ブラジルの国営石油会社、ペトロブラス汚職事件の激震が鳴りやまない。昨年3月に連邦検査院からの指摘を受けて、司直の手が入り、ペトロブラスの元購買部長らが逮捕された。その取り調べで、ほぼ10年近くにわたり、調達先企業に水増し契約を繰り返させて裏金を作り、それが政治家などの手に渡ったことが分かった。
今月、検察当局が最高裁に政治家を中心に捜査開始承認を求め、47名の捜査を承認した。この中にはルセフ大統領の連立与党であるブラジル民主運動党(PMDB)のカリェロス上院議長と下院議長のクーニャ氏の名前も挙がっている。
野党の告発によると、ペトロブラスから政治家などに流出した規模は33億ブラジルレアル(約1,600億円)という巨額に達している。ルセフ大統領自身が鉱山エネルギー相時代にペトロブラスの取締役会長を務めているが、目下のところ、関わりはない、とみられている。またペトロブラスは国際的な会社で米国預託証券(ADR)などを発行しているため米国で訴訟を起こされているほか、スイス、日本の企業も調達先として水増し契約を強いられたと報道されるなど、その影響は国際的にも拡がっている。
ペトロブラスはかつて、新興国の国営石油会社でも屈指の優良会社であった。2006年にはリオデジャネイロ沖で世界最大級の海底油田が発見され、株価は100レアルを超えるまで急伸した。しかし、この油田発見がかえって仇となり、労働党政権が「金のなる木」として同社の経営に深く介入してきた。国内企業からの優先調達指導、さらには人気取りのためにガソリンの国内販売価格の抑制を課す、などのナショナリスティックな石油政策を課してきた。
もちろん、海底油田の開発は資金面で大きな重荷となり、総債務は1,300億ドルと世界最大の債務を背負う石油会社となった。そこに今回の汚職疑惑が発覚したことも加わり株価は8レアルとピークの1/10の水準まで低下した。同社は、S&PやMoody’sによる格下げにより、一部格付けではジャンク債のステータスまで落とされた。
ペトロブラスの汚職事件を取り上げるのはブラジル経済の一段の悪化をもたらすからだ。経済的にもペトロブラスの投資額は同国投資の1割を占める巨大な存在であるほか、同社の信用力悪化は国債の引き下げにもつながる。ブラジル経済は資源輸出の低迷などから、すでに高インフレ、低成長のスタグフレーションに陥っており、2015年の成長率は▲0.8%とマイナス成長の見通しである。物価は中央銀行のインフレ目標値の上限(6.5%)を上回る7.7%に達している。3月15日には百万人を超える反ルセフの大規模デモが行われるなど、一般国民のルセフ離反も深刻となっている。元々ブラジルの景気失速は、ルセフ大統領による財政支出の拡大による景気刺激策がインフレを呼んだためだ。財政収支が悪化して長年、黒字を続けてきたプライマリーバランスも赤字に陥った。
一方で通貨レアルの暴落とインフレ高進で中央銀行は政策金利を数次にわたり引き上げて12.75%となっている。景気後退でも利下げによる金融緩和を探ることは不可能だ。そもそも、景気が好調の時に着手しておくべき(ブラジルコストと称される)高コスト体質の是正も進まず、ブラジル産業の国際競争力はこの数年大きく後退した。さらに貿易ウエイトが高いのは中国と景気不振のアルゼンチン、ベネズエラなどの近隣の中南米諸国である。こうした逆境経済に加わったペトロブラスの汚職事件。その展開如何ではブラジル経済にさらなる打撃を及ぼしかねないと懸念される。