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王室財産を突如、個人管理に変更した新国王

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【経済着眼】タイの反政府デモと王室の財産問題

公開日: 2020/10/22 (ワールド)

CC BY 前国王夫妻(1960年)=CC BY /manhhai

俵 一郎:経済着眼 (国際金融専門家)

 タイでは、反政府デモが続く中でプラユット首相が非常事態宣言に基づき、集会禁止などの措置を打ち出した。

 しかしながら、反政府デモは、プラユット首相の辞任と軍部によって定められた憲法の改正を求めて連日続いており、多数の逮捕者もだしている。次第にタブーであった国王批判の反王室運動も加わってきた。

 10月15日には一時、デモ隊がスティダー王妃の車列の進行を妨げた。王室畏敬の念が強いタイでは数か月前までは考えられなかったことだ。

 現在のタイの反政府、反王室運動の背景は何にあるのであろうか。政治的には、実質的には軍政が続き、憲法も軍部に好都合なように改正されたことへの不満がある。

 プラユット首相は、2014年、クーデターを主導した陸軍司令官であり、19年に民政に替わったと称しつつも、首相に就いたプラユット氏はじめ軍部の影響力は依然として絶大である。上院は軍部による任命者で構成されるなどの憲法改正も加わった。

 また野党勢力は、軍部の暗躍とみられている憲法裁判所からの解党を命じられるなど圧迫され続いている。

 経済的にはコロナ禍で、外出禁止や国境封鎖が続き、二大セクターである旅行業や輸出関連企業の業績悪化で一般大衆が困窮して不満が噴出してきたという事情もある。

 タイではコロナウィルスの抑制には成功して累計感染者数は3,600人に過ぎない一方、海外からの観光客が締め出され、主力の自動車、電子部品の輸出も大幅に減少したため、実質的な失業者が数百万人に及ぶ。

 そこに学生を中心とした反王室運動、王室改革を求める動きが重なった。

 全国民の尊敬を求めたプミポン国王(正式にはラーマ9世)の逝去後、16年12月にワチラロンコン国王(ラーマ10世)が即位した。前国王はタイでは異例となる女性であるシリントーン王女(現国王の姉)に王位継承権を与えていた。万一の場合、博士号を持つ英明な王女が、愛人問題などで資質面を問われることが多かった現国王に代わって、王位継承することも想定されたとみられる。

 王室を巡る批判の中で、とくに微妙なのは王室の財産問題であろう。

 そもそもタイの王室財産は1930年代に設立されたタイ王室財産管理局(Crown Property Bureau、CPB)で一元管理されてきた。しかし、現国王が即位したあと、18年7月16日には「タイの王室財産はすべて新国王の手にゆだねられる」と唐突に発表されて王室財産は国家管理から国王による個人管理に変更された。

 この措置に関する反感は大きい。

 タイ王室に対する不敬罪は最長禁固15年の刑に服さねばならないので反王室運動を行うには勇気がいる。しかし、バンコクからタイ全土に広がりつつある反王室運動の中で、王室財産がワチラロンコン国王の個人管理に替わったことに対する反感は大きいと言われる。

 タイの王室財産はフォーブス誌などの推計によれば430億ドル(約4.5兆円)と世界の王室財産でもトップであり、第二位のブルネイ(280億ドル)、第三位のサウジ(180億ドル)を大きく上回り、英国王室(約5億ドル)の80倍に達している。フォーブス誌の長者番付でも第6位につけている。

 王室財産の中味は不明ながら,CPBが2011年、プミポン国王当時に明らかにしたところでは、不動産が370億ドルと圧倒的であり、首都バンコックではビジネス街の一等地などで3,230エーカー(約395万坪)、バンコック以外でも13,200エーカー(1,615万坪)と広大な土地を所有している。このほか、株式としてはシャム商業銀行(Siam Commercial Bank)の全株式の23.4%にあたる17億バーツ、シャムセメントグループ(Siam Cement Group)の同33.6%にあたる45億バーツ、などを保有している。

 王室財産とは別に毎年、財政支出される王室費も2020年は90億バーツ(約2.9億ドル)と2018年の42億バーツから倍増している。解党された第二野党(新未来党)の後身である前進党は、このほかにも国防省から12億バーツ、王室警護費として警察本部から12億バーツ、首相府から38機に及ぶ王室専用機・ヘリが贈与されていることを突き止めた。昨年には、警護のために陸軍の二連隊を王室直属とする法令も発出されている。

 前進党は「王室費はもともと税金であり、支出を透明化すべき」として下院予算員会で王室費の関する質問を開始し始めた。

 学生を中心とする反王室派はコロナ禍で厳しい経済情勢にあるタイ経済と疲弊した国民に見合った王室予算へと削減すること、国王の私的な財産と王室資産の分離、など10項目に亘る改革案をぶつけている。こうした王室予算の削減や資産の分離は、莫大な資産と予算配分を背景とした王室による政治への介入を抑制する狙いもある、とみられる。

 さらに批判を広げているのは、国王であるのに一年の大半をドイツで暮らしていることだ。現在、ワチラロンコン国王は前国王の命日(10月14日)を迎えて帰国しているが、それまでバイエルン州の州都ミュンヘンから40キロ離れた湖畔のホテルに家族や数百人の召使いとともに長期滞在してきた、と伝えられる。

 ドイツでもタイ国王の長期滞在は政治的な物議を醸(かも)しており、メルケル政権は火の粉を防ぐのに躍起である。バイエルン州の野党「緑の党」はワチラロンコン国王に対する批判を強めると同時に外交関係に傷がつくのを恐れて傍観を続けてきた、としてメルメル政権を批判している。

 同党の批判は、外国の王室がホテルの運営などの営業活動を行うことの是非、前国王から引き継いだドイツ国内不動産の相続税は払っているのかといった税金面の問題、国外で執政しているのは不適切といった国家運営面にまで及んでいる。

 マース外相は、タイでの抗議デモ拡大を眺めてベルリンでも不快感が募っていると指摘したうえ、「タイの政治がドイツの土壌から行われるべきではない」として、タイ国王が長期滞在してドイツの国土から国家運営をする行為を止めるようにと強い警告を発している。これに対してタイ外務省は「タイでは(国王ではなく)首相が政府を取りまとめて政策を取り仕切っている」と反論している。

 ドイツとタイは自由貿易協定(FTA)の交渉を始めていたが、2014年のクーデターで中断、民政移管後、新政府が発足したため今年7月から交渉を再開したばかりである。ドイツのマース外相は「タイが国王のドイツ長期滞在という現在の姿勢を改めない場合、FTA交渉の凍結もありうる」と厳しい姿勢を示している。

 一方でタイ王室に対する国民の畏敬の念は引き続き強い。

 プラユット政権を激しく糾弾している一派でさえ、学生による王室の権力抑制、王室資産を監査せよ、といった反王室勢力の要求は過激であると批判している。ただ、国民の多くがこのままではクーデターや政治的な流血事件につながりかねないと危機感を強めている。タイでは国内で抗争があった場合、国王が仲裁役を果たすことが多かったが、今回はその王室も渦中に巻き込まれている。いずれにしても、事態の早急な打開が必要であろう。
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