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トランプが炙り出した米国の建国以来の矛盾

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【内田樹氏に聞く】バイデン大統領に「国民的和解は難しい」

公開日: 2021/01/04 (ワールド)

撮影・安田真理 撮影・安田真理

角田 裕育 (政治経済ジャーナリスト)

 思想家で仏文学者の内田樹氏にアメリカ大統領の今後の行方をインタビューした。今回現職ながら“敗北”(本人は認めていない)した共和党のトランプ大統領から、民主党バイデン次期大統領になってアメリカはどのように変わるのだろうか? 内田氏に言わすと、アメリカの成り立ちの歴史から、それほど大転換も訪れないのではないかという。(聞き手は角田裕育)

― アメリカ次期大統領はトランプが敗北してバイデンに確定しましたが、内田さんはトランプ現象をどう思われますか? 敗北しましたが、それなりの支持をトランプは得たわけですが。

内田樹氏(以下内田) バイデンは自分に投票しなかった国民にも配慮すると約束しました。トランプに投票した人は7380万人。浮動票を除いてもトランプのコアな支持者が今も数千万人いるということです。彼らの政治理念に配慮しながら統治しなければいけない。実に困難な仕事だと思います。

アメリカ合衆国の建国理念が最も重く見ているのは市民の自由です。市民の平等ではありません。独立宣言には「すべての人間は平等に創造され、創造主によって生命、自由、幸福追求の権利など奪うことのできない権利を付与されている」と書かれています。よく読むとわかりますが、平等であることは自然権には含まれていません。

だから、合衆国の公権力は「生命、自由、幸福追求の権利」については国民にこれを保証しなければならないけれども、平等の実現は必ずしも政府の仕事とは考えられていない。すべての人間を平等に創造したのは創造主です。平等の実現は「神さまの仕事」であって、人事にはかかわらない。

神さまによって平等に創造された市民たちが、それから自由に競争して、その結果格差が生じたのだとしたら、それは悪いものではないということになります。アメリカでは、「社会的なフェアネス」とは、あくまで市民的自由を妨げないということであって、平等の実現のことを意味しない。そのことを踏まえておかないと、アメリカの今の国民的分断の理由がわからなくなると思います。

独立宣言が発布されてから奴隷解放令まで80年以上かかりました。公民権法の制定まではさらに100年かかった。それでも人種差別はなくなっていません。今もブラック・ライブズ・マター運動が平等の実現を訴えている。

でも、社会的な平等は、公権力が富裕層や権力者に対して強権的に介入して、彼らの財産や権力の一部を取り上げて、それを貧者・弱者に再分配することでしか実現しません。

自由を最優先する人たちにはこれが許せないのです。自助努力を通じて獲得した資産や権力を、何が哀しくて、努力もせず、才能もない人間たちに再分配するために政府によって取り上げられなければならないのか。それは市民的自由の侵害である、と。そう考える人たちは「自分たちこそアメリカの統治理念に忠実なのだ」と考えています。だから、平等を実現するために公権力が介入することを認めようとしない。

彼らはよく「それは社会主義だ」という言い方をしますけれど、別にソ連や中国が嫌いだとか、そういう意味ではないんです。そもそも平等の実現ということにまったく政治的意味を見出せないという人たちがアメリカには伝統的に存在しているということです。

今回のパンデミックで、感染症を抑制しようと望むなら、全国民が等しく良質な医療を受けられる体制を整備する以外に手立てはないということがわかりました。それにもかかわらず、「全国民に等しく良質な医療を受ける権利がある」という発想そのものが「許せない」という人たちがまだたくさんいる。アメリカでは「医療は商品」だと考えられているからです。

金のあるものは良質な医療が受けられ、金のないものは受けられない。それが「フェアネス」だと信じている人がたくさんいる。コロナについても同じことを考えている。だから、コロナで入院した患者に1000万円とかいうような費用を平気で請求する。
 
貧乏人は怖くてとても診療なんか受けられない。一般疾病ならそれで済むかも知れませんけれど、感染症の場合は、感染したまま治療を受けられない人を放置しておけば、感染は永遠に終わらない。アメリカが世界最高の医療テクノロジーを持ちながら、感染者数、死者数とも世界最多であるのはそのせいです。

もちろん、ビル・ゲイツのように私財を寄付するという人はいます。でも、それはあくまでビル・ゲイツの自由意思に基づく行為であって、彼が富裕層に向かって「君たちも寄付しなさい」と命じる権利はない。再分配は公権力によってではなく、私人の慈善によってなされるべきであるというのがアメリカ的な考え方です。財団とか教会とかが行う慈善活動のスケールは桁外れの規模のものですけれども、それでも、平等の実現のために身銭を切るという仕事はあくまで「私事」とみなされている。

― バイデンは中道。バーニー・サンダースほどで極端ではないですが。

内田 サンダースはヨーロッパ的な社会民主主義者だと思います。だから彼は平等の実現を自由の追求と同じくらい重要な政治的価値だと考えている。でも、サンダースのその考え方がアメリカ国民の過半数の同意を得られると僕は思いません。トランプはコロナ対策でめちゃくちゃな失敗をしたわけです。でも、半数の国民はそれを気にしなかった。

 感染症抑制のために「医療の平等」を実現するくらいなら、「罹患する自由、死ぬ自由」を守りたいと考える人がそれだけいたのです。今回の大統領選で可視化されたのは、アメリカの統治理念における根源的な対立が「自由」か「平等」かの二者択一にあったということだと思います。

― 佐藤優氏は「彼はカルヴァン派(トランプは長老派)だから、カルヴァン的な考えをするはずだ」と言ってますが。

内田 トランプのどの辺がカルヴァン派的なのか、僕にはわかりません。彼は「勤勉」ということに特に価値を置いているようには見えません。むしろ「努力しないでお金を得る」技術を誇示することによって名声を博した人なんじゃないですか。いくら早起きしてツイッターを連打しても、トランプがベンジャミン・フランクリン的な「勤労」を実践していると思う人はいないと思いますよ。

むしろ彼は「アメリカンドリームの体現者」なんですよ。それが人々を惹きつけるんだと思う。あまり知られていないことですけれど、アメリカは19世紀末までは世界の社会主義運動の中心地だったんです。そもそもは1848年のヨーロッパ各国での市民革命に失敗した自由主義者や社会主義者たちが、官憲の弾圧を逃れて、アメリカやオーストラリアに移民したことから始まります。

彼らは「48年世代(フォーティエイターズ)」と呼ばれました。この人たちは他の移民と違って、多くが高学歴、高度専門職、そしてお金持ちだった。だから、移民した先でもコミュニティを創り上げ、さまざまな事業を興して、成功した。彼らは人権派ですから、当然のようにリンカーンの奴隷解放政策を熱烈に支持し、南北戦争が始まると義勇軍として北軍に参加します。

アメリカで最初のマルクス主義政治組織「ニューヨーク・コミュニスト・クラブ」が創建されたのは1857年。73年には第一インターナショナルの本部がロンドンからニューヨークニューヨークに移転してきます。つまり、南北戦争が終わったしばらく後、アメリカは世界の社会主義労働運動の中心地だったのです。

ところがアメリカではその後に労働運動の思想的・組織的進化が起こりませんでした。それは「アメリカン・ドリーム」のせいなんです。1862年にホームステッド法が制定されました。5年間定住して農業を営むと160エーカーの土地が無償で与えられるという法律です。

ヨーロッパで小作農や賃金労働者だった人たちが自営農になるチャンスをめざしてアメリカに殺到したのは当然です。70年代からはアメリカも産業革命期に入ります。そして、ゴールドラッシュ、石油の噴出などで、チャンスに恵まれれば、極貧の労働者が一夜にして富豪になるということが起きた。この時代を「金ぴか時代」と呼びますけれど、「鉄道王」とか「石油王」とか「鉄鋼王」とか「新聞王」とかが相次いで登場したのはこの頃です。

昨日まで自分と一緒に働いていた貧しい労働者が、おのれの才覚と幸運だけで「王」のような御殿に暮らして、贅沢の限りを尽くしている。そういう実例を見せつけられていると、「鉄鎖の他に失うべきものを持たないプロレタリア」を組織して、雇い主と戦って雇用条件を引き上げようというような「たらたらしたやり方」に耐えられないという労働者が出てきても不思議はありません。

そうやって人々を夢見心地にさせた「アメリカンドリーム」のせいでアメリカの社会主義労働運動は、支え手を失って空洞化しました。アメリカン・ドリームの体現者であるトランプが、ヨーロッパ的な社会民主主義者であるサンダースとが不倶戴天の敵同士というのは、「金ぴか時代」のドラマを再演しているのです。

― バイデンが当選してから今後のアメリカはどこに向かいますでしょうか?

内田 今よりは多少とも国民的和解の方に向かい、国民分断状況は多少は緩和するでしょう。でも、国民的な和解の実現は難しいでしょう。これからもブラック・ライブズ・マターや、#Me tooや、LGBTの運動も続くでしょう。どれも「平等」を求める運動です。だから、「自由」を優先的に考える人たちとの対立は避けられないと思います。

― バイデンになってリベラルな政策が施行されていって格差解消に向かうということはないでしょうか?

内田 すぐにはないでしょう。民主党をグリップするためには、バイデンもある程度はサンダースたち左派の政策を採り入れていかなければいけない。でも、左に寄り過ぎると、民主党のメインストリームであるワシントンD・Cやウォール街の「エリート」たちが離反してしまう。

政権基盤を安定させるためには、しばらくはどちらも良い顔しなきゃいけない。だから、たぶん中途半端な政策になると思います。それに「私に投票しなかった人の利害も代表する」と誓言した以上、共和党支持者、トランプ支持者にもそれなりに配慮しなければならない。この全部に「八方美人」的にいい顔をすると、たいへんですよ。

― バイデンになったから、新自由主義的な政策は方針転換するんじゃないの? と思いましたが?

内田 多少は平等に配慮するようにはなると思いますよ。例えば、感染抑制のために、ワクチンを全国民に無償で提供するとか、コロナ患者の治療は連邦政府と州政府が無償で澪ますとか。そういう政策は採るかも知れません。

― 内田先生は結局、バイデンが大統領になっても変わらないと思っているわけですね?

内田 いや、左派の政策を大胆に取り入れたら話は別ですよ。感染症対策だけではなく、失業者たちへの生活支援とか、授業料無料化とか、国民皆保険とか、そういう平等の実現をめざす政策を大胆に取り入れたら、アメリカは変わるでしょう。

パンデミック抑制にはどうしても「医療の平等」を実現するしかないのですけれど、それが出来るかどうかですね。万一その感染抑制策が成功して、アメリカの経済がV字回復すれば、バイデンに対する国民的評価は一気に高まるでしょう。

― トランプみたいな剛腕なタイプなら、ガーンと強権的にロックダウンなんか出来たんじゃないかと思いますけど。

内田 出来ないですよ。トランプは「公権力に指図されず自由に生きたい」という人たちの支持で大統領になった人なんですから、公権力を使って市民の生活に干渉するということはできません。

― コロナの問題はアメリカ的資本主義の矛盾の爆発という面もあるんですか?

内田 資本主義だけの話じゃないですよ。アメリカが建国以来ずっと抱え込んできた統治理念上の根本的な矛盾が露呈してきたわけですから、話は簡単には収まらないと思います。
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角田 裕育(政治経済ジャーナリスト)
1978年神戸市生まれ。大阪のコミュニティ紙記者を経て、2001年からフリー。労働問題・教育問題を得手としている。著書に『セブン-イレブンの真実』(日新報道)『教育委員会の真実』など。
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