危機に瀕する中国経済を救うために、李克強が「ゼロコロナ」に対抗する政策を打ち出した。しかし、「ゼロコロナ」で利権を手にいれた人々だけではなく、「ゼロコロナ」を主導してきた習近平も簡単には譲れない。
習は四川視察の際に、再び「ゼロコロナを堅持する」と訴え,「非戦争軍事行動綱要」実行令を承認した。6月中旬には、唐突にも反腐敗や経済をテーマとする会議を主催し、盤石さをアピールしている。
6月17日、中国共産党中央政治局会議が開かれた。習近平が主催し、金融関連企業の改革の報告が主要議題だったと「新華社」が報じている。 記事の書き出しは「習近平同志を核心とする党中央」、内容の大半は金融改革よりも習近平新時代の「中国の特色ある社会主義思想」や「二つの維護(擁護)」などイデオロギー的な事柄にさかれた。
「二つの維護」の一つは「習近平総書記の党中央核心及び全党の核心地位を断固として守ること」。もう一つは「党中央の権威と集中統一指導を断固として守ること」であった。
さして長くない記事中、「習近平同志を核心とする党中央を断固として擁護」は二度も繰り返され、強調された。
主要テーマの経済は忘れ去られ、記事の約七割は党中央、つまり習近平との一体感を保つべきとの主張に占められていた。習近平が讃えられてはいるが、見方を変えれば習の自信のなさが滲んでいたと感じざるをえない。
その日、もう一つ大きなできごとがあった。中共中央政治局第四十回集団学習会議が開かれ、またもや習近平が主宰、長い談話を発表した。会議のテーマは反腐敗闘争の継続だった。
5月5日の時点では、習近平主催の中央政治局常務委員会議が「ゼロコロナ堅持」を決定、9日には「人民日報」が「ゼロコロナの方針を動揺せずに堅持せよ」と言う社説を掲載した。
しかし、今になって、「ゼロコロナ」よりも「反腐敗」が唐突に前面に打ち出されている。習近平がトップに就任してから推し進めた反腐敗路線に戻ったようだ。
ゼロコロナはいずこに? 国民は戸惑うばかりだ。
ここで反腐敗に関する習近平の新しい言葉に注目したい。6月18日に公表された新華社の報道はかなり長いのだが、よく読むと習近平が置かれた今の立場が透けてみえる。
習近平はまず「反腐敗は重大な闘争だ」「負けてはならない」と強調、「反腐敗闘争は幹部、特に高級幹部に対して厳しく行い、権力が大きいほど、ポストが高いほど畏敬の心を持つべきだ」と主張した。
習近平の意図は誰の目にも明らかだ。習に対して「畏敬の心」を持たない高級幹部に強い不満を持っているのだ。そして彼は強い警告を発した。「中央政治局の同志たちは必ずもっとも厳しい基準で自らを律すべき」と。
一連の発言を読み解くと、習近平の党内での威信は政府系マスコミが宣伝するほど強固ではなかったことがわかる。
政治局委員でさえ支持していない者が存在する。本連載で指摘し続けた中国最高指導部内部の権力闘争を習自ら認めた形だ。
いまになって、習近平が反腐敗を再度持ち出したことは秋に開催予定の中国共産党第20回党大会と関係があると政治学者が次のように指摘する。
「トップ就任以来、政敵を腐敗取り締まりの対象に選んで粛清してきた。彼が3期目続投を決める秋の党大会を前にした一番重要な時期に、邪魔者に打撃を与える反腐敗という武器を使わないわけがないだろう」と。
「フランス国際ラジオ(rFi)」中国版は、「20回党大会の前により多くの側近を指導部の要職につけさせるために、習近平は再び反腐敗の旗を揚げる必要があった。(中略)今年の8月まで、高級幹部に対する粛清が行われる可能性がある」と報じている。
「反・習近平」派の動きも加速している。いま注目は「翡翠運動」だ。
字面の通り、「翡」は非の下に簡体字の“习(習)”が二つあって、「非習」と読める。「翠」は二つの“习(習)”の下に「卒」を書いて「習が終る」意味にもなる。「翡翠運動」とは習近平を倒す運動である。
6月14日、「議報」に習近平を倒す「翡翠運動提案書」が掲載され、ネット上で拡散された。「提案書」は習近平の内政と外交における失策を羅列し、習政権は1989年の天安門事件以来、最も暗黒な政権だと批判した。中国を北朝鮮にしないためにも習近平を権力の座からひきずり降ろす運動に参加するよう呼びかけた。
「議報」の編集長は元中国共産党中央党校の教授祭霞である。彼女は中国建国に関わった高級幹部の親を持ち、特権階級の「太子党」または「紅二代」だった。2012年の定年後に米国に渡った。2020年6月に習近平を批判する録音が流出して注目され、8月17日に党籍は剥奪、定年の待遇も取り消された。現在アメリカでネットメディア「議報」を主宰しながら、海外にいる民主活動家とともに運動に励んでいる。
「提案書」は習近平が「政治面で歴史の車輪を逆回しにして、経済を崩壊に向かわせ、法律を飾り物にした」と批判、3選を狙う習近平がデジタル王朝を作り、国民を奴隷にすることを企んでいると指摘した。中国人が立ち上がり、「翡翠運動」に様々な形で参加するようと呼びかけている。
以上の動きに応えるように、習近平の進退を決める北戴河会議に長老たちが集まったと いう噂も流れてきた。真偽は不明であるが、習近平の再再任の道は山あり谷ありと いえるだろう。