香港は香港国家安全維持法への抗議デモで荒れ、海外メディアの中国報道は香港一色だったが、中国メディアはむしろ「共産党99周年」中心の報道で、香港はそっちのけの扱いだった。
そもそも中国で一党独裁の指導政党である共産党とは一体どんな政党なのか。99年の歴史の中で、習近平体制がどのような特異性を有しているのか。この連載を通じて探っていく。
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99周年報道からは、いまの中国共産党がどこに向かっているかが鮮明に表れている。
現在、中国共産党党員は着実に増えているとされ、2019年12月31日時点で9191.4万人である。全人口の6%にあたる。
その内訳としては、女性党員が27.9%、少数民族党員が7.4%、大学・専門学校卒以上の「学歴党員」は50.7%であると新華社通信が報じている。大卒の4人に1人が共産党員という数字もある。
人口の6%とは、一見、少ないようだが、一種の成人人口の労働者人口は8億人(ILOSTAT Database、2020年1月30日時点)で、これを分母にすると軽く10%を超える。かつてのような特権階級であるとは言えない。
実際、中国本土の有名大学の優秀な学生のほとんどは党員といえる。これは習近平体制になってからの「学生取り込み政策である」(次回以降の連載で詳しく掲載予定)。
99周年報道では習近平体制下で「実現した夢」の顕彰と、それを支えたのは老若男女問わぬ共産党員であったことをアピールしていた。
新華社通信は7月1日、あるポスターを公開した。

「理想と信念を堅持し、初心の使命を実践しよう」と謳うポスター(新華社通信より)
99周年を祝うものだが、書かれた絵は全て習近平体制下で実現した「チャイナドリーム(中国夢)」である。
具体的には、香港マカオを繋ぐ港珠澳大橋、時速250-350キロで走る高速鉄道(復興号)、中国ロケット(火箭)、500メートル球面電波望遠鏡(FAST)である天眼望遠鏡を描いている。
習主席の業績を誉めちぎるものだといえる。
人民日報は、「○○后(中国の世代を表す言葉・ホウ)」という世代と職業に着目し、様々な年齢・職業の者が党員として国家を支えてきた
と歴史を振り返った。○○には、年代が入る。つまり、「20后」ならば1920年代生まれを指し、それを10年ごとに分けている。
「20后」として、人民代表の女性を紹介。彼女は第一回から第13回の全人代をすべて見守ってきた唯一の証言者と書かれている。彼女は女性で農民出身だった。
「30后」では、コロナ禍で指揮を執った中国工程院・院士の鍾南山。
「40后」では、医者としてチベットへ赴き、現在はボランティア医療スタッフとして従事する者。
「50后」では、浙江省の教師(高校校長経験者)。定年後、格差のある学校で支援を続ける彼の教育者としての姿を書いている。
「60后」では、軍人。国境作戦従軍時に負傷し、義眼で視力を維持し、体の中にはまだ4発の弾丸が残っていることを書いた。
「70后」は、法務官の女性を、「80后」は貧困村の幹部の女性を、「90后」は北京大学医療支援チーム全員を紹介。この医療チームは、3月16日に習近平氏から活動への絶賛メッセージを受け取ったチームである。
バラエティの豊富さを強調していると同時に、有名人でなく、一隅を照らすような地道な活動で成果を挙げている人を取り上げているのが共通した特徴だ。
現在、中国共産党は、政治家や有名企業家などの社会的地位の高い者のみならず、少数民族や農民などの社会的地位の低い者と、学生など若者の「党員化」を促進している。

党が取り込みたい層のグラフ。左から、80・90年代出身者割合が3分の1に。「学歴党員」が半数以上に。女性党員が4分の1に。工場労働者・農民の割合が3分の1になったことを示している(中国中央電視台より)
党メディアは、「様々な人がいるが、そこには『中国共産党党員』という共通の核がある」と謳っている。そしてその共産党員は「チャイナドリーム実現」のために忠誠を示さなくてはならないというメッセージがある。
周知の通り、新華社通信や人民日報は中国共産党メディアである。だから日本のメディアとは違い共産党の意志を伝える機関と言っていい。
ある国営メディア記者は、「日本と中国の記者の仕事は大きく異なる。中国メディア記者は自ら取材をするというより、党の公式発表を書いたり、上司の指示で会見に臨んだりするだけ。時には国営メディアの書くことが、後づけで事実になることもある」と話す。人民・社会を操っている意識があるのだろう。
先述の「党員としての忠誠」とは何か。言い換えれば社会奉仕、より深く言えば自己犠牲と言えるだろう。
社会奉仕・自己犠牲の精神は、中華人民共和国成立後も毛沢東によって謳われていた。
毛沢東が「中国建国の父」だとすれば、「中国共産党党員の手本」は、雷峰だ。
雷峰は毛沢東を敬愛し、党に忠実に生き、中国人民解放軍兵士となり21歳で殉職(職務中事故)した。貧農出身で軍隊に入り、共青団入団・共産党入党。ひたすら祖国を愛し、人々に尽くし、祖国に殉じた青年であったという。
毛沢東は、この雷峰の死を悼むと共に党員としての姿を賛美し、「向雷峰同志学習(同志たちよ、雷峰に倣って学べ)」とスローガンを掲げた。
現在の中国学校教育でも雷峰を勉強する。それは「自己を顧みず人に奉仕する」ことを教えるため。ある中国人学生は「僕の青春時代はずっと雷峰を学習していたと思う」と語った。中国共産党宣伝部は、「雷峰を学習することで社会安定を実現できる」とする。毛に私淑する習主席が雷峰礼賛を推奨している面があるのだろう。
これまでも自己犠牲を美化する社会風潮はあった(党員に限る)が、習近平体制になり、共産党員への「勤勉・忠誠」の要求が厳しくなっている。この「忠誠要求」の中に自己犠牲精神の比重が大きくなっているように思われる。
「党員の自己犠牲」の宣伝は、コロナ禍の下でも見られた。

以上、99周年報道から見える中国共産党を見てきた。
報道にもあったが、中国共産党はそもそも農民による建党だった。それが中華人民共和国成立後は特権階級となり、国を司ってきた。今は原点回帰のように、社会的立場の弱い者を取り込もうとしている。官僚腐敗に積極的に取り組み、大衆の支持を狙ってきた習主席の狙いがにじんでいる。
次回以降も、中国共産党とは何かを追っていきたい。