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EUの”コロナ復興基金”90兆円 ドイツが賛成に回りEU分裂避ける

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【欧州から】死者多数のイタリアの反EUを警戒

公開日: 2020/06/09 (ワールド)

イタリアのコロナ治療の現場=Reuters イタリアのコロナ治療の現場=Reuters

茶野 道夫 (ウィーン在住コンサルタント)

 欧州のコロナ不況は、金融危機後の不況に勝る深刻なものとなりそうである。

 欧州中央銀行(ECB)は、ユーロ圏のGDP成長率を昨年比マイナス8-12%になると予想している。

 この未曽有の不況を乗り越えるため、EU委員会が大型財政出動を行うことを提唱している。7500億ユーロに及ぶ超大型財政出動である。7500憶ユーロのうち5000憶ユーロは、コロナウイルスのために最も被害を被った地域とセクターに、復興補助金として交付することになる。EU委員会はこのための資金を国際資本市場からの借り入れですべて賄おうとしている。

 今回のEU委員会の提案は極めて画期的である。EUが域内の経済テコ入れのため、財政出動を行うことは前代未聞。またその資金を全額借入で賄うのはきわめて異例といえる。ユーロ圏は共通の通貨と金融政策で結ばれているものの共通の財政政策はなく、このため景気対策のために、金融政策に過大な負担がかかってきた。

 ECBはかねてから財政出動の必要性を訴えてきたが、実現しなかった。その理由は、ユーロ導入に当たって、EU最大の経済大国のドイツが、ユーロ圏の経済財政運営の責任は加盟国にあり、加盟国はその財政を自らの責任において、一定の基準に従い健全に運営すべきであると主張したからである。このドイツの主張を容れて、財政赤字の水準をGDPの3%以下にすることなどを定めた経済安定・成長協定が結ばれた。

 ドイツがこうした主張をした背景には、経済力のあるドイツが、経済力の劣る域内国を援助する体制が生まれることを防ぐためであった。またドイツはEUとしての借り入れにもこれまで基本的に反対してきた。こうした借り入れを行うと、加盟国全体に返済責任が生じ、ドイツが他国の借りれの返済をも保証しなくてはいけなくなるからである。

 ところが、今回ドイツはこうした従来の主張をかなぐり捨て、EUの提案をフランスと並んで支持しているのである。コペルニクス的転回と言える。ドイツの変心の背景には、どういう事情があるのであろうか。

 かつてギリシャが財政赤字を粉飾したため、国際資本市場から借り入れができなくなり債務危機に陥ったとき、ドイツは、ギリシャの支援要請に対してきわめて厳しく対応した。債務危機の原因が、財政赤字の粉飾であったこともその一因だが、ギリシャ経済の規模が小さく、仮にギリシャがユーロ圏から放逐されたとしても、ドイツ経済への影響は、きわめて限られていたからである。

 さて今回のコロナ危機で最も被害を受けているのはイタリアとスペインである。ことにイタリアはEU3位の経済規模を有する国である。ドイツ経済は、ユーロ導入後、自国通貨切り下げにより対独競争力の回復を行うことができないイタリアに対する輸出を伸ばし大いに潤ってきた。

 このようなことから、イタリア経済はギリシャ経済と違い、ドイツ経済にとって無視できる存在ではないと言えよう。そのイタリアで、昨今EUを批判するポピュリスト政党が大きな力をつけてきている。今回のコロナ危機で重症患者が急増したイタリアは、重症患者の治療に必要な医療機器の供給支援をドイツに求めたものの、ドイツが医療機器の輸出禁止の措置を取ったため、イタリアでは医療機器が不足し、多くの死者を出す事態に見舞われた。

 そのイタリアを救ったのは、EU域外の中国やロシアなどであった。このため多くのイタリア人は、ドイツやEUに強い不信感を持つことになったと伝えられている。今回のEU委員会による大型財政支援の提案は、イタリアのコンテ首相の要請に基づいている。こうした事情から、ドイツとしてはこの要請を前向きに受け止めざるを得なかったものと見られる。

 ドイツがこの要請を拒否し、イタリア経済の復興が妨げられれば、反ドイツ・反EUのポピュリスト政党がイタリアで政権を握る事態が起こりうるからである。イタリアがポピュリスト政権の下、英国のようにEU離脱を行うことになれば、ドイツ経済は甚大な被害を被るからである。

 ところで、一部には今回の財政出動をきっかけとして、EU委員会が米国政府のように、独自に連邦としての財政政策がとれるようになるのではないかとの見方がある。確かにそうしたことを展望してか、EU委員会は借り入れ返済財源確保のため、EUとしての税制の拡充を図ることを提案しているが、EU委員会には、米国政府のような強い法的権限はない。

 独自の財政政策をとるために加盟国すべての同意が必要とされており、EU委員会が単独で財政政策を進められる体制ではない。ただし将来EUがさらに統合し、そのような体制ができる可能性はある。今回の提案はそのための一里塚になり得るかもしれない。

 今回のEU委員会の提案は、そうした意味で今後のEUの方向を探るうえできわめて注目に値する出来事であると言えよう。
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茶野 道夫(ウィーン在住コンサルタント)
日系金融機関のウイーン駐在代表を定年退職後、不動産投資コンサルタント。日系金融機関のウイーン駐在代表をつとめた後、定年退職。ウイーンで、不動産投資コンサルタント。英、独、仏、西、伊、露語に通じ、在欧経験は30年を超えた。英国、スペインにも勤務。
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