やっと習近平がゼレンスキーと通話した。ロシアがウクライナを侵攻してから14ガ月になったいま、習近平とゼレンスキーの通話が初めて行われた。
世界から歓迎の声を聞こえる一方、なぜ今という疑いも生じている。世界の多くの国から停戦の調停を期待されたが、習近平はなかなか重い腰を起こさなかった。ロシアが侵略したと認めたくないため、ゼレンスキーとの接触をさけているようにも見えた。
侵攻以降、習近平はプーチン大統領と絶え間なく交流し、電話や直接会談などをおよそ10回も続けたが、ゼレンスキーのコールを無視し続けた。そして突然、4月26日に習氏はゼレンスキーと通話した。
ほぼ一週間前の4月21日、中国駐フランス大使の盧沙野がフランスのテレビの取材を受け、とんでもない爆言を吐いた。彼は旧ソ連からの独立国の主権を否定するかのような発言をし、世界を騒がせた。EUだけではなく、関係諸国もこぞって抗議や反対をし、不愉快を顕わにした。盧氏の発言は中国が世界秩序に挑んだ一端と見なされた。
騒ぎがあまりに大きくなったので「それは大使個人の見解」だと中国政府が慌てふためいて弁明し、習近平が疾風迅雷の勢いでゼレンスキーと通話をした。その通話を、国際メディアはすぐトップ扱いで集中的に報道した。案の定、盧駐フランス中国大使の暴言騒ぎはかき消された。
これこそが中国政府が欲しがっていた効果であった。同じ手法はよく使われている。4月18日、中国北京市の病院で大きな火事が発生した。公表された死「者数は29人であった。その火事に関して、独立系マスコミが死亡人数から、病院の業務ミスや、違法の臓器移植などが隠されているではないかと疑問視したが、中国政府は報道を禁止した。
一方、4月20日に、BMWアイス事件が発生した。本来は中国人が中国人を差別したにもかかわらず、BMWが中国人を差別した事件にされて、8億人のユーザー数を誇る中国版ツイッターの「微博」でアクセスランキング入りし、連日大きな話題となった。これで多くの死者を出した北京病院での火事が話題にならなくなった。
中国の「微博」も中国政府にコントロールされているので、アクセスランキングは政府の意向が反応されている。BMWアイス事件を大いに語らせて、人々の怒りの外国にむけさせた。
習近平とゼレンスキーの通話も盧駐フランス中国大使の暴言の悪影響を緩和したい中国政府の意向が隠されている。盧中国駐フランス大使の暴言は習近平政権の外交政策の本音を漏らしたと見られた。盧駐フランス大使の「個人見解」だと中国政府は公式コメントを出したが、中国事情をよく知る専門家は笑うしかない。
「外交无小事(外交に小さなことがない)」と言うのが新中国を建国した総理、周恩来が外交官に与えた指示であった。つまり、外交官の言動は国の政策に一致しなければならない。盧駐フランス中国大使もそれをよく承知したうえでの発言で、個人の見解だと言うのは、詭弁にすぎない。
習近平が着任してまもなく、旧ソ連に関する発言で物議を醸したことは未だに記憶に新しい。2012年12月、彼が深圳と広州を視察したとき、ソ連の解体に関して、「男(気)が一人もいなかったから、誰も(ソ連の解体に)抗しなかった」と言った。その言葉はまた習の語録集に収録されるほど、繰り返し党員や中国の人々に勉強させている。語録集で習近平がソ連解体のほかに東ヨーロッパのカラー革命にも触れて、誰も(社会主義の旗を変えられたことに)男らしく抗争しないで、信念がないことを強調した。
習近平の本音はソ連解体が悔しかった、東ヨーロッパのカラー革命にも不満を持っていた。それこそ中国外交官たちの心に銘記された外交方針の基礎である。このような方針なのだから、クリミア半島の帰属やかつて旧ソ連から独立した諸国の主権に対する盧駐フランス大使の見解も可笑しくはないであろう。これまでに秘められたあるいは言う機会がなかった中国政府の方針を盧駐仏大使が言っただけだと考えた方が理に適う。
またこれで、習近平がプーチン大統領と目指した世界新秩序の一端も露見された。ロシアが旧ソ連を回復させて、東ヨーロッパの関係国も社会主義国に戻し、一方、台湾は中国の所属になる。そうした上、アメリカに替わって中国が、世界の頂点にたつことなどが、習近平がプーチン大統領と共に進めたい「百年の変局」であろう。
盧駐フランス中国大使の発言は国際社会の反応を探ろうとして、行ったと見る向きもあった。しかし、思ったより国際社会の反発が激しかったので、外交で欧州などの国とアメリカの間にくさびを打ちこみ始めた習近平にとっては火消しが必要であった。それでロシアとウクライナの停戦仲介を嫌がっていた習近平が唐突にゼレンスキーと通話をしたのであろう。
中国駐フランス大使館が一度盧氏の取材全文を公表したが、騒ぎのあとに消された。国際社会はクリミアの帰属などの発言にばかりに注目した。
しかし、その取材に日本に関する発言もあった。キャスターが質問のなかでドイツがすでに自分の戦争犯罪に関して経済や法律などの代償を払ったことに触れ、今度のロシアの戦争の罪に関する中国を代表する大使の見解を求めた。それに盧大使は次のように答えた。「なら日本に彼らが中国侵略戦争で起こした罪に代償を払うように求めてほしい」と。
この答の裏を読むと、日本は未だに日中戦争で犯した罪に代償を払っていないと中国外交官たちは思っている。また堂々と国際の場で主張をしている。中国政府の指導によって、外交官たちの共通認識となっているからだ。
だから日中友好条約は繰り返してはならない歴史の一ページを終わらせるための条約ではなく、中国が都合よく支援を引き出す書類だと筆者は思う。
二階さんが言っているような「頼れば、飯が食える」という幻想を抱いては危険だ。