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英国、合意なきEU離脱で起きること

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【経済着眼】物流滞留、ポンド下落・・・いいことなし!

公開日: 2020/12/17 (ワールド)

ジョンソン首相=Reuters ジョンソン首相=Reuters

俵 一郎:経済着眼 (国際金融専門家)

 英国もEUも首脳陣が12月末の移行期間終了をもって英国が本格的なEU離脱に向かうと言明している。英国のジョンソン首相は「英国が合意なき離脱(ノー・ディール)に向かう公算が大きくなっている」と悲観的な見通しを述べている。これは、英国は強硬な姿勢を貫くので、EU側が譲歩するしかない、という戦術面からの脅しという面もある。しかし、本当に自由貿易協定(FTA)の締結なしにノー・ディールとなった場合、英国では何が起きるのか、を検討してみたい。

 目に見えて大きな混乱が起きるのは物流関係だ。ドーバー海峡の英国側ではこれまでと違い、税関への申告や課税手続きを受けることになり、通過に多くの時間を要するようになる。標準的な予測では、基幹道路が5000台程度のトラックで埋まり、ロンドンへの配送まで、従来に比べて2日ほど遅れが出るとされている。英国政府ではこうした事態に備えて駐車場やポータブルトイレの設置などに着手している。なお、付言すれば、このトラックの長い車列はFTAが締結されて大部分の荷物が無関税となっても程度の差はあれ生じる。移行期間終了とともに、無税であっても国境をまたぐことで税関への申告、検閲作業が出てくるからだ。

 また従来、トラック運転手は英国免許で大陸内でも走行できたが、ノー・ディールでは国際免許の取得とグリーンカードによる車両保険の証明を携帯しなくてはいけない。一般の旅行者は大陸内の空港であれば、英国人は日本人と同じように非EU旅券所持者の長い列に並ばなくてはならない。

 英国がEUに加盟してから目覚ましく改善したのは食糧事情である。世界一まずいとの汚名をきた英国の食事が大きく改善したのはニンジン、ジャガイモなど以外は自国で採れなかったのがEU加盟によりフランス、スペインなどから新鮮で種類の豊富な野菜、果物やチーズなどの乳製品が入荷するようになってからだ。ノー・ディールでとくに影響を受けるのは在庫のきかない腐りやすい新鮮な野菜類、例えばレタス、トマトなどである。関税も加わり価格は急騰するであろう。大手スーパーの予測では野菜類全体では5%程度の価格上昇が避けられないようだ。

 英国は医薬品製造においてトップクラスである一方、多くの医薬品を欧州大陸から輸入している。ノー・ディールとなれば患者に対する医薬品供給が遅れるといった混乱が生じるのは必至とみられる。現在は英国でもEU統一の医薬品の基準に則って販売されている。しかし、EU離脱後は英国基準に戻れば、相互に医薬品の効能を認識しあうような協定でも締結しない限り、現状では6週間程度の遅延が発生するようだ。命にかかわる問題であるので、病院などはすでに欧州製の医薬品在庫を積み上げている。

 産業界では、自動車産業がもっともノー・ディールの悪影響を受けよう。英国は毎年おおよそ150万台の自動車を輸入している。これにWTOの関税率10%がかかる。これを避けようと、国内生産車に切り替えようとしても部品の多くは大陸から調達するしかないのでやはり関税コストが上乗せされる。サプライチェーンは英国、欧州大陸に網の目のように広がっており、英国と大陸を何度も往復して出来上がるようなパーツも多い。一大産業である自動車メーカーの輸出競争力も関税コスト上乗せで弱まっていこう。

 マクロの金融・経済面に目を転じると、まず恐れるべきは英ポンドの暴落であろうか。英国経済が景気後退に襲われて、輸出もWTOベースの関税賦課に伴う価格競争力の喪失から落ち込むため、ポンド売りを抑制するのは難しい。為替の専門家は英ポンドがいきなり対ドル、ユーロに対して2割ほど暴落しても驚かないと悲観的だ。その場合は、対ドルでは現在の1.3ドルから1ポンド=1ドルに向かって減価することを意味する。輸入物価の上昇に伴うインフレ再燃と景気の悪化というスタグフレーションが予想されている。イングランド銀行の金融政策がどちらに向かうかと問われれば、景気優先で一段の緩和に向かうとみる。

 こうみると、EU離脱が経済・金融面で英国にメリットを与えるものが見いだせない。注意すべきはノーディールより自由貿易協定(FTA)を締結した方が経済的な痛手は小さいとはいえ、単一市場ではなくなるデメリットは大きい。輸出の40%を占める欧州市場へのアクセスが税関の検閲などで低下するほか、金融街シティーでも単一市場のパスポートを失い、大陸とのビジネスに悪影響が出てくる。どうみても経済成長にプラス要因は見いだせない。保守党の強硬派などはそれを百も承知で、EU官僚の手から国家主権を取り戻すことに価値を見出しているのであろう。さらには大英帝国への郷愁もあるのであろう。ただ、現実直視のマーガレット・サッチャー元首相が、もはや英国は欧州の一員として欧州共同体に加わらなければ経済発展はおぼつかないと判断してEU加盟を成し遂げた政治的決断の正しさがしのばれる。
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