ドイツでは、今年9月連邦議会選挙が実施される。連邦議会選挙は4年に1度行われるが、今回の選挙は、本選挙に出馬せず政界を引退するメルケル首相なきあとのドイツ政治の行く末を見るうえで重要である。
政権担当する可能性が高い主要政党が、首相候補者を指名して連邦議会選挙に臨むことがドイツの慣例となっている。9月の議会選挙まで半年近くあるが、すでに主要政党は首相候補者を指名している。
メルケル首相の率いるCDUは、アルミン・ラシェット党首を、政党連合を組むCDU/CSUの首相候補者に指名している。ラシェット党首は、CDU発祥の地であり経済力のある西ドイツのノルトライン・ヴェストファーレン州の首相を務めるベテラン・大物政治家である。
ラシェット党首は、メルケル路線を継承した中道政治の実現を訴えている。一方、CDU/CSUと連立してメルケル政権を支えているSPDは、オーラフ・ショルツ現財務相を首相候補に挙げている。ショルツ財務相はドイツ第2の都市ハンブルグ市長を務めたことのある手堅い政治家で、コロナ危機克服のための財政政策を的確に進めてきている。
こうした2大政党に伍して急速に有権者の支持を得ているのが、緑の党だが、同党は、2大政党の首相候補者が60代のベテラン政治家であるに対して、弱冠40歳の女性の共同党首、アンナレ―ナ・ベアボックを首相候補に選んだ。
ベアボック共同党首は、左派・環境保護主義者の多い同党のメンバーの中では現実主義的で、REALOと呼ばれる派閥に属する。
この3人の顔ぶれを見るとCDUラシェット党首が、メルケル首相の後を継いでドイツの首相となるのがふさわしいように見える。ベテラン・大物政治家でメルケル路線の後継者であるからである。
ところが、最近の世論調査を見ると、その見方は必ずしも正しくないようだ。4月25日に行われた調査機関フォルサの調査結果では、政党支持率1位は28%の緑の党で、CDUは僅差の27%で2位となっている。SPDはわずか13%の支持率となっている。
コロナ危機発生当初、政権担当経験の豊富なCDUの支持率は30%を大きく超えていた。その後、政府によるマスクなど医療関連用品の調達に際して、政権党のCDU/CSUに属する複数の政治家が、納入業者から多額の口利き料を取っていた事実が判明し、支持率を大きく下げたようだ。
このマスクスキャンダルに加え、CDUの支持率低下の原因となっているのは、首相候補で党首のアルミン・ラシェットの不人気である。フォルサの調査によると、次の首相として期待する人物の第1位は、緑の党のベアボック候補者で支持率30%、続いてSPDのショルツ候補者支持率20%、ラシェット候補者はどん尻で、支持率10%である。
ラシェット候補者はベテラン政治家だが、揚げ足を取られないようにするためか、発言がやや不明瞭で有権者へのアピール力に欠ける。このためCDU選出の国会議員や地方組織から「選挙の顔」として疑問視する声が最後まで出ていた。
こうした人たちの意見が今回の調査結果に反映されているように思われる。最近、CDUやSPDの2大政党に飽き足らない多くの有権者が、新たな中道政党として緑の党に期待しているようだ。
その緑の党は、若い女性の共同党首を首相候補者に選んだ。この清新な決断を支持する声が、この調査結果に反映されていると考えられる。緑の党はすでにドイツのほとんどの州で政権に参加している。
このため、9月の連邦議会選挙に勝利すれば、連邦レベルでCDUと連立を組むことやSPDや左翼党と左派連立政権を組むことは大いに考えられる。その際、ベアボック候補者が首相になることもあり得る。
緑の党は、すでに中国との経済優先の外交姿勢の見直しや、米国やEUからロシアを一方的に利することになると批判されている、ロシアからの北海天然ガスパイプライン建設工事の停止など、現政権とは異なる政策をマニフェストで打ち出している。
9月の連邦議会選挙における緑の党の趨勢が大いに注目される。
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【欧州から】政党支持率でも緑の党が首位、9月連邦議会選後に緑の党政権も
公開日:
(ワールド)
ドイツの緑の党 ベアボック党首=ccbyScheint sinnig
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茶野 道夫(ウィーン在住コンサルタント)
日系金融機関のウイーン駐在代表を定年退職後、不動産投資コンサルタント。日系金融機関のウイーン駐在代表をつとめた後、定年退職。ウイーンで、不動産投資コンサルタント。英、独、仏、西、伊、露語に通じ、在欧経験は30年を超えた。英国、スペインにも勤務。
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