米連邦議会は2年ごとに実施する11月の選挙で上院(定数100)の3分の1(今回は35議席)、下院の全議席(定数435)を改選する。4年に1度の大統領選の間にあるのが中間選挙だ。選挙前は両院とも民主党優位だったが、歴史的に大統領を擁する政権与党が議席を減らすのが通例。選挙戦は共和党が下院で過半数を奪う勢いをみせる。
問題は上院だ。
米調査会社リアル・クリア・ポリティクス(RCP)によると、それぞれの党が優位な候補に非改選の現有勢力を加えた議席数は民主党が46、共和党が47。7選挙区で当確を出せない接戦が続いている。選挙前は50対50で拮抗し、議長がハリス副大統領なので決定権は民主党が握っていた。パワーバランスが崩れれば、議会は共和党が完全掌握することになる。

上下両院を共和党が制すれば、法案成立などでホワイトハウスは制約され、バイデン氏が早々にレームダックとなる可能性も出てくる。その先には2024年大統領選でのトランプ前大統領の再出馬のシナリオも浮かぶ。激戦7州の共和党候補はほとんどがトランプ氏の推薦を受けている。共和党の上院選勝利はトランプ氏の勝利となり、立候補に勢いがつく。
焦点になるのがアリゾナ、ジョージア、ニューハンプシャー、ノースカロライナ、ネバダ、ペンシルベニア、ウィスコンシンの7州だ。ペンシルベニア州の共和党候補は医師でテレビ司会者のメメット・オズ氏。トランプ氏の支持を得て、党内で候補者を選ぶ予備選挙を勝ち抜いた。民主党候補の副知事、ジョン・フェッターマン氏と上院議員のポストを競う。
ペンシルベニア州の重みをリーダーたちも意識する。「米国の根幹を揺るがす過激主義を象徴している」。バイデン氏は9月1日、同州で演説し、トランプ氏と同氏のスローガンMAGA(アメリカを再び偉大に)を信奉する人々を米国の脅威と断じた。中間選挙では「米国が前へ進むのか、後退するのか選択しなければならない」と有権者に迫った。
2日後にはトランプ氏も同州で演壇に立つ。「(バイデン氏の演説は)これまでの演説の中でも最も悪質で、人々を対立させるものだ。憎しみと怒りに満ちていた」と糾弾。バイデン氏こそ「国家の敵だ」とレッテルを貼り、「米国の歴史で最も重要な中間選挙を2か月後に控える。今年は上下両院を奪還する年だ」と宣言した。
PCPによると10月7日時点でフェッターマン氏の支持率は48.0%。43.7%のオズ氏に4.3ポイントの差をつけているが、8月に最大8.7ポイント会ったリードは縮まっている。人工妊娠中絶の容認判断を共和党系判事が多数を占める連邦最高裁が覆したことをてこに、民主党が女性票を取り込む一方、ガソリン安などで一服していた経済への懸念が台頭してくれば共和党に追い風が吹く。1か月は情勢を変えるのに十分な時間だ。
10月6日付の米紙ニューヨークタイムズ1面に「内戦(civil war)」の見出しが躍った。外国の出来事ではない。8月、米連邦捜査局(FBI)がフロリダ州にあるトランプ氏の私邸マール・ア・ラーゴを家宅捜査した一報が伝わると、ツイッター上で「内戦」という言葉への言及が数時間で3000%増に膨らんだという。
MAGA支持者がトランプ潰しをねらった国策捜査と反発した影響があるとみられる。英語で内戦を表す2語の頭文字を大文字にした「Civil War」は、19世紀に黒人解放問題で米国を二分した「南北戦争」を意味する。現代の政治的な分断は南北戦争に例えられるほど先鋭化した。記事の中で専門家は「中間選挙を前に過激な言説の流布されるのでは」と懸念する。
2020年の大統領選挙でトランプ氏の敗北を信じない支持者が、選挙結果の認定を阻止するため連邦議会を襲撃した「1月6日事件」。米国の分断を象徴する暴動は、民主主義のリーダーと信じていた大国への幻滅を世界中に拡散した。民主主義国家アメリカは死んだのか。その問いへの一つの答えが中間選挙で出る。