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米政府が重視するのは「環境」ではなく、「安全保障」

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【大統領選前に米のエネルギー政策を占う(下)】バイデン政権誕生なら、「パリ協定」復帰など大転換だが

公開日: 2020/07/22 (ワールド)

バイデン氏=Reuters バイデン氏=Reuters

阿部 直哉 (Capitol Intelligence Group 東京支局長)

 今秋の米大統領選挙を控え、民主党の指名獲得を確実にしているバイデン前副大統領は7月14日、クリーンエネルギー投資計画を公表し、エネルギー分野で再生可能エネルギーの推進を打ち出した。政権交代が実現すれば、米エネルギー戦略が劇的に変わるとされる。ただ、共和、民主のどちらの党が政権を担うにせよ、米政府のエネルギー戦略は常に「安全保障」に立脚している点を見逃してはならない。

中国歴訪で“有能なセールスマン”に徹したトランプ大統領

 2017年11月5日の日本を皮切りに、韓国、中国などアジア諸国を歴訪したトランプ大統領。北朝鮮の非核化問題をめぐる対応など、外交成果についてメディアでの評価が分かれたが、エネルギー分野ではアラスカ液化天然ガス(LNG)プロジェクトへの大型投資を中国企業から引き出すなど、“有能なセールスマン”ぶりを見せ付けた。  

 アラスカ州ガスライン開発公社(AGDC)は2017年11月9日、アラスカ州ニキスキーで計画されるアラスカLNGプロジェクトで、中国石油化工(SINOPEC)など中国企業3社と契約に合意したと発表した。米中は今後、LNGのマーケティングや資金調達、投資モデルの可能性を探るため、2018年内に具体的な結論を出すとした。この契約文書は、アジア歴訪でトランプ大統領が中国を訪問した際に交わされた。

 アラスカLNGの製造能力は、3系列で年間2,000万トン。同州最北部のノース・スロープにある天然ガスプラントと結ぶパイプライン(全長約1,287キロメートル)を建設する予定で、総投資額は400億ドルに上り、2023年の生産開始を目指すとした。  プロジェクトに参加する中国の3企業は、SINOPECのほか、CICキャピタル(本社:北京)、中国銀行(BOC)だ。契約合意を受け、SINOPECなど中国企業は今後、アラスカ州が米本土の飛び地とはいえ、中国は米国内での足掛かりを得ることになる。このことは、商談以上の意味を持った。

 ロシアが北極圏開発を積極的に推進する中、中国もアラスカ州をベースに北極圏への関与の度合いを深めることも考えられる。その上で、中国は軍事的な思惑から拠点づくりをアラスカ州で極秘裏に進めるとの懸念も広がった。  訪中で皇帝並みの待遇を受けたトランプ大統領は、アジア歴訪の成果としてアラスカLNGプロジェクトだけで投資額400億ドル、数千人規模の雇用創出につながると満面の笑みを浮かべた。その様子が当時、テレビ映像を通じて全世界に伝わった。

 長期的な視点に立てば、中国の勢力拡大を促す契機となり、新たなエネルギー地政学リスクを誘発する遠因とも見られた。ただ、米中間のビジネス強化はその後、米中貿易戦争の激化を理由に大きくトーンダウンし、現在に至っている。

「化石燃料大国」と「再生可能エネルギー大国」が共存する米国

 米エネルギー情報局(EIA)は2018年1月10日、米国内の発電網に新たに接続された、17年の発電設備の能力が25ギガワット(GW)だったと発表した。このうち、大半を太陽光や風力などの再生可能エネルギーが占めた。

 また、月間ベースで再生可能設備の発電量が2017年3月に総発電量の21%に相当する675億キロワット時(kWh)と、過去最高を記録するなど、米国内でも再エネの存在感が高まっていることが判明した。  他方、EIAは2008~17年の間に米国で役割を終えた発電プラントの大半が、化石燃料による火力発電所プラントだったことも明らかにした。内訳は、石炭火力発電が47%、天然ガス火力発電プラントが26%。退役した石炭火力発電所の使用年数は平均52年、発電能力が105メガワット(MW)だった。

 再生可能エネルギー開発事業が加速するにつれ、化石燃料の代表格である石炭生産量や消費量は大きく減少に転じている。EIAは今年5月28日、米国における再エネ消費量が1885年以来、初めて石炭を上回ったと発表済みだ。

 トランプ政権が化石燃料に重きを置く政策を打ち出したのに対し、大手石油会社が再生可能エネルギーへの投資を拡大している。また、カリフォルニア州やニューヨーク州などの州政府がクリーンエネルギー政策に注力するなど、米国では連邦政府による化石燃料重視政策と、企業や自治体などによる再エネ開発・推進が同時進行している。今後、このトレンドは変化しないとみられ、「化石燃料大国」と「再エネ大国」が共存する米国の姿が浮かび上がる。

 ところで、米エネルギー戦略について「オバマ前大統領は石炭などの化石燃料を優先し、環境政策は二の次と考えていた」(ワシントン在住の政治アナリスト)との指摘も見逃せない。コスト面で(石炭は)石油や天然ガスより割安であるとともに、投機資金の流入も原油などに比べて少なく、価格が安定していること。また、米国内で石炭埋蔵地が分散するなど、原油を中東地域などから輸入するよりもエネルギー安全保障上、石炭の優位性が揺るがないためだ。

 ブッシュ(子)元大統領も現職時、石炭関係の技術開発に注力するとの環境対策を発表していた。当時、石炭をガス化することで発電効率を上げる「石炭ガス化複合発電」が注目された。

 トランプ政権が化石燃料を重視する上で拠り所となったのが「シェール革命」だ。オバマ政権となった2009年頃から米国でシェール開発事業が本格化し、シェール由来のオイルとガスの生産量が飛躍的に増加。これによって、トランプ大統領がたびたび強調するように「エネルギーの自立」が現実味を帯びるようになり、米国での石油生産動向が中東エネルギー戦略や、国際原油市場にもインパクトを与えるようになった。

米歴代政権が重視するのは「環境」でない

 一方、トランプ大統領が化石燃料の必要性を声高に叫べば叫ぶほど、皮肉にも米国民は気候変動問題や脱炭素化への移行に大きな関心を払うようになった。パリ協定への復帰を目指す、米国市民と米国経済を代表する連携団体「We Are Still In」(私たちはまだパリ協定に参加している)などは、その象徴的な存在と言える。

 前述したように、米企業や自治体などが再生可能エネルギーにシフトすることで、ある意味、化石燃料と脱炭素化の配分がバランスよく保たれている。大雑把に言うと、エネルギー安全保障は連邦政府が担い、再エネ開発は民間企業や州政府など自治体が注力することで、米国はエネルギー覇権を維持しているように見える。  

 11月の大統領選挙でトランプ氏が再選されれば、同氏はこれまでの「エネルギー支配戦略」を継続するだろう。他方、民主党のバイデン氏が勝利した場合、環境政策を重視したオバマ政権時代の戦略に立ち返ることが予想される。バイデン氏は「キーストーンXLパイプラインの建設許可を取り消す」と、すでに表明済みだ。炭素税導入に前向きの姿勢を示す同氏は、パリ協定への復帰を急ぐだろう。

 バイデン氏はまた、7月14日に地元の東部デラウェア州ウィルミントンで演説し、4年間で総額2兆ドル(約220兆円)に及ぶクリーンエネルギー投資計画を公表した。原子力発電を継続しながらも、太陽光や風力などの再エネ事業の推進や、電力貯蔵施設の設置が必要との認識を示した。こうした取り組みを通じて、発電網による排ガスを2035年までにゼロにすると強調した。

 米エネルギー戦略は今後、政権交代によって大きく変化する可能性がある。ただ、コロナ禍を契機に対中国政策の見直しや、米中間の貿易戦争が熾烈さを増すと予想されるなか、専門家の間では「トランプとバイデン、どちらの候補が大統領に選ばれるにせよ、エネルギー戦略で米連邦政府が最優先するのは安全保障であり、気候変動問題や環境保全対策ではない」(前出の政治アナリスト)との見方があるのも事実だ。
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阿部 直哉(Capitol Intelligence Group 東京支局長)
1960年、東京生まれ。慶大卒。Bloomberg Newsの記者・エディターなどを経て、2020年7月からCapitol Intelligence Group (ワシントンD.C.)の東京支局長。1990年代に米シカゴに駐在。
著書に『コモディティ戦争―ニクソン・ショックから40年―』(藤原書店)、『ニュースでわかる「世界エネルギー事情」』(リム新書)など。
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