11月8日に迫った米中間選挙でトランプ前大統領の支持する共和党候補が連邦上院の議席をいくつ獲得できるかが、注目されている。共和優勢とされるなか7州で激戦が続き、民主党から過半数を奪えるか、なお予断を許さない状況だ。
最終盤にきてトランプ氏に議会襲撃事件の責任を問う召喚状が送付された。選挙戦の帰趨とともに、2024年大統領選の候補者を選ぶ共和党内の動きにも影響してきそうだ。
トランプ氏の支持者が暴徒化し、連邦議会を襲撃した21年1月6日。議事堂から避難したナンシー・ペロシ下院議長(民主党)とチャック・シューマー民主党上院院内総務がくたびれたソファに肩を寄せ合い、携帯電話でジェフリー・ローゼン司法長官代行(当時)に訴えた。
「窓を割って侵入してきた。暴徒はあらゆるやり方で法を犯している。率直に言ってそのからなりの部分は合衆国大統領が扇動したものだ」とペロシ氏。かぶせるようにシューマー氏が迫る。「大統領から連中に議事堂を出て行くよう言ってもらったらどうだ。あなたには法執行の責任がある」
襲撃事件を調査する米下院の特別委員会「1月6日委員会」が10月13日公表した動画は、事件当時の緊迫した議会幹部の表情を映し出した。21日、同委員会はトランプ氏に証言を求める召喚状を送った。
召喚状は「あなたは大統領が選挙結果を覆そうという、最初で唯一の試みの中心にいた。この行動が違法であり、違憲であると知っていた」と指弾。同氏は11月4日までに関連記録を提出し、14日をメドに証言するよう求められた。8日は中間選挙の投開票日。同氏側は調査を「下院を主導する民主党による選挙をにらんだ党略だ」と非難する。
召喚状は長い法律論争の序章にすぎない。委員会に訴追の権限はないが、司法省に起訴を働きかける。トランプ氏の弁護士チームも徹底抗戦するとみられ、争いの行方は最高裁まで視界に入る。同氏は現職時代に2度も弾劾の危機を乗り切ってきた。
中間選挙は下院で共和党が優勢だ。このまま奪還に成功すれば、「1月6日委員会」を骨抜きにしかねない。中間選挙の共和党予備選では、主要州で同氏に異を唱える選挙区に送り込んだトランプ系の刺客候補が連戦連勝。召喚状で排除できるほど同氏の政治的な影響力は弱くない。
が、「強いトランプ」を共和党が諸手を挙げて歓迎している、というわけでもない。
「トランプ氏が二度とホワイトハウスに近づかないよう、何でもする」。8月、ワイオミング州で共和党の下院議員候補を選ぶ予備選で、一貫してトランプ批判を繰り返してきた現職のリズ・チェイニー氏は、トランプ氏の推す候補に大敗した。
再戦の道は閉ざされたが、共和内にも広がる「反トランプ」のシンボルに浮上。「1月6日委員会」の副委員長を務め、今回の召喚状には自ら署名した。「米国民は直接トランプ氏から宣誓証言を聞く権利がある」と主張。24年大統領選への出馬を示唆した。
党内では優勢だったトランプ系の候補だが、上院選は民主党と接戦を余儀なくされている。米民主党はトランプ氏に過激派のレッテルを貼り、有権者に「トランプか、反トランプか」の選択を迫る戦術が一定の成果を上げた。
共和党が過半数を制するかどうか、まだ不透明。共和党の候補にも穏健派の支持を取り付けるため、トランプ氏と距離を置こうとする動きもみられる。
民主党が争点化した人工妊娠中絶の禁止より経済問題を重視する有権者が増えているとする世論調査結果が選挙戦の最終盤で出てきた。インフレ対策などでバイデン政権を追及する共和党にとって追い風だ。勢いに乗って上下両院で多数派を占めれば、もともと不人気のバイデン大統領がレームダック(死に体)化するのは決定的。24年の政権奪取に展望が開ける。
では、誰をバイデン氏の対抗馬にするのか。
米紙ニューヨーク・タイムズが18日発表した世論調査結果で、次期大統領選の共和党候補として26%の支持を集めてトランプ氏に次ぐ2位につけたのが、フロリダ州のロン・デサンティス知事だ。エール大学、ハーバード大学ロースクールを卒業した秀才。連邦下院議員を経て、18年の知事選で初当選した。44歳と若い。
今年9月、同州に上陸したハリケーン「イアン」への対応で名を上げ、バイデン氏からも称賛された。共和党保守の支持も厚く、移民を他州へ送りつけたり、新型コロナウイルス対策のマスク着用に反対したり、独自路線がファンを増やす。電気自動車メーカー、テスラの経営者イーロン・マスク氏もエールを送る。今回の中間選挙でも民主党のライバルをリードする。
デサンティス氏の位置づけは「トランプ的」だが、「トランプ氏本人より危険ではない」というところだ。共和党内では民主党の価値観と真っ向から対立する、トランプ流の保守強硬路線への支持が根強い。逆境で結束を固めるという一面もあり、8月に米連邦捜査局(FBI)が機密文書の不正持ち出し容疑でトランプ氏の私邸を家宅捜査した直後には、同氏を24年の大統領選に推す声がむしろ増えた。
英誌エコノミストは「デサンティス氏はホワイトハウス入りするには、トランプ氏の副大統領を目指す方が実現の確率は高いと考えているだろう」と推測する。
中間選挙を終えれば24年大統領選の候補者レースに向けて、共和党は選択のフェーズに入る。2年間は長いようで、短い。まず上院選の結果が最初の判断材料になるだろう。