習近平の三期目政権を固める中国の「全人代」が華やかの演出に飾られて、閉幕した。習近平にとっては三期目政権の新国務院の人事などが確定する重要な大会で、並み並みならぬ力を入れていた。波乱なく習近平が3月10日に3期目の国家主席、軍事委員会の主席に就任し、韓正が国家副主席になった。
国務院の人事も彼の側近ばかりにし、腹心の李強を国務院総理に据えた。これで習近平が思った通りに党と政府を全部自分の配下にし、さらなる権力掌握に成功した。一見、万事順調に見えたが、裏をみると、習近平はいまだに安心ができないでいる。
3月6日、習近平は大会の人事任命の際に不可解なパフォーマンスをし、ゆるぎない権力をアピールした。趙楽際が人民代表大会委員長になったと習近平が読み上げると、趙氏はわざわざ習近平のところに行って、握手を求めた。
王岐山や韓正なども同じように離席までして握手を求めた。その前例がない意味不明の行動は習近平へ感謝の気持ちが表したかったからか?それても習近平の核心地位を世に知らせるパフォーマンスであろうか。
本連載にも取り上げたように、この度の「全人代」の前から李克強が率いる共青団派の変調は明らかだった。開幕初日に政府工作報告を読み上げた李克強がゼロコロナの勝利に触れず、習近平が推し進めた一番肝心は政策を無視した。
李克強が政府報告を読み終えたあと、慣例に従い習近平が彼の前にきて労をねぎらう握手をかわすべきであったが、習近平は目も合わさずに異例の短い握手でその場を去り、李克強を辱めた。初めて習は李との不仲を公にした。
この度の開幕式で、国家指導者などが入場したとき、現場の雰囲気は明るさがなかった。習近平が思った通りに長期政権を手にしたのに、表情は暗くで、辛気臭さが滲む。何かを心配しているのであろう。
3月1日、習近平の腹心で、昨年末に中央規律検査委員会の書記に抜擢された李希は会議で習近平に安心できる職員になるよう部下たちに要求し、また忠誠で汚職しないで、逞しく闘争するようになってほしいと強調した。
この談話は習近平がその部門に安心できていなかったことを李希が自ら暴露しているようだと内外に注目された。習近平は思った通りに三期目政権をスタートさせたが、政権の基盤は常に政治闘争にさらされていると知り合いの政治専門家は分析している。
10年前に中国の最高指導者になって以来、習近平は反腐敗を刀にして、反対派を取り締まってきた。施政して10年が過ぎたいまになっても、その危機感と不安は拭うことができていない。去る2月24日、全国規律監察幹部の整頓と教育会議で李希はまたも次のように殺気に満ちた講話をした。
「二股膏薬のような人間を断固として調査して処分し、(前略)刀刃向己主动说清问题(刀を自分に向けて自ら過ちを自白しなさい),严肃认真坚决清理门户(真面目で真剣に断固と派閥の破壊者を粛清し、駆除せよう)」
以上のような文化大革命時代を思い起こさせるような言葉に、世の中は驚いた。いうまでもなく腹心の李希が習近平のために中央規律検査委員会のトップに据えられた。着任してまもなく、彼はもう刀を自分にむけるまでの粛清が必要と叫びだした。
毛沢東時代のように多くの命を犠牲する政治闘争が再来する号令のように聞こえて、内外の中国政治専門家が驚きを感じた。すでに鄧小平によって禁止された文化大革命のやり方が復活している。これは習近平派の特徴で、また李克強を始めとする共青団派との大きな違いてもあった。
習近平一強の時代に入り、李克強をはじめとする共青団派を全部政権の中枢から追い出したが、本当はまだ多くの二股膏薬のような人間が存在し、習近平を悩ましている。だから三期目が手に入ったにもかかわらず、側近の李希に殺気に満ちた講話をさせて、反対派に警告を発しなければならなかった。政権に対する安全感が持てなかった習近平は、不安でしかたがないのであろう。
李希の「派閥の破壊者を駆除しよう」の叫びとともに、新華社など多くの政府系マスコミが習近平の署名文章が「求是」雑誌に刊行されたという重要ニュースを報道。習近平の文章のタイトルは「新時代における党と人民が奮闘と前進に歩むべき道」で、延々と共産党の全方位の指導を堅持するようと論じた。
3月2日、まさに両会の直前に、「中央政治局委员 、书记处书记、全国人大常委会、 国务院 、全国政协党组の成员、最高人民法院、 最高人民检察院の党组书记が党中央と习近平总书记に述职(仕事を報告)する」という長いタイトルの文章が新華社など多くの政府系マスコミに掲載された。
本来であれば、国家主席の習近平が中国の国会にあたる全国人民代表大会常務委員会に報告すべきであるが、逆になったことは違憲だと指摘されている。だが、習近平が全くそのことを気にせず、あらゆる部門を自分の手に収めたがっている。
政府が完全に党の下に置かれたことはまさに鄧小平の改革開放と逆行することになった。これこそ全人代の真の目的であった。しかし、李強が率いる国務院がこれからの経済目標を無難に達成できれば、問題がないが、失敗すれば、習近平の逆行は致命傷になる可能性もある。
集権すればするほど不安を感じ、習近平は常に粛清や運動をもって威嚇や追従の忠誠心を試さなければならない。全人代は終わったが、習近平はジレンマにさいなまれて人間不信に陥り、孤独な帝王へと直進している。