共産党と少数民族はどんな関係にあるのだろう。
少数民族の共産党員はどれくらいの割合いるのだろうか。
2019年の共産党党内統計公報によれば、9191.4万人いる党員のうち、少数民族党員は7.4%ほどの680.3万人とされる。2012年時点では580.2万人で全体の6.8%だったから、若干の増加傾向だ。
2010年の国家統計局人口調査では、少数民族人口は1億1196万4901人となっている(未認識少数人口含め)。大規模な人口調査は2010年が最新であるので、2012年時点の党員で割合を出してみる。すると5.1%となる。漢民族党員の人口に対する割合(5.9%)とあまり変わらない。党員への登用という点では「差別」はないように見える。
中国には人口の9割が漢民族。そのほかに55の民族がいる。一方、130の言葉があり、約30の文字があるとされる。21の少数民族には自分たちの民族の文字があるようだ。
1949年10月1日、中華人民共和国成立の際に天安門にて毛沢東が行った演説は、出身地である湖南なまりが激しく、参列した多くの人が聞き取れなかったという話も残っている。
しかし国家を統べるためには「共通語(普通語)」が必要で、1950年代、政府によって「第一次異体字整理表」「簡化字総表」「現代中国語常用字表」などが作られ、言語の統一が図られたようだ。
国を統べるために言葉の統一は大切だ。しかし、中国では「漢民族による漢語」使用を全国に広げている。チベットや新疆ウイグル自治区では、彼らの独自の文字文化の破壊を進めているという報道もある。
少数民族では、どのような人々が少数民族党員となるのか。
確実に言えることとして、少数民族地域の党校(自治区党校)に入った者は党員であると言えよう。
新疆婦女幹部学校は2019年11月4日に党大会が行われたと大々的にサイトで報告している。党校以外の関連学校でも、少数民族党員の様子を見ることができる。
新型コロナウイルスに対し、新疆カラマイ市で青年党員が市中を見回り物資を届ける姿も報じられていた。カラマイ市には6.2万人の党員がいるようだ。
ある大学でウイグル族の党員がいたが、彼は大学での集団研修旅行の際、非常にセンシティブであったと中国人教授が教えてくれた。「職員名簿には民族特有の長い名前が載っている。点呼の時、一人一人名前を呼ばれるが、その人はフルネームで呼ばれると怒った。『全て読む必要はないだろ』と。彼は党員だが、私たち漢民族を避けているようだった。怒りを持っているようにも感じた」と話してくれた。

中でも興味深いのは、2言語で党のことを学ぶ「双語党課」の様子である。雲南網(2020年7月26日)によれば、「苗族」の人達に対し、苗語と中国語で、苗族のある党員が、党の民族政策をいかに進め、民族文化の継承にどのように貢献したかといった内容が話されたという。
少数民族が党員になる理由はそれぞれであるが、「公務員になるのに有利」「会社で昇進するためにメリットがある」というのが一般的なようだ。中国有名大学講師は、「党員になれば、少数民族でも重要な仕事を与えられるという側面はある」と話す。
「党員になるためには信仰を捨てなければならない」と考える者もいる。中華人民共和国憲法36条には「すべての公民は宗教の信仰の自由を有する」と信仰の自由は保障されている。
「宗教工作の強化についての中共中央、国務院の決定」には「共産党員は党員を教育し、幹部に共産主義の信念を固く守らせ、宗教の浸食を防止するために宗教を信仰してはならない」とある。
共産党系雑誌「求是」(2018年12月12日)でも「共産党員は党の規約を遵守するために、無宗教である上に、唯物主義、歴史唯物主義でなければならない」とする。共産党が信仰に警戒していることが分かる。
その一方で、2016年7月22日の共産党新聞網に寄稿した田心銘氏は「レーニンはキリスト教徒の入党を禁止しなかった」ことを挙げ、中国共産党員も宗教を信仰してよいとの見方を示している。
私の知る共産党員も、キリスト教を信仰している。現在の中国では、憲法や章程は「ただの文」であって守られていなくても何の問題も発生しないという。
だが、入党のために彼らの信仰を禁止するなら、「民族共生」とは言えないだろう。
中国有名大学講師は「中国共産党と少数民族という対立構造で捉えると本質が見えてこない」と指摘する。
少数民族の民族問題への対応は3つに分けることができるという。
①「普通の人間」(いわば漢民族への同化)になりたい人
②「少数民族」としての恩恵を受けたい人
③伝統を重んじる過激派少数民族
①については、少数民族出身だが民族衣装などは脱いで、スーツを着て働きたいと考えるような「現代っ子」を主に指すようだ。彼らは自分達が少数民族であることをあまり重要と感じておらず、むしろ「普通の人間」として社会で生きていきたいと思っている。
②について、政府は少数民族への優遇政策を続けている。若年層への「優遇」としては、大学入学、奨学金、就職などがある。だが、「民族枠」で大学に入っても普通の学生とは学力の差がある。
ある大学では「少数民族クラス」というのがあるようで、休み時間などは民族の言葉で話すため、担当の先生も「生徒との距離」に悩んでいるという声も聞かれる。
③は報道でよく注目される少数民族派である。彼らは伝統を重んじ、「漢民族」主流の政府の方針と政策に反感を持っている。
また、特に政府が警戒しているのはウイグル族やチベット族だが、その根本には「信仰への警戒感」があるという。前述講師は、「政府は初め、『反抗している民族』と捉え目を付ける。
だがそれが続いて人数が増えると厄介だから、最終的には彼らに恩恵を与える」と話し、政府が少数民族をむやみに弾圧できず、基本的には「蜜」を与えることで鎮めようとしていることが見て取れる。
2018年3月30日の日経ビジネスには、全人代での投票の様子が詳細に書かれている。全人代で、誰かを承認する時や何かの法律を諮る時、投票が行われる。香港国家安全維持法の際は「賛成」「反対」「棄権」の3つのボタンを押す様子がテレビにも映し出されたが、以前は投票用紙を使用している。
その投票用紙には「中国語と7種類の少数民族の文字で印刷され」ていたようだ。少数民族への一定の配慮はされてはいる。

撮影・ソクラ
中国の紙幣には中国語ピンインと4つの言語が印字されており、多民族国家であることが強調されているようだ(写真)。ちなみに50元札裏の絵は、世界遺産にも登録されているチベットのポタラ宮殿である。
対外的には民族共生を謳っているが、実際はどうなのか。
ウイグル自治区を取材したある記者は、ウイグル語ができないため中国語で取材を行うが、その際必ず日本のパスポートを見せていたという。
「そうでないと中国人と間違えられる。中国人と思われれば彼らは警戒するし、自らの危険もあると思ったから」と記者は話す。

撮影・ソクラ
なぜなら「チャイナドリーム」とは中華民族による「夢」と習近平は言っているからである。駅前では駅に入場する際、身分証の提示があるが、非常に緊張感が高かった。
通常、身分証を提示すれば中国人も外国人もスムーズに入場できるのだが、その時は特に中国人の身分証認証が厳しく、短時間で2人が「この身分証は入場できない」と断られていた。少数民族への警戒の様子を垣間見た。
習近平体制になってから、新疆に職業スキル教育訓練センターという合法的な再教育施設を作ったり、チベットへ外国人が入る際に必要な「許可証(入藏函)」が厳格化されたりと、少数民族を警戒する数々の政策がある。
また、明らかになっている範囲で言えば、少数民族地域のトップの多くは共産党員であり「政府のおかげで少数民族が守られている」としばしば会見を行っている。
香港は少数民族地域ではなく「特別行政区」だが、香港研究者によれば、「行政長官であるキャリー・ラムは恐らく党員ではないだろう」とのことだ。いずれ共産党員がトップに座ることになるのだろうか。