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冷めているキューバ人

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【米と国交回復、キューバのいま】町並みは54年凍結、クラシックカーを実用

公開日: 2015/08/06 (ワールド)

撮影は斉藤真紀子 撮影は斉藤真紀子

斉藤 真紀子 (ライター)

 歴史に残る1ページと注目された、アメリカとキューバの国交回復。7月20日、54年ぶりに両国の大使館業務を再開した。とはいえ、関係改善への道のりはまだ始まったばかりだ。アメリカによる経済制裁もいまだ解かれておらず、すぐにはアメリカ企業が進出したり、アメリカ人観光客が自由に訪問したりできない状況だ。キューバ側もグアンタナモ米軍基地の返還を求めるなど、交渉が一筋縄でいかない現状を抱える。

 「アメリカとの国交回復は政治上の話。うれしいとか、悲しいとか、自分たちの生活にインパクトがあるとか、そんなふうに自分たちは受け取っていないよ」(30代男性、国営レストランウェイター)

 国交回復のニュース後、キューバを訪れたときに耳にしたのは、驚くほど冷静なキューバの人たちの反応だった。キューバのラウル・カストロ国家評議会議長とオバマ米大統領が国交正常化の意向を示したのは、昨年12月。多くのキューバ人にとって、アメリカは意外にも身近な国だ。米フロリダ州マイアミにはリトル・ハバナといわれる、亡命キューバ人がコミュニティを形作る地域があり、そこに友人や親せきがいる人が多くを占める。仕送りや物資の援助を受ける人、音楽や映画、テレビ番組などの情報も入手できるネットワークを持つ人が圧倒的だ。

 少なくとも見かけ上は、首都ハバナを含め、キューバの街並みはキューバ革命が起きた1959年にタイムトリップしたかのように、昔のまま。栄華を極めたコロニアル風の建物はメンテナンスが及ばず朽ちているが、優雅な面影を残している。排気ガスを吹き出しながら、クラシックカーが大きな車体を揺らしながら街を走り抜ける様子はモーターショーのよう。新しい車を買うお金がなく、たびたび修理しては数十年間乗り続け、乗合タクシーとして活用されているアメ車たちは究極の「エコカー」かもしれない

 アメリカの経済制裁に痛めつけられ、カストロの独裁政治に人々が自由を奪われた哀れな国――。そんなイメージを持つ人も多いキューバだが、実際訪れると、イメージとのギャップに意表をつかれる。道行く人は男も女もおしゃれを楽しんでいるし、その表情はむしろ明るくいきいきと楽しそうだ。街には陽気な音楽もあふれている。アメリカの大都市、ニューヨークのように物乞いをするホームレスの姿はまれだし、地元の人と話をすると、ユーモアや茶目っ気たっぷりにスポーツや日本の話で盛り上がる。

 しかし、実際の生活ぶりを聞いてみると、キューバに住む人の口から不満がだだ漏れになる。教育も医療も、住居も無料で食糧の配給もあり、セイフティネットは保障されているが、圧倒的な物資不足で人々の生活は苦しい。街から突然1カ月ジャガイモが消えたり、卵が足りなくなったりといった不測の事態が起こる。3月に訪れたときは、なぜか店頭から塩が消えていた。いまだ停電も日常的にあり、道は穴ぼこだらけ、旧市街では建物が突然倒壊する事故も起こるし、インターネットなどのインフラ整備も遅れている。

 キューバ政府は革命後、貧富格差の是正に取り組み、持てる者が持たざる者から中間搾取をする経済システムを徹底排除すべく、理想を掲げて社会主義国家を運営してきた。冷戦時代は旧ソ連と友好関係のもとで経済は庇護下に置かれていたのだが、90年のソ連崩壊以降、人々は「草を食べて飢えをしのいだ」というくらい、困窮を極めた。いかだに乗って、命がけで国外に亡命する人もそのころ増えた。皮肉なことに、鎖国のようにグローバリゼーションから取り残された古い街並みが世界から集まる訪問客の興味を誘い、現在では観光がキューバ政府の重要な外貨獲得手段になった。

 自営業を許可するなど、ラウル・カストロ国家評議会議長は経済改革を進めているものの、国民の暮らしは楽にならない。外国人通貨と現地人向けの二重通貨制度を設けていることで、外貨を稼げる観光業に就く人たちと、そうでない人の経済格差が拡大する傾向が顕著になっている。

 こうした貧困の現状を踏まえると、アメリカとの国交回復で経済制裁が緩和されれば、国民の暮らしが豊かになると期待してもよさそうなものだ。何しろ、マクドナルドやスターバックスもない世界でも稀有な国なのである。しかし、キューバの国民はいまの暮らしの背景にある本質的な問題を厳しい目で見つめている。多くの人が口にしていたのはアメリカの経済制裁が原因なのではなく、「給与が安く据え置かれている」という経済の仕組みに限界がきているという点だ。

 「給与が安い。昇給もない。だから役人は働かないことで逆にお金を稼げるという考え方になってしまった。やるべきことをやらず、仕事をするときは特別料金を払ってくれ、という発想になる。それが一番の問題」(20代、男性教師)

 勤労意欲の低下は役人に限らない。たとえば学校教師でさえ、親が多めに授業料を払うと、特定の子どもに特別目をかける。農家もわざと収穫量を低く見積もり、いいものは別ルートで販売してお金を稼ぐ。必然的に市民が受けるサービスの質は低下する。効率をよくしようという発想もなくなる。こうした社会システムこそが今の貧困を形成したのであり、アメリカとの経済関係が根本原因ではないというのが大方の意見だった。

 そんななかで、興味深かったのは、キューバの給与構造だった。ウェイターが高給取りで、医者がワーキングプアという現象について次回レポートしたい。
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