景気か、物価か――金融政策をめぐりしばしば綱引きをする政権と中央銀行の呼吸がいま米国ではピタリと合っている。中間選挙で物価が最大の争点の一つとなるなか、インフレファイターとして自らを演出したいバイデン大統領が、米連邦準備理事会(FRB)の相次ぐ利上げを容認する態度をとっているからだ。
投開票まで1週間を切った2日までの議論で米公開市場委員会(FOMC)は追加の利上げを決定。共和党から「インフレ無策」と追及される民主党のバイデン氏にとって「側面支援」になるだろうか。
2日、市場の予想通り0.75%の利上げが発表され、FRBの次の一手を見極めようとパウエル議長の記者会見に耳目が集まるなか、ホワイトハウスでジャンピエール大統領報道官がコメントした。「利上げはさらに安定し順調な成長へ移行するための一環だ」。
消費を冷え込ませたり、失業を増やしたり、有権者の痛みをともないかねない利上げに政治家は常に慎重だ。ましてやいまは選挙目前。不人気な引き締めに政権が眉をひそめてもおかしくないところだが、何よりも気を配らなければならないのはインフレだ。
米紙ワシントンポストとABCテレビの世論調査によると8割近くの有権者が投票する上で「インフレ」を重視すると回答した。
政権の意向に左右されずに金融政策を執行する「独立性」は中央銀行の生命線だ。しかし、トランプ前大統領からFRB議長に起用されたパウエル氏は上司の口先介入に再三悩まされてきた。
「インフレはない。マイナス金利にしないのは馬鹿正直なパウエルとFRBだけだ」。トランプ氏はツイッターなどで露骨に利下げ圧力をかけてきた。2020年大統領選で同氏を破ったバイデン氏は共和党でありながら穏健派のパウエル氏の続投を決定。新しい上司は「FRBの独立性を尊重する」と原点回帰を宣言した。
今年3月、FRBは新型コロナウイルス対策で続けてきたゼロ金利政策を2年ぶりに解除した。感染拡大の沈静化による景気回復に加えて、ロシアのウクライナ侵攻が原材料や食料の価格を押し上げ、米国のインフレ率もほぼ40年ぶりの高水準。
引き締めを強化し、今回もFOMCが通常の3倍にあたる0.75%の利上げを決めたのは6月以降4会合連続だ。手綱さばきを間違えればリセッション(景気後退)を招く恐れのある急速な引き締めも、ホワイトハウスのお墨付きがあれば進めやすい。
バイデン氏はパウエル氏に「独立性」を保証し、インフレ退治に邁進させているようにみえるが、「物価対策を丸投げしているだけではないか」とみる専門家もいる。実際のところインフレ抑制に政権がもつ選択肢にはFRBの利上げほど有力なものはない。
「利益を還元すればガソリン価格はもっと下がる」。10月31日、バイデン氏は石油メジャーの「儲け過ぎ」を批判した。米エクソンモービルの7~9月期の純利益は2兆9000億円と四半期ベースで過去最高。何とかしなければ増税を課すと揺さぶったが、大企業を悪者にするやり方はポピュリズム(大衆迎合主義)的にも映る。そもそも中間選挙で連邦議会の主導権を失えば、増税など画餅に過ぎない。
選挙を前にした「持ちつ持たれつ」の間柄がホワイトハウスとFRBの蜜月を醸し出す。ではFRBの連続利上げはバイデン氏の民主党を利しているのか。FRBは2日の声明で「金融政策が物価や経済活動や物価に影響を及ぼすのに時間差がある点を考慮する」と記した。もちろん来週の選挙に即効性があるわけがない。
ポイントは選挙結果がホワイトハウスとFRBの関係にどんな影響をもたらすかだ。敗色濃厚なバイデン氏が経済政策の失敗の責任をパウエル氏に押しつけてくるかもしれない。インフレ退治の結果が現れてくる前に両者の関係がぎくしゃくすると金融政策の行方は混沌としてくる。
中間選挙での勝敗が、市場が注目するFRBの「次の一手」を占う材料の一つになることは間違いない。