国際通貨基金(IMF)のクリスタリナ・ゲオルギエワ専務理事は、中国をめぐる疑惑で進退を問われていたが、10月11日(月)に開催されたIMF理事会で専務理事の継続を承認された。折からIMF・世銀の年次総会が同日から開催され、その動向が注視されていた。
ゲオルギエワ女史は前任の世銀最高経営責任者(CEO)時代に、著名な世銀の「ビジネス環境の現状」2018年度版データを中国の利益につながるように、キム総裁とともに事務方に圧力をかけて変更させた、との疑惑を持たれていた。
ゲオルギエワIMF専務理事は2019年9月にラガルド専務理事が欧州中央銀行(ECB)総裁に転じた後任として選出された。ブルガリア出身で68歳。コロナ危機に際してはIMFの特別引出権(SDR)の配分で6,500億ドルの資金配分を行ったほかおよそ100か国に対して緊急融資を行うなどの手腕を発揮していた。
ビジネス環境をめぐる報告は、当該国のビジネス環境を規制や税制などの自由度や透明性を評価したもので、この順位が高ければ新興国に対する先進国からの投融資を促進することが期待されている。
ゲオルギエワ専務理事らは、この「ビジネス環境の現状」2018年版で中国の順位を85位から78位に不当に引き上げたとの疑惑を突き付けられた。このため、世銀が依頼した法律事務所が調査に入っていた。もちろん、ゲオルギエワ専務理事は関与を全面的に否定していた。
中国は、IMFのSDR構成国に加えられるなど、国際機関でも勢力を拡大している。ちなみにIMFでも中国はナンバー2の副専務理事(4人)の一角に今年8月、李波中国人民銀行副総裁を選出している。
今回の疑惑に対して注目されるのは、欧州勢、中国、ロシアがゲオルギエワ専務理事の続投を支持していたのに対して、IMF出資順位第一位の米国と同2位の日本が留保の姿勢を示してきたことだ。とくに米国議会では伝統的に国際機関の出資や運営について厳しく当たってきた歴史がある。コロンビア大学のジェフリー・サックスは「IMF専務理事への攻撃には反中国の気運が高まっていることが背景だ」と同専務理事を擁護してきた。
しかし、最終的には24人のメンバーで構成される理事会でゲオルギエワ専務理事の続投が決定された。
理事会後、声明を出したIMFでは「世銀時代にゲオルギエワ専務理事が中国の順位引き上げで不適切な役割を果たしたとの証拠は見当たらない」「提出された証拠を吟味した結果、同専務理事のリーダーシップ並びに今後も責務を負っていくことについて全面的な信頼(full confidence)をくつがえすことにはならなかった」とコメントしている。
とはいえ、IMFの権威がぐらつき、米国政府、議会がIMF、世銀などの国際機関に対して従来以上に厳しい姿勢をとっていくことは間違いない。
米国のジャネット・イエレン財務長官は最終的に米国がゲオルギエワ専務理事の続投を支持したとはいえ、「米国財務省は今後もモニター、フォローアップを続けて、新たな事実が出てきた場合の再評価を怠らない」と議会の反発を考慮したコメントを出している。
ホワイトハウスも今後もIMF、世銀の動向をフォローする趣旨の声明を出したものの、共和党議員からは激しい反発を浴びせられている。