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軍事力に頼った国はゆっくり国力が衰微する

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【内田樹氏に聞く】ロシアは帝国陸軍が「退却」を「転進」と言ったのに似てきた

公開日: 2022/04/01 (ワールド)

撮影・角田 撮影・角田

 ロシア・ウクライナ情勢について内田樹氏にインタビューした。プーチンは時代錯誤な皇帝感覚と言う。プーチン失脚が一番合理的かつ、安全な着地点で、反乱を起こすとしたら、明智光秀のような側近だろうと語った。(聞き手は角田裕育) 

― ロシアとウクライナはどういうところで決着がつくと思いますか?

内田 想像もつかないですね。プーチンは本当に核兵器を使うかも知れないし。そうなると、先行き不明です。

― すごく泥沼化しますかね。

内田 泥沼化するとロシアに不利です。すでにロシアの統治機構はかなり危険な状態になっていると思います。このウクライナ制圧作戦はたぶん2日ぐらいで終わるはずの電撃作戦だったと思うのですが、それがここまで長引いている。それは、ロシアの情報収集力、分析力がかなり劣化しているということだし、おそらく兵力自体も世界が思っていたよりもかなり弱体化していた。

 どうやらウクライナ侵攻前に、プーチンにプランB、プランCや「出口戦略」を提言する人が周りに全くいなかったらしい。独裁者の周りにはイエスマンばかりというのは統治機構として末期的な風景。スターリンの末期もそうでした。独裁者が長期にわたって政権の座にいると、必ずそうなる。独裁者の判断ミスを指摘したり、独裁者が見落とした情報を教えたりする人が左遷されたり、粛清されたりするので、復元力が失われる。

― プーチンはヒトラー的な最期を迎える可能性はあるでしょうか?

内田 ヒトラーの場合はベルリンが陥落してから自殺したわけで、まさかモスクワが軍事的に陥落するような事態は想像できませんから、「ヒトラー的な最期」はない。あるとしたら、プーチンが「忠臣」たちに迫られて、詰め腹を切らされるというシナリオでしょう。

 もうプーチンには王座から下りてもらおうと思っている人はロシアの指導層内部にもかなりいると思います。このままウクライナが泥沼化すると、かつてアフガニスタンに介入したことがソ連崩壊の引き金になったように、ロシアにとって亡国的な危機を招くリスクがあります。

 すでに国際社会での信用は致命的に失われたし、経済制裁でロシア経済はガタガタになっている。ロシアに残ったカードは核兵器と国連安保理拒否権の二つだけだ。

 スターリンの時代はまがりなりにもソ連には「国際共産主義運動のリーダー」という大義名分があった。世界各国に「スターリン主義者」がいて、自国の国益よりもソ連の国益を配慮して国内世論を誘導していた。でも、いま世界のどこにも「プーチン主義者」はいないでしょう。

 ロシアと利権でつながっている政治勢力は各国にあるでしょうけれども、そういう人たちだって利己的な動機からロシアを支持しているわけで、ロシアの行動に世界史的な大義があると思っているわけじゃない。せいぜい「ロシアは悪くない。NATOが東方に進出したのが悪い。正当防衛だ」と訴えるくらいで、ロシアが自国益を超えて、世界の人々が共有する「上位価値」のために戦っていると思っている人はどこにもいない。

 ウクライナが悪くて、ロシアが正しいと声高に主張する支援者が国際社会にまったくいない。これはかなり致命的なことだと思います。国際社会におけるプレゼンスというのは軍事力や経済力だけでは決まりません。

 思想的指南力とか道徳的な高潔が国際社会における地位にはおおきくかかわってきます。大義名分のない、自国益だけのための戦争を仕掛けたことでロシアの地位はいま劇的に低下した。もう歯止めがきかない。

 ですから、ロシアの指導層の一部がロシアの国際的地位を守るために、プーチンを抑えて、とりあえず停戦して、大きく損なわれたロシアの威信を取り返そうとするということは起こり得ると思います。

 問題はプーチンに代わる人がいるかどうかです。プーチンを「刺す」人間がいたとしたら、それはいまプーチンの腹心の部下である人でしょうね。

― 光秀みたいなのがいるわけですね。

内田氏=撮影・角田

内田 公然たる政敵やライバルはとっくに追い出されたり粛清されたりしていますから、政権の「ナンバー2」とか「ナンバー3」とか言われている腹心の忠臣たちがいまひそかに集まって「プーチンをこのままにしておけないよな」というような話をしているのではないでしょうか。

― プーチン失脚は合法なものでしょうか?

内田 わかりません。朴正熙みたいに暗殺されるかもしれないし、「急病になって公務ができなくなりました」みたいな作り話で取りつくろうかも知れません。そのあたりが一番被害の少ない落としどころだと思います。

 ここでプーチンに代わる人が出てきて、即時停戦を申し出て、クリミアやドンバスについても「引き続き協議してもいい」という宥和的な態度に出てきたら、NATOはこの代表者に「花を持たせて」、ロシア国内をまとめてもらおうとするかも知れなません。

 ここで、ロシアの足元を見て、強気に出て、ロシアに屈辱的な条件を突きつけたら、また違う機会にそれが次の戦争の火種になるかも知れません。ですから、今ならプーチンさえ抑えてくれたら、それ以上ロシアを追い込まない。経済封鎖も解除していい。それくらいの約束はするんじゃないですか。

 ウクライナも領土的な譲歩はできないでしょうけれど、「話し合いを継続する」くらいの玉虫色の合意なら手を打つかも知れない。それが、ウクライナ国民にとってもロシア国民にとっても、とりあえず一番「まし」なソリューションじゃないでしょうか。

 ポーランドなど周囲国にとっても、プーチンが核兵器を持ち出してきたりしたら、自国にどれくらい被害が出るかわからないんですから。

― その最悪のシナリオ、核兵器を使う形になったら、どうなると思いますか?

内田 わかりませんね。いくらプーチンでも「オレが死ぬときは全人類を道連れだ」というところまでは狂ってないと思います。キエフに原爆を落とすようなことはしないでしょう。

― でもそれをやったら、第二次大戦のアメリカ以来ですが。

内田 ロシアが核を使ったら、アメリカも核を使う。そして、世界中でたくさんの人が死ぬ。そういうことになったら、ロシアは仮に生き残ったとしても、世界的に孤立して、国際社会から隔離された「鎖国状態」に追い込まれ、もう二度と国際社会において名誉ある地位を占めることはできないでしょう。

― 最悪のシナリオもあるのでしょうかね? 核戦争という。

内田 たぶんないと思います。プーチンが核攻撃を命令した時に、軍のトップがその命令に従わないと思います。ニクソン大統領が政権末期にかなり精神的に危なくなった時、国防長官が「ニクソンから核攻撃の命令があっても、すぐに実行しないで、まずオレのところに報告しろ」と言ったそうです。それと同じで、プーチンが核攻撃命令を出すことが「クーデタ」のきっかけになるかも知れません。

 ある程度合理的に思考できる人なら、ここでロシアが核の先制攻撃をしたら、もうロシアは終わりだということはわかると思うんです。こうなったら、プーチンを引きずりおろしてでも「ロシアを守るべきだ」という判断を下す可能性はあります。核攻撃をプーチンが命じた時に抵抗せずに実行した人間として人類史に汚名を残したくないでしょう。

 だから、核攻撃は「ブラフ」では使うけれど、本当に攻撃命令を出したら、それがクーデタのきっかけになるかもしれないというくらいのリスクはプーチンも勘定に入れていると思います。プーチンに従って共に滅びるか、プーチンに逆らってロシアを救うか。そんな「踏み絵」を軍人たちに踏ませるべきではないということくらいはプーチンだってわかっている。ですから、核攻撃命令はたぶん出さないというのが僕の希望的観測です。

― 出したとしても部下が忠実でない可能性があると?

内田 核戦争を始めるというのは、ロシアを滅ぼすということですからね。そこまでプーチンに忠義を立てる義理はないでしょう。

― そこでブレーキが効くというか、プーチンが核を指示した時、それが失脚に繋がるという可能性もあるという。

内田 もしロシアの指導層が唯々諾々とプーチンの命令に従って、核戦争を引き起こすようであれば、それはロシアの統治機構や軍が骨の髄まで腐っていたということです。さすがにそれはないと思いたいです。

 プーチンが政権にとどまるためには、撤兵するけれど、国内的には「勝利」というプロパガンダで押し通すという選択肢しかないと思います。国際的な体面は保てないが、国民は騙せるという成算があれば、プーチンは兵を退く可能性がある。

 大日本帝国の末期とよく似ています。もう負けることはわかっていたけれど、何とか国内的に面子が立つような負け方をしたい。どこかでアメリカに一矢報いて、恰好をつけてから停戦交渉に入ろうとして、ミッドウェイから原爆を落とされるまでずるずると戦い続けて、結果的に傷を深くした。

 プーチンの場合でも、国内向けプロパガンダの効果が切れて、国民が「勝利した」という嘘を信じてくれなくなった場合には、局地戦で「面子が立つ」ような勝利を収めるまでずるずると戦争を続ける可能性はありますね。

― 確かに「止める」とは言えないですね。そしたら、負けたことになってしまうので。メンツ丸つぶれですからね。

内田氏=撮影・角田

内田 今回もロシア政府は国内向けには「ずっと勝ち続けている」と言っています。キエフからは撤兵していますが、それはキエフ周辺での軍事目的は完遂したので、次は戦略的により重要な東部地区に兵力を移動しているという話にしてある。帝国陸軍が「退却」を「転進」と言い換えたのと同じです。その嘘を信じているロシア国民もまだ沢山いるはずですから、どこかで「これで面子が立つ」というだけの戦果を得れば、停戦協定に応じるでしょう。

 その辺はゼレンスキ―もよく分かっていると思います。ロシアの「面子が立つ」程度の「おみやげ」を与えた場合にウクライナが失うものと、ロシア撤兵によってウクライナが得るものを天秤にかけて、戦況を見ていると思います。

 それにいくらプーチンが「だらだら続けたい」と思っても、ロシア軍に通常兵器だけで戦争をこれ以上続けるだけの体力が果たしてあるのか。士気が低く、軍装も貧しく、兵站も脆弱であることが暴露されてしまいましたからね。

 ソ連が解体した時の軍の腐敗を描いた『ロード・オブ・ウォー』という映画がありました。ニコラス・ケイジがウクライナ人の武器商人を演じているんですけれども、ソ連解体の時に、当時の将官たちが兵器庫にある武器を武器商人に横流しをするというエピソードがかなり嫌味に描かれていました。戦車も武装ヘリも地対空ミサイルも、もうじゃんじゃん売って私腹を肥やす。その旧ソ連の武器がその後世界中の紛争地やテロで使われた。あれに類することは現実にあったんだろうと思います。

 だから、今もロシアは兵站がうまく行っていないと言われていますけれど、単に輸送が停滞しているというだけじゃなくて、弾薬庫にあるはずの弾薬がないとか、格納庫にあるはずのヘリコプターがないとか、厨房にあるはずの糧食がないとか、そういうレベルでのロジスティックスの破綻が実は起きているんじゃないでしょうか。

 今シベリアの方から兵を呼び寄せたり、シリアから義勇兵を呼んだりしてますけれど、それだけ兵力が手薄だということですよね。

― 第二次大戦の日本みたいに、国家総動員とかするでしょうか?

内田 4月に入ると徴兵を始めるようですけれど、数週間ぐらいの訓練でいきなりウクライナ戦線に送り出すというのは無理じゃないですか。今は兵器テクノロジーが進化していますから、練度の低い兵隊を戦場に送り込むのは虐殺されに行くようなものですから。

 ロシア兵の死者が増えると、国内でも厭戦気分、反戦感情も醸成される。だから、ウクライナが泥沼化して、だらだら戦争が続くことはプーチンも避けたいはずなんです。

 どこが調停役を引き受けられるかはわかりません。トルコが仲介すれば、ある程度プーチンの顔を立てる落としどころを探るでしょうけれども、アメリカはそんなこと全然考えていない。プーチンが失脚した後、中央政府のハードパワーが失われて、国内が混乱して、群雄が割拠する内戦状態になって、ロシアが2流国、3流国に落ちぶれてゆく…というのがアメリカにとってはベストの展開じゃないでしょうか。

 だから本音を言えば、アメリカはウクライナにはもっと戦争を続けて欲しいと思っているはずです。ウクライナという「やすり」を使ってロシアの国力をがりがりと削ってゆきたいと思っている。たぶんアメリカ政府はウクライナ国民の命のことなんかたいして考えてないと思いますよ。

― エゲツナイ話ですね。

内田 もちろんアメリカ国民の中には「ウクライナかわいそう」と思っている人もたくさんいるでしょうけれど、アメリカ政府は国益最優先ですから、ウクライナの戦争があと2、3か月続いて、ロシアがぼろぼろになるのを待ちたい。ここで停戦してしまうと、条件によってはプーチンが国内向けに「勝利宣言」をして、政権にとどまる可能性が高い。

 アメリカとしてはプーチンに「勝った」と絶対に言わせたくない。ロシア国民の目にも明らかな「敗戦」に追い込みたい。そのためには戦争が続いて、ロシアの人的損耗が増え続けるというかたちが望ましい。

― あと2、3ヶ月で終わるのでしょうか?

内田 わかりません。核兵器を使って人類滅亡するというシナリオだってあり得るんですから。

― 人類滅亡するんでしょうか?

内田 わかりません。でも、核兵器や生物兵器・化学兵器を使った時点でプーチンはもう負けです。それはロシア軍は通常兵器ではもう勝てないということを国内外に認めることですから。「ロシア軍は弱い」ということが周知されると、このあともう隣国に対しても強権的な外交ができなくなる。だから、電撃作戦で開戦2日でキエフを占領して、傀儡政権を立てるというシナリオが破綻した時点で、もうプーチンは負けていたんです。

 仮にウクライナが早期停戦を求めて、領土問題で大幅に妥協しても、それはロシアの実効支配を追認しただけで、ロシアがこの戦争で新たに得たものは実質的には「ゼロ」だということになります。その程度の戦果と引き換えにロシアが失ったものはあまりに多い。兵員兵器の損耗だけでなく、国際社会における威信を失い、経済制裁で市民生活も深い傷を負った。SNSも使えないし、Googleも使えないし、スタバもマクドナルドもない文化的後進国になってしまったとしたら「ずいぶん間尺に合わない戦争をした」と市民は思うんじゃないですか。

 長いタイムスパンで見ると、ロシアはこれから「滅びの道」を歩むことになります。ロシアはこれまで天然資源を売って外貨を稼いできましたけれど、ヨーロッパ諸国は今後ロシアと取引しない方向に動いています。海外からの投資も止まりました。国債の格付けはデフォルト寸前まで下落した。一方のウクライナは西側諸国から手厚い支援が期待される。ロシアは中国が支援するでしょうけど、長期的に見ると、ウクライナの方がロシアより「豊かな国」、場合によってはロシアより「強い国」になる可能性がある。

― 終わったあとロシアで劇的なことが起きそうですね。

内田 アメリカもそうでしたけれど、軍事力の優位を頼って他国に干渉した国は結果的には国際社会からの信頼を失い、ゆっくり国力が衰微して行くんです。

― そういうところで戦争へのブレーキがかかるようにしないと。

内田 そうです。大義名分のない戦争をすると国を亡ぼすことになる。その教訓を国際社会はいま学びつつあると思います。

 ロシアの暴走は身も蓋もないように思えるが、国際社会のモラル性によって軍事的暴走はブレーキをかけられるということだ。国威を発揚する以上、「正義の戦争」をいくら理由付けするかという話だが、ロシア人をはじめ各国の国民の反戦感情も高まっている。大国的野心を競い合う時代は、過去の歴史だと言うことであり、プーチン大統領は時代錯誤な皇帝感覚と言えはしないだろうか。

角田 裕育 (ジャーナリスト)

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角田 裕育(ジャーナリスト)
1978年神戸市生まれ。大阪のコミュニティ紙記者を経て、2001年からフリー。労働問題・教育問題を得手としている。著書に『セブン-イレブンの真実』(日新報道)『教育委員会の真実』など。
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