• tw
  • mail

カテゴリー

 ニュースカテゴリー

  • TOP
  • 独自記事
  • IT/メディア
  • ビジネス
  • ソサエティ
  • スポーツ/芸術
  • マーケット
  • ワールド
  • 政治
  • 気象/科学
  • コロナ(国内)
  • コロナ(国外)
  • ニュース一覧

裸の王様エルドアン、20%インフレなど経済は窮地

あとで読む

【経済着眼】支持率低迷 経済界も離反の兆し それでも強権乗り切りも

公開日: 2021/11/12 (ワールド)

Reuters Reuters

俵 一郎 (国際金融専門家)

 独裁政治を続けてきたエルドアン大統領は、通貨急落、高インフレの中での利下げを強要するといった経済失政のせいで、失業の増大などトルコ経済の急速な悪化をもたらした。同大統領は、首相時代から通算すると20年近くトップとして君臨してきた。

 すなわち首相として2003年3月から10年強、憲法改正により全権を掌握する大統領として2014年8月から現在までつとめている。しかし、経済の悪化を主因に国民の支持率が低下、再来年2023年のトルコ共和国100周年の年におこなわれる総選挙での勝利に赤信号がともりだしている。

 9月の消費者物価上昇率はついに前年比20%近くまで高騰、通貨リラも1ドル=10リラの大台を超えて直近では11.5リラまで下落している。トルコリラは10年前には1ドル=1.8リラであったので通貨価値は10年で1/6に落ち込んだことになる。

 11月3日はエルドアン氏がイスタンブール市長から国政に進出して19年目の記念日にあたった。19年前、エルドアン氏が結党した公正発展党(AKP)の現在の支持率は、2018年の前回総選挙時と比べて10%も落ち込み、同党としては歴史的な低水準といえる30%前半となっている。

 この支持率急落はひとえにトルコ経済の悪化にある。

 最大野党の共和人民党(CHP)のクルチダルオール党首は「あなたは腹をすかし、頻繁な停電にも苦しめられている。さらに逮捕されて牢獄に入れられるかもしれない。しかし、今は耐え忍ぼう。もうそうした生活は(エルドアン政権の終焉により)長くは続かないから」と国民に呼びかけている。

 実際、世論調査によると9月にはAKPが勝利できないとの見通しが50%を越えた。しかし、健康不安も噂されるエルドアン大統領はこうした野党の攻撃にも全くひるんだ様子はない。

 エルドアン大統領は「利上げがインフレを生む」という独自の哲学で中央銀行に利下げを強いてきた。トルコ中銀は、同大統領の意向に沿って10月にはインフレ高進のさなかに利下げを強行した。

 しかも世界中の中央銀行がコロナ後の金融正常化を目指してむしろ利上げや量的緩和の段階的縮小に動き始めた時にだ。このような危なっかしい行動は当然の結果としてトルコリラの一段の急落を招いた。

 さらにエルドアン政権は、米独仏など西欧諸国の10名の駐在大使を国外退去処分にしようとした。結局は撤回したが、トルコ外務省によると、退去させようとした理由は、彼らが牢獄に囚われている博愛主義者(オスマン・カワラ氏、抗議活動やクーデター未遂事件の容疑)の釈放を求めるという内政干渉を行ったからだと説明している。

 このようにトルコは内政、外交、経済ともに一段と悪い方向に向かっている。このため、さすがのエルドアン体制にも綻(ほころ)びが見え始めている。官僚も及び腰になり、AKPとべったりであった経済界も支持率が急上昇している中道右派の善良党(IYI)などに接近を図っている。

 67歳のエルドアン大統領自身も公衆の前で居眠りをするなど疲れや体力の衰えを指摘する声も増えている。そもそもエルドアン首相(当時)が導入した専制的な大統領制は、内外で難問が山積する中で、たった一人であらゆることを決断しなければならない無理がある。

 大事な、しかし忌み嫌われるような情報はエルドアン大統領の耳には入らないようになった。

 エルドアン体制が長く続いてきた最大の理由は、トルコ経済の高度成長が続き、多くの国民の生活が豊かになってきたからだ。現にパンデミックの影響にも関わらず、IMF見通しによれば今年の実質成長率は9%とインドは下回るものの、中国を上回る高成長となりそうだ。ただ上記のようにその副作用として高インフレ、通貨リラの急落、失業の増加を招いている。

 最大の経済団体であるトルコ工業・企業家協会(Tusiad)は日頃エルドアン体制下の政策への批判については固く口を閉ざしてきたが、「トルコ政府があらゆる犠牲を払ってでも成長優先の政策を掲げることは、中長期的にはトルコ経済にダメージを与える」と警告を発している。

 高インフレが続く中で低所得者層を中心に実質所得が減少を続けている。AKPの20年近い治世の下で最初の10年間は貧困率が急速に低下した。しかし、2019年の通貨危機が引き金となった景気後退で失業者が増加、貧困層も150万人増えて800万人の大台を超えた。

 これに2020年春以降のコロナ感染の拡大が拍車をかけて国民の生活水準は低下の一途をたどっている。一般の国民が経済成長の分け前を享受することには乏しかったと言えよう。

 エルドアン大統領が金利水準を低くすることに拘るのは、支持層である建設、観光業界を支援する狙いもある。しかし、この支持基盤の支援を主眼としたモデルは慢性的なインフレと通貨下落につながり、多くの国民を一層貧しくした。

 トルコの高度成長を支えてきた海外からの直接投資も昨年は58億ドルとピークの1/3の水準まで落ち込んでいる。

 エルドアン大統領は名目的には独立性のある中央銀行に、公然と利下げ実施を要求して衝突を繰り返してきた。海外投資家はトルコにとって4,500億ドルに及ぶ対外債務をファイナンスするために不可欠な存在である。

 エルドアン大統領が経済通と評価の高いアーバル氏を中銀総裁に選出したことは好評であった。しかし、そのアーバル氏も4カ月で解任されてしまった。わずか2年足らずで総裁が3人解任される有様だった。彼の後任のカブジェオール総裁はエルドアン大統領の意向に沿って9月に利下げを行った。

 当然のことながらトルコ中銀への信認はさらに大きく低下してリラも急落を続けた。悪いことに石油、天然ガスなどのエネルギー価格が高騰を続ける中でのリラ急落で輸入金額は大幅に膨らみ、資本流出の加速も招いた。

 エルドアン大統領の薄弱な経済知識は万人が認めることながら閣僚や経済人も怖くて誰も真実を言い出せない状況だ。まさしく裸の王様である。

 このような経済悪化を招いたエルドアン政権ならびに与党AKPは果たして普通に考えれば衝撃的な敗北を喫することになる。2019年にイスタンブール、アンカラの市長選挙でAKP候補が野党統一候補に敗退するという驚くべきことが起こった。野党が結集すれば選挙に強いエルドアン氏でも負けることがあり得る、という教訓を得た。

 しかし、事態はそう単純ではない。トルコの権力の奥深いところと言える情報機関、警察権力、軍隊などはエルドアン大統領をサポートしてきた一種の連合勢力である。彼らがその権力を駆使していまや下降トレンドに入ったともいえるエルドアン大統領を押し上げることも十分にあり得る。

 さらに事態が不利に進めば、エルドアン大統領は、2019年に不正行為を理由にイスタンブール市長選のやり直しを命じたようなことが再現されるかもしれない。さらに同大統領が強権をもってして総選挙自体を取りやめることも考えられる。

 こうした専制的な権力を持つエルドアン大統領に対抗するには野党が統一候補を掲げて戦う必要がある。共和人民党(CHP)、善良党(IYI)、クルド系の人民民主党(HDP)などがまとまって行動する必要がある。

 しかし、AKP支持者がエルドアン政権に失望したといっても、野党勢力を信頼しているわけではない。野党が連携を強化したうえ、AKP候補者を上回る魅力を持つ候補を発掘すること、など努力しない限り強権を駆使するエルドアン体制を崩すのは容易ではないであろう。
続報リクエストマイリストに追加

以下の記事がお勧めです

  • 【経済着眼】 改めて英国経済を弱体化させているEU離脱

  • 【経済着眼】 州知事選敗れる バイデン大統領の敵は誰

  • 俵 一郎のバックナンバー

  • SUBARUアイサイト搭載の日本小型車 米国で相次ぎ安全性で最高評価

  • ラガルドECB総裁が豹変 7月利上げを「宣言」

  • 北欧2国のNATO加盟には疑問

  • 北朝鮮へのワクチン外交を期待

Tweet
LINEで送る

メニュー

    文字サイズ:

  • 小
  • 中
  • 大
ソクラとは 編集長プロフィール 利用案内 著作権について FAQ 利用規約 プライバシーポリシー 特定商取引法に基づく表示 メーキングソクラ お問い合わせ お知らせ一覧 コラムニストプロフィール

    文字サイズ:

  • 小
  • 中
  • 大
  • 一覧表示を切替
  • ソクラとは
  • 編集長プロフィール
  • 利用案内
  • 著作権について
  • メーキングソクラ
  • お知らせ一覧
  • FAQ
  • 利用規約
  • プライバシーポリシー
  • 特定商取引法に基づく表示
  • お問い合わせ
  • コラムニストプロフィール

Copyright © News Socra, Ltd. All rights reserved