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バイデン政権 莫大支出でクリーンエネルギー革命

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【経済着眼】中国からクリーンテック覇権を奪えるか

公開日: 2023/03/10 (ワールド)

Reuters Reuters

 バイデン政権成立後、米国では温暖化防止のためのクリーンエネルギー政策が、トランプ政権の反動もあって急速に高まっている。トランプ大統領は米国を地球温暖化に関するパリ協定から離脱させた。トランプ政権は、石油、石炭などの豊富な化石燃料を基に世界における米国のエネルギー支配を目論んだ。

 しかし、バイデン大統領はこのトランプ路線を急速に修正、昨年8月にはインフレ削減法(Inflation Reduction Act: IRA)を成立させて、米国史上最大規模の温暖化防止政策を織り込んだ。クリーンエネルギーへの転換等で2039年までに総額3,690億ドルの税額控除、補助金、貸付などを提供する野心的なプログラムである。

 なお、その温暖化防止政策を骨子とする法案が「インフレ削減法」となっているのは、最低法人税率15%の導入、処方箋薬価の引き下げ交渉権を政府に賦与して歳入増加を図って折からの高騰するインフレの抑制につなげるという趣旨である。しかし、民間研究機関などによると、インフレ抑制の効果は限られているようだ。

 バイデン政権は、IRAを通じて、全米において太陽光発電、炭素吸収装置、クリーン水素エネルギーに至るまでクリーンエネルギー革命とも呼ぶべき現象を起こしつつある。税額控除、補助金の供与などを通じて民間部門のクリーン投資を活性化させることも視野に入れている。税額控除の対象だけ見ても、太陽光パネル、風力タービン、バッテリーの製造設備、さらには鉄鋼、セメント工場での大気汚染を削減する設備導入、二酸化炭素回収、直接空気回収などの広範にわたっている。さらに電気自動車(EV車)購入にあたっても一台あたり最大7,500ドルの税額控除を受けられる。

 これは世界最大の米国経済を脱炭素社会へと変革させることにつながる。しかも炭素税取引といった価格メカニズムを使わず、直接的な支援で投資等をプッシュしようという狙いである。同時に製造業の再興を通じてラストベルト地帯を再活性化させようといった産業政策的な意味合いも大きい。

 2031年までに1,140億ドルを投じて再生エネルギー開発投資を飛躍的に高める。税額控除は米国の投資家にとって魅力的であるだけでなく、外国の投資機会をも吸い取ってしまう、と特に欧州諸国が懸念している。現に昨年8月のIRA成立以来すでに900億ドルの資本が新規プロジェクトに投下されている。

 米国はIRAのもたらす税額控除等によっていまやクリーンエネルギーの投資機会に最も富み、最も収益力の高い市場になってきた。ただ米国企業優先の保護主義、国家介入の大きさはパリ協定の再加盟を訴え続けてきた同盟国ですらいら立たせている。

 フランスのマクロン大統領は「IRAは西側世界を分断することになる」と批判した。フォンデアライアン欧州委員長も「IRAは(税額控除等を通じる)不公正な競争と閉鎖的市場をもたらす」と不平を述べた。しかし、米国サイドは「米国の税金を使った政策で米国の企業を優遇するのは当然ではないか」とこうした見方を一蹴している。

 自動車王国であるドイツでもEV車の税額控除を得るにはバッテリー等の部材を米国産に限るなどの規制に困惑している。国内から米国に生産拠点がシフトするからだ。実際、ホンダ、現代、BMWなどの自動車メーカーもIRAの成立をみて米国内にバッテリー工場を建設すると発表した。

 EU諸国はクリーン水素(太陽光、風力発電を利用して水を分解して水素を作る)の供給をスケールアップさせるように取り組んできた。脱酸素を早く進めるとともにロシアからの天然ガス供給に置き換わるエネルギー源として水素を考えているからだ。EUは迅速な対応を図ったが、米国の税額控除等の大胆な措置は競争力に優れているため、EUにとって大きな脅威として立ちはだかっている。

 米国政府が高騰する物価とロシアのウクライナ侵攻問題に忙殺されている時に米国が果たしてグローバルなエネルギー秩序を再構築できるのであろうか、と疑問を抱く向きも多い。

 とくに国内でクリーンテック関連の高賃金労働を創造するようなことができるのであろうか疑問を抱く向きも多い。バイデン大統領は「風力タービンの羽根をピッツバーグでなく北京で作らなければいけない理由があるのか」とクリーンテックの国内産業の育成に熱心である。つまり、IRAは、米国の老朽化したインフラの再開発とペンシルバニアのようにかつての製鉄の拠点からラストベルト地帯に転落した地域での先進的な製造分野への転換を含めた大きなグランドデザインを描いている。

 民間機関の推計によると、IRAの公的支出に加えて民間融資分を含めると、米国におけるクリーン化投資の規模は1兆7千億ドルに達すると試算している。税金面での優遇は、投資採算が限界的な支出を突如として経済性の取れる投資に生まれ変わらせる。例えばバッテリー工場の建設は、税額控除の利用により、工場労働者の賃金水準、米国産原材料の使用度合いなどの条件を満たせば、最大で総コストの50%まで実質投資負担が切り下がる。製鉄業でも高炉から水素利用に製造技術を転換していくような分野では補助金によってプロジェクト総コストが半分近くになるとの試算もある。

 こうしたIRAの優遇措置によってエネルギー貯蔵分野の投資額は、今後10年で3倍増の158億ドルとなり、年間貯蔵量は25GW(ギガワット)と2千万世帯に電力を供給できる水準となると推計されている。また潤沢な補助金は風力、太陽光発電にも利用できるほか、IRAの最も大きな恩恵は、炭素直接吸収技術やバイオ技術などの分野への巨額投資になるであろう。

 バイデン政権は、クリーンテック分野で中国に対して優位性を得ように考えている。しかし、中国はEUのようにはいかない。なぜなら国際エネルギー機関(IEA)によると、中国は電気自動車(EV)用バッテリーの2/3、太陽光発電パネルの3/4を製造しているクリーンテック強国である。クリーン投資の規模も石炭、石油等から他のエネルギーへの転換も他国を圧倒している。バイデン政権は、中国からエネルギーのサプライチェーンならびに21世紀の世界のクリーン技術に関するスーパーパワーの地位を奪うことを狙っている。

 さらに中国に比べた米国の弱点はクリーンテック向けの原材料の産出が乏しいことだ。ほとんどを海外に依存せざるを得ない。世界のコバルトの80%は欧州ならびに中国で産出され、北米は同5%に過ぎない。リチウム精錬の60%が中国である。皮肉なことにIRAが成功するためは中国との交易で安定的にクリーンテックの原材料を入手することが不可欠である。

 中国との緊張関係を考えれば、自国鉱山の開発が望ましいし、GMなどはネバダ州にあるリチウム鉱山の開発に努めている。しかし、それでも世界に占める米国のリチウム電池製造シェアは1割台に過ぎない。中国の原材料供給の地位は大きく揺らぐことはあるまい。

 バイデン政権はIRAの成立によって米国の温暖化ガス排出量を大きく削減できると胸を張っている。2005年から2030年にかけて同排出量は50~52%の削減となると見込んでいる。もっとも、信頼できる民間モデルの試算ではそこまでいかず、同期間中で約45%削減されると試算されている。しかし、州政府等によるプロジェクト認可も遅れなどがあると、同35%程度の削減に留まるという慎重な見方もある。

 認可が遅れるほかには労働力の不足が起きかねないことも目標実現に向かっての重大な支障となる。クリーンテックの導入に向けて50万人以上の建設労働者の追加が必要となる。たしかにバイデン政権が狙うように雇用創出につながるのではある。

 しかし、クリーンテック開発業者にとっては昨今の労働需給の逼迫の下で労働者不足の懸念が強まってきている。これは将来のプロジェクト建設に向けて憂うべき事態と言えよう。

 クリーンテックへの移行により錆びついた米国の製造業を再活性化するという壮大な目標は中国とのクリーンエネルギー開発の競合など米国が地政学的な戦略にどのように取り組んでいくかにも依存している。しかし、数々の問題点が指摘されながらも、世界最大の経済大国ががむしゃらに温暖化防止のための投資促進に向けた姿勢を示した意義は大きい。

俵 一郎 (国際金融専門家)

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