で批判が高まっており、人事が思い通りになるかはまだわからない。