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メキシコ極左政権、コロナと経済に失政

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【経済着眼】それでも高い支持率、貧困層など岩盤支持層が支え

公開日: 2021/04/06 (ワールド)

オブラドール大統領=cc0 オブラドール大統領=cc0

 2018年12月にオブラドール氏が率いるMORENA(国民再生運動党)が総選挙で地滑り的な勝利をおさめ、極左勢力と言われてきたオブラドール大統領が政権の座に就いた。腐敗汚職の撲滅、世界一の殺人率といった治安悪化の歯止め、低迷を続けてきたメキシコ経済の活性化(GDP年平均6%以上を目標)、の三点を公約に一時は80%を超す高支持率を集めた。

 オブラドール大統領は当初、上記公約を達成するため、スペインからの独立以来となるラディカルな改革を叫んだ。元々、同氏は1970年代に極左の社会活動家として政治活動をスタートさせたが、メキシコ市長としては政治信条を抑えて現実的な中道政治で実績を残した。

 しかし、大統領就任後の経済政策としては、まず着工中の国際空港工事の中止発表で経済界を唖然とさせた。とくに経済界からは政策の不透明性が強すぎて設備投資に踏み切るのに躊躇するとの声が相次いだ。

 さらにユカタン半島の産業・観光振興を狙ったマヤ鉄道の敷設工事、タバスコ州における80億ドルの巨費を掛けた石油精製所の建設なども次々と発表した。ともに最貧困地域の経済振興を狙ったものである。ここ40年の市場主義を批判しただけあって、左派らしい国家主導プロジェクト推進に立ち戻ったと言えよう。

 このような国家主導によるプロジェクト推進は、7%を越える実質成長を成し遂げた1970年代後半における「メキシコの奇跡」の再現を目論んだものであった。この1970年年代後半におけるメキシコの高度成長はよく知られているように対外債務の累増、財政運営の破綻、メキシコ通貨危機を招いて失敗に終わった。

 1980年代後半に至って外国企業による直接投資や貿易振興に政策の重点を変えた。この結果、1994年にOECDに加盟、さらにNAFTAを締結してメキシコは安い人件費を利して自動車やテレビに至るまで工業製品の一大製造基地となった。

 オブラドール大統領は1970年代後半のように「メキシコ経済を20世紀に逆戻りさせている」と酷評されている。マヤ鉄道で使われるディーゼルエンジンは環境保護の点で優れた電化の波に逆行したアナクロでさえある。

 国営の石油火力発電所建設もバイデン米大統領が再生エネルギーの利用拡大を呼び掛けている中で特異な動きである。石油精製所建設も世界のメジャーが供給過剰の長期化を嫌気して施設廃棄を進めている中で時代逆行的な動きとの批判が強い。

 オブラドール氏は大統領になるまで3度挑戦を強いられた。メキシコ中の都市で演説して、税金、石油、電気代を絶対に上げないということが国民の切実な要求であることを熟知するに至った。オブラドール大統領はメキシコ経済の近代化よりも選挙基盤として精糖業者や農民などを重視してきた。

 オブラドール大統領は新型コロナウィルスとの戦いでは、財政資金の出し惜しみなどから多くの批判も受けた。年金、若年者、高齢者、農民ら「岩盤支持層」に対する補助金支出が効いて、とはいえ、経済、犯罪に対する有権者の批判は強く、公約した腐敗撲滅、貧困と闘い経済を成長させる、という面ですら、全く達成できていない、という批判も強い。

 新型コロナウィルスの感染抑制に関しては、移動や経済活動の制限などが緩く、一種、自由放任型のアプローチを採った。このため、人口当たりの感染件数、死者数で世界最悪の感染状況をもたらした。ちなみに人口当たりで見ればメキシコの20万人を超える死者数というのは、米国、英国、ブラジルなどを大幅に上回っている。実際の死者数はこれをはるかに上回っているとみられる。

 パンデミックはオブラドール大統領のもう一つの言い逃れを鮮明にした。極左政治にもかかわらず、オブラドール氏は財政緊縮主義者である。コロナ対策のGDP比は0.9%とウルグアイと並んで世界の最低水準であった。

 ちなみに先進国平均は8.9%に達している。メキシコはコロナ感染拡大前から景気後退に見舞われていたにもかかわらず、オブラドール大統領は「これ以上政府債務を増やす余地は全くない」と動じる気配はなかった。

 対外的な支援の手を延ばされても消極的でIMF等からの借り入れ増大も拒んだ。

 その結果は悲惨なものであった。国連のラテンアメリカ経済委員会によると、メキシコの貧困率は50.6%、勤労者世帯の4割が基礎食料品も満足に手に入れることができなかった。

 こうした結果、2020年のGDPは-8.5%と80年に現統計を開始して以来最悪の水準となった。四半期ベースでは20年10~12月期連続まで6期連続でマイナス成長となった。主力産業である自動車の2020年中の生産・輸出が前年比2割減、国内販売に至っては同3割減という惨憺たる状況であった。

 IMFではメキシコのGDPは2026年までパンデミック前の水準に戻らないという悲惨な見通しを出している。2018年就任以来、2024年まで6年間の大統領任期中のGDP成長率はほぼゼロ、一人当たりGDPで見ればマイナスという予想も出ている。

 オブラドール政権は経済の悪化以外にもパフォーマンスは芳しくない。殺人被害は連邦警察の増員等にもかかわらず、ほとんど改善していない。殺人の多くの原因となっている麻薬カルテルの暴力もやまない。

 性的な蔑視を背景とすると言われる女性、少女を標的とした殺人(フェミサイド)も毎日11人に及んでいる。世論調査によると、経済運営が拙劣という回答が全体の49%に対して、治安が向上していないという回答も54%と高水準である。

 今年6月6日に連邦下院全議席の改選、全国32州中15州における州知事選挙などを含む中間選挙を控えてオブラドール政権は多数維持を目論んでいる。オブラドール大統領に対する支持率は64%とピークも80%台から低下したとはいえ、なお高水準を維持している。世論調査でも与党陣営が野党陣営を20%以上も上回っている。

 経済・治安の悪化や拙劣な新型コロナウィルス対策などに対する経済界や富裕層からの批判は強い。それにもかかわらず、これだけの支持を集めているのは左翼政権として岩盤支持層である所得中・下位層に対する手厚い支援をおこなったことが大きい。さらに汚職疑惑のあった歴代大統領を裁く国民投票を中間選挙後に実施する予定であるなど、汚職撲滅への期待が強いためと見られている。

俵 一郎 (国際金融専門家)

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