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ブラジル首都襲撃 ルラ政権への支持も割れる

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【経済着眼】財政・経済再建が急務だが、市場には懐疑派も

公開日: 2023/01/18 (ワールド)

ルラ元ブラジル大統領=CCBY3.0br ルラ元ブラジル大統領=CCBY3.0br

俵 一郎 (国際金融専門家)

 日本でも大きく報道されているように、ブラジルでは1月8日、ボルサナロ前大統領の支持者ら約4千人が議会、大統領府、最高裁を襲撃した。1月1日に就任したルラ大統領は、ボルサナロ氏の支持者から選挙結果を認めないとして退陣を迫られるとともにボルサナロ氏(元陸軍大尉)の出身母体でもある軍にクーデター決起を呼び掛けられるなど、最初から危機的状況に直面している。

 ボルサナロ前大統領は2019年から22年まで大統領の座にあった。しかし、22年10月の大統領選において得票率で49.1%と50.9%のルラ候補にわずか1.8%の僅差で敗れた。

 ボルサナロ大統領は大統領選の1年以上前から「電子投票システムの信頼性に疑問がある」等を理由に選挙に疑義を呈していた。これは当初、大差で貧困層に人気のあるルラ候補に敗れると予想されていた中、敗北を認めない理由作りとみられていた。

 ボルサナロ大統領は、政治的には右派であり、アマゾンの森林伐採による開発を止めず、コロナ感染も「風邪のようなものだ」と一蹴し、その大胆な言動と相まって「アマゾンのトランプ」とも称されて実際にトランプ氏を畏敬していた。

 今回の襲撃は20年1月6日、ワシントンD.C.の連邦議会議事堂を襲った熱烈なトランプ支持者の行動を想起させるものであった。トランプ氏が選挙の敗北を認めず、議事堂襲撃も煽ったとの疑念を持たれている点でボルサナロ氏と共通する。

 ボルサナロ支持者による議会等への襲撃はまず、支持者がブラジル各地からバス100台余りで首都ブラジリアに集結したところから始まった。その後、議会など政府機関に至る7キロの道程を穏健なデモ行進を行っていた。しかし、午後3時ころに政府主要機関のエリアに入ったところで警備の手薄な議会などに大挙して乱入するところとなった。

 富裕層、保守派の支持を得たボルサナロ氏は、敗北後は選挙結果に公然と疑問を呈すことなく慎重に行動した。しかし、ボルサナロ氏を支持する熱烈な支持者は、大統領選の直後からトラック運転手らの手によって高速道路を封鎖し、物流の混乱や国際空港の閉鎖にまで追い込んでいった。そして今回は、議会等襲撃事件を起こして、国家の政治権力の中枢に打撃を与えた。

 襲撃事件を起こした約1,400名の暴徒が警察に逮捕された。さらにボルサナロ政権で法相を務めたトレス氏がブラジリアの公安部門トップとしてわざと警備を手薄にした嫌疑で逮捕された。ボルサナロ氏もルラ氏の大統領就任式を欠席して年末から米国のフロリダ州で静養していたが、最高裁は検察が「SNSを通じて暴徒化を煽ったという」嫌疑で捜査対象に加えることを許可した。

 今後、世界を揺るがした襲撃事件の真相が徐々に明らかになってこよう。ただ、ブラジル国内ではボルサナロ側のみならず、ルラ大統領側にも問題がある、との世論調査が出ている。回答者の40%がルラ氏は大統領選で勝利していないのではないか、従って議会等への乱入も正当化されるとの回答が38%を占めた。

 ルラ氏は77歳の高齢で既に大統領を二期経験して、ジルマ・ルセフ氏に大統領の座を譲り渡した。しかし、ルラ氏はラテンアメリカ最大の贈収賄事件と呼ばれた「カーワッシュスキャンダル」(洗車場でペトロブラスからの賄賂を受け取ったとされたため)で懲役刑を受けた。ルラ氏の実刑判決、ルセフ氏の辞任がその後ボルサナロ大統領の登場にもつながった。

 その後、一審の裁判所には事件の管轄権がないとしてルラ氏は釈放されて、22年10月の大統領選に出馬することができた。ボルサナロ氏の支持者は「ブラジルの軍人は清廉潔白であり、政治腐敗に染まったルラ氏は信頼に値しない」と激しく抗議してきた。大統領選の最終局面でボルサナロ氏の激しい追い上げにあったのも国民がルラ氏の腐敗事件関与を忘れていないからだ。

 ルラ大統領は、社会的、人種的な公正を実現すること、貧富の差をなくすこと、アマゾンの森林伐採を抑制して環境保護を優先することなどを公約してきた。外交面では、前政権の親米一本やりではなく、開発途上国のリーダーとして西側諸国に影響力を及ぼしていくこと、などを謳っている。こうした多面的な外交スタンスはロシアや中国には歓迎されるものとみられる。

 ルラ政権の再登場は必ずしも歓迎ばかりではない。国際金融市場では、当初期待していたほど財政再建に対する責任感が希薄であること、左派政権として市場への介入も少なくないこと、などの失望の声が上がっている。

 財政面ではルラ政権が貧困層への給付金増額の足かせとなる、憲法上規定されている歳出上限枠を撤廃しようとしていることに批判が寄せられている。ルラ政権が、国営石油会社ペトロブラスや国営の開発銀行を経済発展の機動力として使っていく、という姿勢も過去の経済失政を想起させている。

 先日発表された財政再建策はその意味で極めて重要である。すなわち増税と歳出削減によって今年のブラジルの財政赤字を2,310億レアルまで赤字幅を縮小させたうえ、来年には若干の黒字に転化させるという意欲的な内容となっている。

 しかし、市場ではこのような財政緊縮策が実現できるかどうか懐疑的である。なぜなら、歳入を1,900億レアルも増加させる一方で、歳出を500億レアルも削減するという内容だからだ。本当に達成する意思があるのか疑いを有する市場関係者も多い。

 大統領選での接戦は、ルラ大統領の出身政党である労働者党(PT)に対する信頼がいかに薄いか、という証左でもある。前記のようにラテンアメリカ最大の政治腐敗スキャンダルで訴追されたPTのルセフ元大統領はブラジルを最近60年間で最大のリセッションに突入させた。PTは二度とこのような事件に巻き込まれないと確約する必要がある。

 暴徒の襲撃事件も次第に落ち着いてこよう。しかし、分裂した国民を再団結させてラテンアメリカ最大の経済大国を蘇らせなければ政権の安定もない。ブラジルが置かれている厳しい政治ならびに経済情勢に照らして、ルラ大統領は現実を直視したプラグマティックな統治を心掛け、彼を再び政権の座に付けた有能な政治家や学者などの才能を結集して政治運営にあたらねばならない。

 そのためには政治腐敗のない、貧富の格差を是正した社会正義の実現、環境保護、持続的成長という目標の実現に邁進しなくてはならない。そのためには税制の簡素化、教育改革、インフラ投資の拡大、などに大胆に行動することだ。

 ただ、その目標を達成する資金調達計画が伴っていない。既に対外借り入れは限界である。租税負担率も先進国と変わらない高水準であり増税余地には乏しい。しかし、「ブラジルコスト」と呼ばれる高い行政経費の見直しや効率化によって、政策実現の経費を生み出す余地は大きい。

 さらに政治的混乱を収拾して海外からの投資を呼び込み、自由化により貿易の拡大で資金を調達することも必要だ。ルラ大統領は少なくともこの10年、停滞を続けてきたブラジル経済を力強く持続可能な成長経路に戻すことがもっとも重要である。これが出来なければルラ政権の命運も尽きるであろう。
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