• tw
  • mail

カテゴリー

 ニュースカテゴリー

  • TOP
  • 独自記事
  • コロナ
  • 統一教会
  • 政治
  • ワールド
  • マーケット
  • ビジネス
  • IT/メディア
  • ソサエティ
  • 気象/科学
  • スポーツ/芸術
  • ニュース一覧

バイデン氏78歳、1期4年に集中 トランプ路線から中庸に戻す使命

あとで読む

【北丸雄二の「世界の見方」】閣僚人事は気心しれた「オバマ政権で見た顔」ばかり

公開日: 2020/12/18 (ワールド)

Reuters Reuters

 何から何まで前代未聞だった。米メディアが最後に残ったカリフォルニア州の選挙人投票を生中継するのも初めてだったし、勝者のバイデンが選挙後、再集計後、そして今回の選挙人投票後と、何度も「勝利演説」を行うのも前代未聞。

 現職大統領が「選挙は不正だ」と訴訟を連発し敗北宣言を行わないのも、そのせいで各州の選挙人が投票を妨害されるという危惧から集会所を秘匿したり警護をつけたり投票の州議会まで秘密経路で向かったり、さらには議場を閉鎖したりするのも初。そもそも正式決着とはいえ形だけの儀式だった選挙人投票がニュースになること自体がおかしかった。

 通常、選挙が不正だと訴えるのは野党や反体制側の言い分。体制側のトップである現職大統領が「不正」と叫ぶのは、自らの体制の不正義を白状するようなもので自己否定に等しい。

 そんな「民主選挙の危機」に正しく対応せねばと思ったのか、前回のヒラリー・クリントン対トランプの際には10人いた「不誠実な選挙人 Faithless Elector」(州の一般投票の結果に反して自分が望む候補者に投票する選挙人)が今回は一人も出なかった。

 ちなみに、大統領が訴えた選挙関連訴訟では12月15日時点で59件が棄却、7州で敗訴、最高裁も2件の訴えをただ門前払いした。大統領側の訴えが認められたのは、選挙の本筋ではなく郵便投票の手続きに関するわずか1件のみ。完膚なきまでの敗北だった。

 それでも「まだ終わらない」と新たな訴訟を検討する大統領の「勝算」とは、すでに訴訟による選挙結果の転覆ではなく、「選挙防衛基金」と銘打ってさも法廷闘争支援金に見せかけているもののその実は選挙運動の赤字補填と今後の政治活動に使う寄付金集めの継続と、7400万票という支持者を背景にした共和党への公然たる支配力の維持にある。

 なにせトランプに投票した有権者の78%までがこの選挙には何らかの不正があったと答えており、これに異議を唱えて「バイデンを次期大統領と認める」と口にすれば、次の2022年中間選挙でトランプ派の対抗馬を立てられ、民主党との本選挙に臨む前に共和党内の予備選挙で落選させられてしまう恐れがあるのだ。現職大統領の、民主主義の根幹を揺るがすような選挙攻撃に共和党の議員たちが沈黙するのはこうした事情だ。

   *

 その大統領は、選挙人投票でバイデン勝利が「正式決着」したその十分後に、かねてより解任の噂のあった司法長官ウィリアム・バーの退任をTwitterで発表した。CNNのアンダーソン・クーパーは生放送中にこれを受け、「大統領は明らかに自分の敗北のニュースから話題を変えたいと思っているんでしょうね。ではその期待に沿わないよう、選挙人投票のニュースを続けましょう」とコメントして番組を続けた。

 バーの退任は、直接的には12月1日のAP通信のインタビューで「選挙不正はない」との旨の発言をしたことがトランプの逆鱗に触れたためとされるが、実は今春にはすでに始まっていたバイデンの次男ハンター・バイデンの中国やウクライナからの所得疑惑捜査を、バーが法に基づき「選挙への影響を回避し」て公にしなかったせいだ。

 トランプ陣営はこの捜査容疑を思わせるような「ハンターの故障PCのハードディスクから癒着スキャンダルの証拠が出た」との「オクトーバー・サプライズ」を用意したが、それが不発に終わったのもバーの「自制」が原因だったとして怒りを募らせていたらしい。

 ただ、バーとしてもクリスマス前の23日での退任は、「大統領恩赦のクリスマス大盤振る舞い」を計画しているというトランプの面倒を引き受けずに済むことになる。「身内や側近20人」といわれている恩赦対象の中に大統領本人が含まれているとすれば、いや含まれていなくとも、恩赦を前提に大統領およびその周辺がいくらでも好き勝手な不正を働けることになる。

 つまり「大統領の犯罪」そのものが存在し得なくなるわけだ。それは司法省および最高裁を巻き込む厄介な議論に発展するのは必至で、将来あるバーが逃げたくなるのも当然かと思われる。

   *

 1月20日のバイデン大統領就任式はオンライン開催も検討されているが、トランプはフロリダのマール・ア・ラーゴの別荘にいて出席しないと言われる。そうした分断の最中に始まる新政権は、これまでに指名された閣僚の顔ぶれを見るとほとんど「オバマ政権で見た顔」ばかり。

 良くも悪くもワシントンのインサイダー政権だが、オバマ政権は「Team of Rivals(ライバル集団)」と呼ばれて政権内で侃々諤々の議論を戦わせて政策の方向性を生み出してきたのに対し、このバイデン政権はメディアにすでに「Team of Friends(友だち集団)」と呼ばれ、気心知れた仲間としてあらかじめ同じ方向を目指すことを前提として、ジャンプスタートを切るために集められた面々だということだ。

 バイデンは78歳で、すでに1期4年の任期に集中することを示唆している。しかもトランプによってバラバラになったアメリカを一刻も早く元の伝統的な政治軌道に戻すことが使命だ。

 閣僚指名リストにバーニー・サンダーズやエリザベス・ウォーレンといった左派の名前がないのは、それでなくとも上院過半数を握れるかの瀬戸際で、議員の彼らを閣僚に取り込めば民主党議席が減るからだ。2人を選出したバーモント州、マサチューセッツ州とも共和党知事であり、欠員が生じた場合の補充議員は知事が指名する共和党議員になる恐れがある。

 上記2人以外の左派指名がないのも、バイデンの1期4年の使命がとにかくトランプ路線からアメリカ政治を中庸に戻すのが使命であるからで、パリ協定への復帰やTPP参加の再考などいわば次の世代のためのバッファーになる政策が主眼で、派手で極端な演出は不要だという判断だと思われる。

 とはいえ、党内左派の要求する「次の世代」を担う学生たちのローン軽減や、国内労働者の待遇に関しては大胆な施策が期待されている。また、運輸長官に指名されたピート・ブーティジェッジは38歳の男性同性愛者で、大統領予備選でも注目された元インディアナ州サウスベンド市長。これも若者受けする人事だろう。

 共和党としてもこの時代、「同性愛」を理由に承認しないとなると将来に向けて大きなリスクとなる。このままトランプ主義の一端である「白人男性異性愛者至上主義」を掲げるカルト政党になるなら話は別だが、ブーティジェッジ承認を決める上院公聴会は大きな注目を集めるはずだ。

 一方で、上院承認で難航すると見られるのが国防長官へのロイド・オースティンの起用だ。オースティンは2016年に退役した陸軍大将で、米国では文民統制の原則として退役後7年は政権に入れない。この規定免除は上院で議論されるが、トランプ政権の最初の国防長官ジェイムズ・マティスもこの免除を受けた上で承認された。

 ただしこの際はワシントンのアウトサイダーだった同政権に、軍事に精通したインサイダーを起用する必要があったためで、この際の免除は特例で次は賛成しないと表明した民主党議員も少なくない。また、外交政策として中国の東〜南シナ海・インド洋航行に軍事的に対抗するためにも、陸軍に通じるより海軍政策に通じた人物が良いとの声もある。

 オースティンは承認されれば黒人初の国防長官となり、女性やマイノリティの起用でかつてない多様性を確保するバイデン政権の目玉人事の1つとなるが、承認のためにはさらなる説得材料が必要となるだろう。

 日本では米民主党政権は中国に甘いとの説が流布されるが、中国の覇権主義はすでにクリントン、オバマの民主党政権時代とは異なる。対中貿易も担当する通商代表は台湾出身の下院歳入委員会法律顧問キャサリン・タイで、対中政策には台湾問題やトランプ政権が無関心だった香港の民主派弾圧問題など、人権外交という新たな圧力も加わる。

 これは人権弁護士でもある副大統領のカマラ・ハリスが担当し、トランプ政権とは手法の異なる国際協調の上での強硬なアプローチが行われると見られる。

 一方、先日発表されたアーミテージ・リポートが、米、英、加、豪、ニュージーランドのアングロサクソン系英語圏5カ国で構成される情報同盟「ファイブ・アイズ」への日本参加を提言した。東アジアにおけるアメリカの対中強硬政策の一端として、日本にも集団的自衛権のさらなる延長線上での軍事提携圧力が強まることが予想される。憲法との兼ね合いを含め、日本政府は決断を迫られるだろう。
(敬称略)

北丸 雄二 (ジャーナリスト)

続報リクエストマイリストに追加

以下の記事がお勧めです

  • 【北丸雄二の「世界の見方」】 トランプ4年後も出馬説 刑事訴追の可能性

  • 【北丸雄二の「世界の見方」】 米大統領選 本当の戦いは投票日から

  • 北丸 雄二のバックナンバー

  • 習近平のロシア訪問は「反米宣言」だ

  • 訪露の習氏 停戦働きかけも、ロシア配慮の提案か

  • 名門クレディスイスの転落の軌跡 数々のスキャンダルにまみれ

  • 4月から給与のデジタル支払い開始

  • プロフィール
  • 最近の投稿
avator
北丸 雄二(ジャーナリスト)
1993年から東京新聞(中日新聞)ニューヨーク支局長を務め、96年に独立後もそのままニューヨークで著述活動。2018年からは東京に拠点を移し、米国政治ウォッチと日米社会の時事、文化問題を広く比較・論評している。近著に訳書で『LGBTヒストリーブック〜絶対に諦めなかった人々の100年の闘い』(サウザンブックス社)など。
avator
北丸 雄二(ジャーナリスト) の 最新の記事(全て見る)
  • 【北丸雄二の「世界の見方」】SNSだけでないトランプ・ボイコット 恩赦と弾劾が焦点に -- 2021年1月14日
  • 【北丸雄二の「世界の見方」】閣僚人事は気心しれた「オバマ政権で見た顔」ばかり -- 2020年12月17日
  • 【北丸雄二の「世界の見方」】トランプ会見の中継中止など風当たり強まる -- 2020年11月7日
Tweet
LINEで送る

メニュー

    文字サイズ:

  • 小
  • 中
  • 大
ソクラとは 編集長プロフィール 利用案内 著作権について FAQ 利用規約 プライバシーポリシー 特定商取引法に基づく表示 メーキングソクラ お問い合わせ お知らせ一覧 コラムニストプロフィール

    文字サイズ:

  • 小
  • 中
  • 大
  • 一覧表示を切替
  • ソクラとは
  • 編集長プロフィール
  • 利用案内
  • 著作権について
  • メーキングソクラ
  • お知らせ一覧
  • FAQ
  • 利用規約
  • プライバシーポリシー
  • 特定商取引法に基づく表示
  • お問い合わせ
  • コラムニストプロフィール

Copyright © News Socra, Ltd. All rights reserved