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ブレグジットのツケ、英国では肉も野菜もガソリンもない

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【経済着眼】移民トラック運転手を追い出し物資不足 さらにインフレに

公開日: 2021/10/11 (ワールド)

ボリス・ジョンソン英国首相=Reuters  ボリス・ジョンソン英国首相=Reuters 

俵 一郎 (国際金融専門家)

 総選挙で圧勝したジョンソン首相だが、このところ支持率が低下の一途をたどり、ついに30%を切った。それもそのはずで、英国民の生活が苦しさを増しているからだ。

 スーパーでは食品不足で棚から野菜や肉がたちまち消えてしまう、ガソリンスタンドに行けば、ガソリンが売り切れている。一方で物価は、モノ不足や国際的なエネルギー価格の高騰で前年比4%と上昇を続けており、イングランド銀行では利上げの予告をしているほどだ。

 最大のイベントでもあるクリスマスが迫ってきた。このままではクリスマスディナーの定番である七面鳥も手に入らないかもしれない。

 英国の経済界ではこのような事態が起きることを早くから心配していた。とくにトラック運転手の目に見えた不足が物流をストップさせかねないと政府に強く訴えてきた。経済界は、経済官庁に対して6月16日にはブレクジットで帰国してしまったトラック運転手に短期ビザを発行する、リタイアした英国人ドライバーに現役復帰してもらう、などの提言をした。

 ジョンソン政権は、そもそもこれが経済界に近い保守党政権か、と思うくらいに経済界に対して辛辣なコメントが目立っていた。ジョンソン首相自身「経済界などくたばってしまえ(fuck business)」と罵倒していた。

 その理由は、経済界がブレグジットそのものに反対を続け、ブレグジットが決まった後も「(移民なきうえで築く)新しい経済モデルに適合しようとしない」と批判を続けてきた。つまり、経済界が低賃金労働に大きく依存していた経済構造を改めようと積極的でないと批判を繰り返してきた。

 しかし、保守党の政策綱領にはテクノロジー投資を活発化させて生産性を引き上げることを通じて英国市民に質の高い生活を送ってもらうとうたっているものの、具体策には見るべきものがない。一言でいえば、ジョンソン首相のブレグジット後の戦略は経済的裏付けがあるものではなく、理念先行の「政治宣言」と言ってよい代物に過ぎない。

 保守党が目指したEU離脱の主目的は移民の流入を抑えて英国人の雇用を増やすことにあった。たしかにポーランド、ハンガリーから大量に受け入れていた移民はブレグジットに伴いビザが更新されないので母国に戻らざる得なくなった。一方で英国人が移民の担当していた汚れ仕事につくのを嫌がり、経済の各分野で、人出不足が目立ってきた。

 その最たるものがトラック運転手と食肉処理業者(butcher)であった。事態が深刻になるにつれて保守党も当初、無視していた6月の経済界提言を全面的に受け入れることになった。つまり、10,500人分の短期入国ビザを発給してトラック運転手や食肉処理業者に入国してもらうことになった。ジョンソン政権は軍人を訓練して免許をとらせ、トラック運転手にあてる措置まで打ち出しているが、間に合うのだろうか。

 しかし、もともと、1万人が過小であり、さらにEU諸国の賃金より好条件を出すことが必要だ。うまくいっても来年夏まで運転手不足等は解決しないと運送業界からは指摘されている。

 10月3~6日にマンチェスターで保守党大会が開催された。AUKUS(オーカス)などの外交問題と並んで危機的状況にある食肉、野菜、ガソリンなどの生活必需物資の不足もテーマとなった。ジョンソン政権は、ようやく大手スーパーTESCOの元トップを顧問に据えて食品不足などの危機に対処する姿勢を見せている。

 しかし、インフレ率は4%に向かって上昇を続けている。さらにコロナ対策として導入された貧困層に対する週20ポンドの補償金の期限切れ、一時帰休スキームの停止なども悪材料となろうとの見方が多い。一方で、需給逼迫による生計費価格の上昇に加えて、ガソリン、天然ガスなどのエネルギー価格も高騰を続けている。

 このままでは物価上昇が続く一方で景気後退に見舞われるというスタグフレーションに陥りかねないと心配される。それでもジョンソン政権の閣僚たちは「食肉やガソリン不足はサプライショックによる一時的要因に過ぎず、すぐに正常状態に戻る」「労働市場の需給がタイト化しているので賃金も上昇してきて景気に好影響を与える」など皮相的かつ楽観的な見方を繰り返して国民や経済界の顰蹙(ひんしゅく)を買っている。

 しかし、経済界はそう楽観的ではない。まず、コロナ感染の拡大でグローバルなサプライチェーンが損なわれた影響を英国も大きく受けている。コロナ前と比べて、コンテナ船の運賃が14倍にあたる一台当たり18,000ドル、輸送期間も2倍となっている。

 すでに港湾停泊能力、物流倉庫も満杯である。さらに加えてコロナ感染の再拡大も懸念されている。

 入院患者数は毎日700名と1月のピークの1/6になっている。しかし、近い将来、クリスマスパーティーのどんちゃん騒ぎのなかでインフルエンザが蔓延し、変異型の新しいコロナウィルスの出現も考えられる。冬の到来とともに病院関係者は決して手を抜けない、と身構えている。

 それ以上に深刻なのは天然ガス(LNG)不足である。欧州大陸での生産が減少し、ロシアからの輸入も落ち込んでいる。在庫水準は払底しており、天然ガス価格は昨年までの平均価格の5倍となっている。英国をはじめ欧州諸国では冬の暖房はLNGなどを熱源に大量のお湯を沸かして、それを家の中で循環させる全館暖房方式を取っている。厳しい冬に暖房が機能しなくなることが恐れられている。

 英国では、物資やエネルギーの不足に悩まされて寒い冬を迎えそうである。ある意味でジョンソン首相が旗振りをしてきたブレグジットの当然予想された悪い面が出てきた、とも言える。トラック運転手、食肉処理業者などのエッセンシャルワーカーを移民に頼ってきた反動が出ているのが好例である。政治的にいかに美辞麗句で飾られたスローガンを叫んだところで、経済原則には勝てないのである。
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