ロックダウンの犠牲を払った中国は、「ゼロコロナ政策」の勝利を宣言したがっている。しかし、ロックダウンの経済への打撃は並ではない。国務院のトップ李克強首相はゼロコロナ政策の悪影響を最小限にしたいと考えているようだ。異例の10万人拡大会議を機に取り戻した権限を使って、 “釜底抽薪”( 問題解決のためには、根本原因を取り除かなければならないというたとえ)、つまりゼロコロナ政策より経済安定を優先する政策を打ち出した。
▽「ゼロコロナ」の”利益チェーン”を狙い撃ち
「ゼロコロナ」は習近平主席の看板政策で、自ら指揮を執ると公言しているほどだ。政治的立場で昇進などを決める中国だから、幹部たちは懸命にコロナ感染を防ぐことに忠誠心を競い合った。習近平が推し進める政策だから、資金投入も惜しまなかった。
PCR検査やそれにかかわる人々の給料などのコストは主に医療保険金を財源としている。社会主義制度の下、コロナ感染防止のために金に糸目をつけずに政府の医療保険基金を活用してきた。しかし、日本の一部のマスコミも取り上げたように、莫大な資金を注ぎ込み過ぎて、もともと停滞気味だった経済の足枷になっている。
中国財政部のデータによると、衛生と健康に投入された予算は2019年から増加し、今年1月から4月までに7303億元(約14兆3450億円)と、前年同期比で7.5%も増加した。PCR検査などコロナ感染予防の費用がかさんだ。
政府丸抱えの感染防止措置は大きな落とし穴となり、中国経済は停滞の危険にある。一方で、PCR検査及び隔離施設の建設、食料品の購入や配布などに一部の関連企業と個人が群がり、”利益チェーン”ともいうべき構造が出来上がった。
「中国人が頻繁なPCR検査を要求されるのはこのためだ。一人一回のPCR検査は最大30元(約500円)」と上海の情報源からわかる。
新京報がPCR検査のコストを次のように報道している(6月3日付)。一人で単独検査する場合、コストは16元、10人同時の検査なら3.5元だ。中国の検査方法には2通りある。一人の唾液だけを測るか10人分を一緒に測るかである。
一人の場合を「単検」と言い、10人以上の唾液を混ぜて測る方法は「混検」と呼ばれる。利益を最大にするためにこっそり「混検」が日常化しており、たくさんの事例が摘発されている。「ゼロコロナ」を求めるあまり混乱が生じ、一部に利権の隙を与えた。その利益は莫大だ。
「中国はPCR検査実施に約3,000億元(約6兆円)を費やした。その半分は今年だけで使われた」と中国華創証券グローバル経済研究グループが試算している。あまりに簡単に儲かるため、「ゼロコロナ」ビジネスに群がる企業が増え、水増しや不正請求も続出した。
「ゼロコロナ」政策を口実に蔓延した不正行為の対策に李克強は動き出した。5月25日、まず全国各地の幹部をインターネット会議方式で集めて異例の10万人大会を開き、号令をかけた。
翌日26日に新華社は、中国国家医療保障局の責任者がPCR検査費用は地方政府が負担する方針を打ち出したと報じた。国の医療保険基金が「ゼロコロナ」のために使えなくなったということだ。
さらに27日には、中国国家医療保障局と財政部、国家衛生健康委員会、国家中医薬局が連名で通達を発し、医療保険基金の健全性を守るために監督検査チームを派遣し、2020年1月1日まで遡って全国の医療機構を査察すると伝えた。こうした矢継ぎ早の措置により、PCR検査をめぐる”利益チェーン”にメスをいれた。
中国国家衛生健康委員会疾病予防コントロール局副局長の雷正龍が6月5日の記者会見で、‘‘九の不許可“を発表、勝手に隔離範囲を拡大したり、感染度の低い場所を閉鎖したりすることを禁じた。‘‘九の不許可“は「ゼロコロナ」で人々の移動を制限してはならないと定め、労働者が仕事にいく条件が大幅に緩和された。
以上の措置は、PCR検査やロックダウンなどで儲けることに歯止めをかけ、地方幹部たちにとって最重要政治課題だった「ゼロコロナ」政策の優先度が変わってきている。
習近平の「ゼロコロナ」政策は色あせ、李克強をリーダーとする国務院が主導して中国は「ウイズコロナ」政策へ転換し始めている。
▽習主席、上海ではなく四川へ
「ゼロコロナ」の目標を達成するため、約二か月のロックダウンで上海は大変な目に遭った。慣例に従えば、習近平が視察しに行くはずであるが、彼は上海ではなく四川省に現れた。6月8日、四川省の眉山で一つの村と一つの寺を視察したと新華社が報じている。
コロナや経済の停滞問題に加えて秋の中国共産党第二十回大会の準備などで大変な時期に、習の観光のような視察に人々は戸惑った。報道の写真を見ると習近平はいつもより白髪が目立ち、またこれまでと異なりマスクもほぼしていなかった。
新華社の報道によると、習近平は翌9日、駐重慶解放軍の大校(上級大佐)以上の幹部に接見した。「習氏は四川省の解放軍幹部と会い、支持固めにいった」という解説も聞こえてきた。
お気楽そうな習近平と違い、李克強は6月8日、国務院常務会議を主催した。12省に派遣した医療監督チームの報告を聞き、引き続き外資の安定、外国への市場開放を進めるよう指示した。
中国の最高指導者とナンバーツーは全く異なった行動をとっている。実務離れの習近平。一番重要な経済振興のために忙殺される李克強。
直前の6月6日に、「光明日報」の公式SNS「微博」で一つの言葉が話題となった。それは‘‘陋习如刺该拔除(古くて悪い習慣はとげの如く、抜き除くべきだ)“であった。
“習”は習近平を連想させる言葉だったので、すぐに話題となった。「習降李昇」は本当ではないかという密かな期待を込められる形で、中国語圏ではその写真が拡散された。
一部のマスコミも習・李の争いを取り上げて、「習下李上」と表現した。“上”と“下”は中国語では職務から辞任あるいは追われたというニュアンスが含まれている。しかし、今の習近平と李克強は争いはしているものの、職務に変化はない。本連載の(1)では「習降李昇」と表現した。“昇”と“降”は職務を指すというより、人気や待遇の違いを主に意味するからだ。
変化は起きたが、勝負はまだついていない。反習勢力は動いた。中国上層部の権力闘争はまだまだ続く。