トルコの世論調査会社であるメトロポールによると、エルドアン大統領の支持率は依然として高いが、「支持する」が45.2%であるのに対して「支持しない」は49.0%と「支持する」を上回っている。
与党である公正発展党(AKP)の支持率も26%まで低下しており、2023年に予定されている大統領選、総選挙の結果も流動的となってきた。
エルドアン大統領は「トルコの田中角栄」とも称されるほど一般大衆からの絶大なる人気を誇ってきた。2003年3月にイスタンブール市長から首相に就任、2014年8月には大統領に転じ、2018年6月には、大統領選挙で再任されるとともに大統領にすべての権限が集中する憲法改正を実施した。
この憲法改正で大統領の任期については憲法改正前の任期は含まれないこととなって、2023年に三選されると、2028年まで大統領を務めることができる。
首相時代と合わせると、25年トップの座に就くわけであり、ロシアのプーチン大統領、中国の習近平国家主席と並ぶ長期政権となる。
これまでエルドアン政権を支えてきたのは、かつて平均6~7%に達した高度成長であった。しかし、近年はインフレの高進、経常収支の赤字、通貨リラの暴落というトリレンマ(三重苦)に見舞われてきた。
さらにコロナウィルス感染の拡大が加わって昨年4~6月の実質GDPは前年比-10.3%と二桁のマイナス成長となった。
2021年に入っても消費者物価上昇率が+17.5%(6月前年比)と2年ぶりの高水準となった。失業率も14%程度と高い水準で推移しており、一般国民の怨嗟(えんさ)の声が高まってきた。これが支持率低下の最大の要因とみられる。
エルドアン大統領は、建設業界に強力な支持基盤を持つため、インフラ整備には熱心である。空港、道路、トンネル、橋など多くのインフラ整備を手掛けてきた。今後10年間でもインフラ・プロジェクトは合算すると3,250億ドル(35兆円)に及ぶ規模である。
代表的な計画が「イスタンブール運河計画」と呼ばれる黒海とマルマラ湾を結ぶボスポラス海峡と並行して全長45キロの人口運河を着工しようというもので、総工費は150億ドルに達するとみられる。
先月の着工式で、エルドアン大統領は「偉大で力強いトルコ建設の基礎を与えるものだ」と力説している。しかし、野党の共和人民党(CHP)出身のイスタンブール市長が森林破壊や農地への塩害などの環境破壊が進むと反対の意を表明している。
エルドアン大統領は、「高い金利が高いインフレをもたらす」という独特の経済哲学を表明するとともに、通貨リラ防衛とインフレ抑制のために金利引き上げを図ってきた中銀総裁を次々と辞任に追い込み、この2年余りで3人の総裁が解任された。
そのうえで、エルドアン大統領は6月1日にはTVインタビューで「7~8月には金利を引き下げるべきだ」「中銀総裁とも協議した」と明かして国際金融市場の信頼を一段と低下させた。
エルドアン大統領の指名した現職中銀総裁が利下げに踏み切れば一段のリラ安は必至である。トルコ・リラは3月に利上げを実施した総裁を解任して以降からだけでも15%程度下落して最安値を更新し続けている。
エルドアン大統領は2023年の大統領選の再任に自信満々である。おりしも2023年はトルコ共和国の建国100周年となり、同年中に月面着陸を目指す宇宙計画も発表している。
しかし、エルドアン大統領の支持率低下は絶対の選挙基盤であった地方でも起こっている。イスタンブール、アンカラなどの都市層は次第に反エルドアンを鮮明にしている。
エルドアン大統領にとっては、建設業界に恩恵を及ぼす大規模インフラ・プロジェクトの推進や低金利が選挙の武器であることは疑いを入れない。
一方で一般国民の間では、地方を中心にモノの値段が上がり、父や子供が失業するなど生活が一層苦しくなることがエルドアン不支持の拡大につながっている。
エルドアン大統領は、宮殿のような大邸宅に住み、並ぶことのない権力者となった。しかし、こうした国民の声に耳を傾けて政治家になったころの初心に立ち返って愛される大衆政治家に戻るのは難しそうだ。