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EU統一を守った欧州基金、豹変メルケルが指導力発揮

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【経済着眼】共通債は財政統一へ一歩 南欧経済の立ち直りは微妙

公開日: 2020/08/05 (ワールド)

Reuters Reuters

俵 一郎 (国際金融専門家)

 7月21日、新型コロナウィルスの感染拡大で大きく傷ついたEUの経済復興を目指す復興基金(7,500億ユーロ)と次期中期予算(2021~2027年、1兆740億ユーロ))が5日間におよぶ首脳会議での協議を経てようやく合意された。
 
   EU域内27か国の4~6月の実質成長率は前期比12.1%減、年率換算では40,3%減と過去最悪の落ち込みとなった。新型コロナウィルスの感染拡大を反映して経済活動は各国とも大きく低下した。とくにイタリア、スペインなど観光産業やサービス業のウエイトが高い南欧諸国の落ち込みが激しい。イタリアの実質GDPは前期に12.4%減、スペインは同18.5%減となった。

  未曽有の景気悪化に直面して、EU最大の危機、ととらえて積極的に動いたのはドイツのメルケル首相とフランスのマクロン大統領だ。とくにメルケル首相は、かつてのギリシャ危機の際には緊縮政策の導入に中々首を振らないギリシャ政府に業を煮やしてEU離脱を迫ったほど、厳しい緊縮論者であった。しかし、今回、もともと親EU姿勢の強かったイタリアではコロナ感染が急速に拡大して、経済も苦境に陥った。それにもかかわらず、EUからの経済支援が得られず、急速に反EUの姿勢を強めた。メルケル首相はここで思い切った経済支援を進めないとイタリア、スペインのEU離脱もありうるとの危機感から無償援助を骨子とする復興基金の創設を主導したのである。

  総額7,500億ユーロの復興基金は独仏の原案では当初、返済義務のない補助金が5,000憶ユーロ、返済義務のある融資が2,500憶ユーロと2/3をいわゆる贈与主体で占める大胆な案であった。しかし、「倹約4か国(オランダ、オーストリア、スウェーデン、デンマーク)」が財政規律の緩いイタリア、スペインなどに対する多額の補助金支出に強硬に反対した。妥協が図られて最終的には補助金が3,900億ユーロ、融資が3,800億ユーロに落ち着いた。

   それでもこの復興基金が政治的にはEUの統合強化に向けての重要な一歩であり、経済的にも低迷を続けてきたEU経済の起爆剤になりうる、と市場の期待には大きいものがある。こうした期待に伴い通貨ユーロは米ドルの全面安のなかでも最も上昇幅が大きくなっている。

  7,500億ユーロに及ぶ資金は、主としてトリプルAの格付けを有するEUが欧州金融市場で債券を発行して調達する。初のEU共通債としての発行であり、画期的といえよう。また欧州の債券市場にとってもかねてより共通債発行については、ドイツや「倹約4か国」などの財政ポジションの良好な国から財政コストの増加につながる(単独であればもっと低い金利で発行が可能ゆえ)と忌避されていた経緯がある。いずれ財政統合に進む大きなステップともみられている。また規模は小さいものの、再生不能のプラスチックごみに対する課税をEU固有の税収とすることも認められた。

   また資金使途は欧州グリーンディールやデジタル化の推進という欧州委員会がユンケル委員長時代から提唱してきた欧州再興戦略とも密接に結びついている。たとえば、総額7,500億ユーロの90%をしめる「回復と復興ファシリティー(RRI; Recovery and Resilience Facility )」では、資金の申請国が地球温暖化防止やデジタル投資と紐(ひも)づけた「回復復興計画」を欧州委員会に提出して承認を得るという手続きを経る。

   復興基金の70%は2021~2022年中、残りの30%は2023年末に利用されることを想定しており、その意味では一時的なファンドである。当初2年間の配分額は過去の失業率と一人当たりGDPに基づき、また23年の配布額は実質GDPの落ち込みに基づいて22年6月に計算される。

   専門家の試算によると、RRI最大の享受者はイタリアで655億ユーロ、次いでスペイン590億ユーロ、フランス374億ユーロと予想している。イタリア、スペインは今後3年間、GDPの5%相当という巨額の経済支援を得られることになる。ただ、ここでも「倹約4か国」の要請で、イタリア、スペインなどを念頭に置きながら「加盟国が復興計画からの「重大な逸脱」があると判断した場合の申請却下を盛り込んだ。

   このほかにも「倹約4か国」は英国のEU離脱で撤廃を要請していたEU予算の支払いを減免するリベート(EUへの拠出がEUからの受け取りを大幅に上回っているため、英国であれば拠出額の25%の払い戻しを受けていた)を継続することにも成功した。

   いずれにしても今回のEU復興基金は、メルケル首相が従来路線を180度転回した大胆な決断によって成立させて、EU分裂の危機を免れさせたといえよう。イタリア、スペインの国債スプレッドも急速に縮小した。難関であった共通債発行にこぎつけて財政統合への一里塚を築いた意義も大きい。

   ただ、「倹約4か国」が懸念するように最大の問題はイタリア、スペインあるいはギリシャといった南欧諸国がコロナショックによる経済危機を乗り越えて再生できるかにある。これら南欧諸国の経済はコロナショック以前から低生産性の産業構造やルーズな財政支出から悪化を続けてきた。融資の返済も危ぶまれるのも確かだ。一言で言えば、復興基金の成立だけで南欧諸国の国債や株式を安心して買っていくのはなおリスクが伴うということである。
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